有精卵の出会いと悪意とUSJ
namechange
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*
飛ばされた場所はさっきよりも広場までそこまで遠くない場所。この距離ならすぐ戻れる。きっと向こうは余裕が無いんだ、焦って私を飛ばすことで精一杯だった。ならもう一度いけば、
「翠蒼!」
「私が来た!!」
ぐしゃぐしゃになりかけてた思考が止まる。さっきまで一緒にいた轟くんの声に、広場から聞こえるオールマイトさんの声。その瞬間肩の力が抜けて視界が広くなる。
「お前、その怪我、」
「大丈夫。まだ動けるし、血はほとんど私のじゃないよ」
「…せめてこれ巻いとけ」
そういって轟くんは自分のシャツの袖を破って手首を止血してくれる。ああ、さっき氷とかした時に止めてた血の塊も溶かしてしまったのか。気づかなかった。お礼を言って広場に2人で走る。
「あったかい、ね。私、生きてる」
「…寒いのか?」
左手を使って両手で私の手をつつみ温めてくれる。イケメンはやることまでイケメンなのかと場違いな感想が浮かぶ。でもそんな余裕ができるのは、安心からだ。
生きてるだなんて言ってしまうほどさっきまで、怖かったのか。それを認めるとさらに楽になった。とはいえいつまでも手を握ってもらうわけにもいかないし、お礼を言って外してもらう。
広場に着くとオールマイトさんがあのデカブツに1人で戦っていた。消太さんは、と咄嗟に探す。梅雨ちゃんと緑谷くん、峰田くんの所にいた。良かった。
そんな少しの安心もつかの間、オールマイトさんがデカブツに脇腹をやられてる。その下に忍び寄るのはあの黒いの。
「轟くん!オールマイトさん凍らない程度にあのデカブツの腕固めて!!氷で!!」
「お前は!?」
「胴体の方を壊す!!!」
水を流す先から固めていけば、轟くんの氷結に負けないスピードは出せる。2人分ならあのデカブツの細胞ぐらい壊せるはずだ。
その氷結が届いたと同時に、爆豪くんはあの黒霧とやらのワープゲートを押さえて切島くんが手だらけの気持ち悪いやつに殴り掛かる。爆豪くんや、推理はさすがだが言動がヒーローじゃない、だが今は全力で同意だ。
「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなあ、最近の子どもは…恥ずかしくなってくるよ、敵連合…」
そんな手の野郎の言葉と共に脳無が動き出す。壊れた体を、動かした。個性はショック吸収だけじゃない、超再生もあるオールマイトの為に"創った"だなんて。脳無なんて名前の改造人間じゃないか。そんなのただのそこら辺のチンピラ集団のやることじゃない。
たった1発拳を振り上げた風圧で、限界を遠の昔に迎えてた体は、座り込んでしまった。大丈夫か聞いてくる轟くんに笑ってみせたけどちゃんと笑えたか分からない。
「加減を知らんのか…」
「仲間を救ける為さ、仕方ないだろ?あー……ほら、そこの女と地味なやつ。女に関しては脳無を殺そうとしてたな。地味なやつも俺に思いっきり殴りかかろうとしたぜ?他がために振るう暴力は、美談になるんだろ?」
…確かにさっきの私は、確実に私欲で殺しにいった。そのために個性を使った。それは敵のやることだ。「そうだろ、ヒーロー?」と私たちを見やるあいつと、同じなんだ。
「俺はな、オールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされて善し悪しが決まるこの世の中に!
何が平和の象徴!所詮抑圧の為の暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだとお前を殺すことで世の中に知らしめるのさ!」
「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだ、この嘘吐きめ」
「バレるの早…」
こちらからはその表情は分からないが、オーラがやばい。それに気圧されるゾクッと気持ち悪さが背筋を駆け抜ける。だがそれでも立ち向かおうとする轟くん達をオールマイトさんが制した。プロの本気をみていなさい、大丈夫だから、と。
そんなオールマイトを放っておいてこちらに向かってくる手の野郎に、ほとんど限界を迎えてる体にムチを打って立ち上がろうとするも足に力が入らない。
目の前に、敵がいるのに。
ああ、消太さんに怒られてしまう。体力がないことはどうにかしろなんて言われる。だからせめて、下を向きそうになる顔をせめてあげると、オールマイトさんが脳無に殴りかかって手の野郎が足を止めたのをみた。
そして思い知らされた。それは敵も、私たち生徒も、その場にいた全員、心の底から思い知らされた。
「“無効”ではなく“吸収”ならば!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるならさらに上からねじ伏せよう!」
一つ一つが100%以上とわかるパンチ。誰1人その場から動けない。これがプロ、これがNo.1、これが、平和の象徴。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!敵よ、こんな言葉を知っているか!?」
“Plus Ultra《更に 向こうへ!! 》”
とどめとばかりに出された重い一打であの脳無がぶっとばされた。コミックをみているみたいで、すごい、と思わず声がもれる。粉塵でオールマイトさんと手の野郎の顔しか見えないが状況的に私たちが引くなら今、近くにいた切島くんが手を貸してくれて立ち上がった。
「緑谷」
「僕だけが……」
轟くんの声が聞こえてない。緑谷くんがブツブツと何かを呟いてる。僕だけが、の先は聞こえない。でも、彼は何かをしようとしてる。そう感じた瞬間、元凶へと飛び出していた。その目の前にあの黒いのが広がって、あの手が出てくる。
あの手はダメだ、地面に手をついて氷をはっていくけどスピードが追いつかない。間に合わない。そう思った瞬間だった。
「1Aクラス委員長!飯田天哉!!!ただいま戻りました!」
パンっとあの手を弾いた銃声とともに、聞こえたハキハキとして、少しだけ潤んでいた飯田くんの声。まだ続く銃声の音とそれに混じって聞こえたひざしさんの声に、だんだんと思考がはっきりと落ち着いていくのがわかる。
「今回は失敗だったけど…今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」
その言葉と共に消えていった彼ら。ようやく終わった。その事実を確認してやっと一息吐いた。今すぐにでも消太さんのところに駆けつけたい。なのに体は痛いし異常に寒い。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。でもさっき手、振り払っちゃってごめん。緑谷くん助けなきゃって思っちゃって」
「いや!それは平気だ!それよりどっか痛いなら早く先生のとこいけよ?」
そういって緑谷くんのとこに向かう切島くんは元気だ。私も早く移動しよう、とは頭は思うのに足は動かない。というかさっきまで止まっていたはずの手首の血が止まらない。止めなければと思えば思うほど、固まってくれない。
どうして、止まれ、固まれ、使い慣れない"三態操作"の個性を使えば使うほど、使い慣れた"水"の個性も流れ出てるのがわかる。座り込んだ足元から凍って言ってるのは分かるのに、止められない。
嫌だ嫌だ。もう1人で溺れて、凍えるのは、嫌だ。
.