有精卵の出会いと悪意とUSJ
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再び教室に戻って、自分の席に向かう途中で轟くんの横を通ると右手首をガシッと掴まれた。当たり前だけど私は立っていて彼は座っているから、若干上目使いに見つめられて少し恥ずかしい。さっきまでの醜態を見せてるから余計にだ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。色々ごめんね、助かった」
「…あぁ」
「轟くんはあったかいね〜」
今だって私の腕をつかんでいる左手は、ちゃんと加減されてるのがわかる。あの時氷を溶かしてくれた手だけじゃない、言動も温かさに溢れてた。入学時から一人でいて、一匹狼みたいにクールな男の子だと思ってたけどきっと根はとても優しさで溢れる子なんだろう。強くて優しいだなんて、とてもヒーローだ。
そんな意味を込めた私の言葉は轟くんは理解できなかったらしく「まださみぃのか?」と言うので笑いそうになった。少し天然が入ってるのかもしれない。それにしても心配そうに覗き込んでくる顔がいい。イケメンさんだ。
大丈夫!本当にありがとう!と明るい声で告げると掴んでた手が離される。席に戻ると一連の光景を見ていたらしい響香や瀬呂くんにニヤニヤされたが無視しておいた。いやーあんなかっこいい子と噂なんて申し訳ない。
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事情聴取の教室はとても小さいところだった。そこに何人かの警察官がいて状況と相手の情報を聞かれる。私は実際相手をして個性についても分かっていたので、かなり有益な情報になったらしい。無茶して飛び込んだことはちょっと怒られたけど。
思っていたよりも早く終わって、職員室に向かうとひざしさんとねむりさんが出てきてくれた。
「もう寝てなくて大丈夫なの?」
「はい。すみませんでした、心配かけて」
「全く、腕だけで済んで良かったな」
「…うん、本当に」
「心は賢いからこれ以上言わなくても分かるな?」
「はい」
ちょっとだけ怖い顔をしたひざしさんに頷けばすぐに笑顔になって準備をし始めた。さすがだ、消太さんの所に行きたいという前に察してくれた。ありがたや。ねむりさんはまだもう少しお仕事が残っているらしい。
車に乗り込んで、スマホを見てみるとすごい通知の量だった。ほとんどが連絡先交換済みのクラスメイト達だ。そうか、出席番号が最初の方の子達は会えてない。こんだけ心配させてほんとに申し訳ないや。強くなりたい。
「ほい、着いたぞ。…んな顔するな、イレイザーは無事だったんだから」
「うん……うん。怒られちゃうね」
「俺ァちょっと飲み物買ってから行くから、先行ってな」
「ありがとう」
気を使ってくれたひざしさんに感謝しつつ、病室へ向かう。ナースセンターまではひざしさんが来てくれたのでスムーズだった。なんせ独身ヒーローの元に女子高生のお見舞い、だなんていくら消太さんがメディアを避けてても話題になること間違いなしだ。私はちゃんと家族だと思っているけど、世間は簡単には認めてくれないだろう。
たどり着いた病室のドアをノックして、部屋に入る。包帯だらけで顔も見えないのに、ピッ、ピッと無機質な音が響いてるだけで安心した。生きてる。ちゃんと、生きてる。
「消太、さん」
思っていたよりも情けない声が出た。体は起こせないが意識はあるようでため息が返ってくる。笑顔でいようと思ったのに、そばに座るとダメだった。ボロボロと溢れて止まらない。表情は見えないはずなのに、そんな私を見透かしたように消太さんはまたため息をつくだけだった。
「なんであのときでてきた」
「…体が勝手に動いてました」
「人数も実力差もよくわかってたろ」
呆れた、怒ってる、というよりは諌めるような表現がぴったりの声色。確かにあのときは必死で冷静さなんて言葉はなかった。消太さんがボロボロにされた相手。私が飛び込んだところで出来ることは限られていた。でもあの判断は絶対間違いじゃなかったと思う。
「だって、あのときいかなきゃ後悔してた。…私の知ってるヒーローは絶対、ああするって思った」
私の両親も、消太さんも、ひざしさんもねむりさんも、きっとあの場面ならああした。やり方は違えど絶対助けに飛び込んでた。「だから間違いだなんて思ってない。最善ではなかったと思うけど……」そういえばまたため息が返ってきた。でもその音は温かい。
「翠蒼さん達にどんどん似ていくな…」
「お父さんたち…?」
「ああ。確かに俺はお前に助けられたよ。だから心のしたことはヒーローとしては間違ってないだろうな」
「ほんとう…?」
「でも、最善で助けてこそヒーローだ」
包帯で巻かれた腕にそっとおでこを付けて、すがり泣く。私が助けた、助けられた。その事実が嬉しくて、でもこんな姿にさせてしまったことが悲しくて。
「消太さん、私もっと強くなりたい」
「…なるんだろ」
「ん」
今のままじゃダメだ。みんなに心配をかけさせた。もっと安心させられるような、最善で助けられるヒーローになりたい。いや、なるんだ。
だから今だけは泣かせて欲しい。
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