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名前は灰となりて

✳︎Gルートネタバレ注意


「俺が死んだら燃やしてくれる?」

突然出てきた言葉に歩いてた足を止める。後ろを振り返るといつもの白い髪と白衣を揺らすネームレスが立ち尽くしている。そしてその顔は何かを知ってしまったかのようにどこか諦めを感じさせる表情をしていた。

「へへ、残念だがオイラは火を操る力は持ってないんだ。」
「そっか…。」
「だからそうだな…地上では土葬、土に埋めて還るという弔い方があるんだろ。」
「そうだね…棺の中に死体と、その人の人生に関係するものや花を詰めて、蓋を閉じて土に埋める。そんなやり方。」
「それは興味深いな、だがそれは遠い先の話だ。終活にはまだ早いぜ。」

適当にあしらってまた歩き出す。後ろから足音が聞こえる。ちゃんとついてきているみたいだ。
雪道をただひたすらに真っ直ぐ進む、もうすぐオイラたちの住処にたどり着く。
気づけばまた後ろの足音が止まった。

「サンズ…。」
「…アンタは、何を知っているんだ。」

左、右と視線が揺れ動く。
フリスクと名乗る人間が来てからネームレスの様子は日に日におかしくなっていった。初めは同じ人間という事で警戒しながらも一緒に食事していたりパピルスとパズルしていたりと仲良くしていたはずなのに。最近ではフリスクの姿は見えないし、ネームレスは何か警戒するように心が落ち着かないようだ。この変わりように不安を感じる。
後ろに振り返りネームレスに近づく。上を見上げれば泣きそうな顔が見えた。
こいつは、何を知ってしまったのだろうか。
ネームレスは雪の地面に膝をつき、オイラと視線を合わせた。

「…君を失いたくない。」
「これは熱烈な告白だな。」
「パピルスも、アンダインも、みんな、みんなを失いたくないんだ。」
「これからそいつらが死ぬような口ぶりだな。そんなにあの人間は危険なのか?」
「……サンズ。」

腕が伸ばされる、背骨と肋骨の厚みしかない身体を抱き締められる。
ソウルが近づく、この感覚は不安と悲しみの鼓動だ。ああ、アンタは、これから…。

「ごめんなさい。」
「誰に謝っているんだ。今もこれからもこの世界は平和で、いつか地上に出たら二人でバイクに乗って星空が綺麗に見える砂浜に行く約束しただろ?」
「……。」
「黙らないでくれよ。それともこれはオイラが勝手に抱いていた夢幻なのか?」
「君を置いていく世界を、このデータを、許してほしい。」

ああ、なんだ。アンタも気付いていたんだな。

オイラたちは永遠に地上の先の物語を歩めないことを。

ネームレスの背中に腕を回す、静かに震えている身体を優しく撫でた。それでも震えは止まらなかった。
きっとこいつが最後の審判をすることになったんだな。あいつを相手すること。そしてそのケツイに絶対勝てないことも。それを知ってしまった。
雪がいつもより濃い、いや、これは雪なのだろうか。
もう塵と混ざっていてこれが何なのかは理解したくなかった。

「…なあ、あんたはどこまでできるんだ。」
「覚えることだけ。戻ることも、やり直すこともできない。知っているだけ、何もできない。」
「なんだ、オイラと同じか。それは困った。俺たちは先に進めない怠け者同士ということか。」
「…ふふ。嫌な接点だな、これでは俺もいつか怠け者になってしまうな。」

抱き締めていた腕を解かれ、ネームレスは立ち上がる。
もう行ってしまうんだな。もう少しお前を感じていたかったのに。
雪が濃くなる、彼が見えなくなる。お互い知っているからこそ待ち受ける結末をうまく飲み込めない。でも受け入れるしかないんだ。

「じゃあなサンズ。たまには俺に奢ってくれよ。」
「ああ、…覚えていたらな。」

手を振った。彼の顔は見えなかった。でも見えなくてよかった。
だって今の俺の表情は絶対、見せたくないものだから。



「さて、審判の時が来たぜ人間。随分とLOVEを上げてきたみたいだけど…今どんな気持ちだ?…まあ、いい。今日は素敵な日だ。鳥たちは歌い、花は咲き誇る。雪が輝かしい日に君のような人間は

地獄の業火で燃やしてやるよ。」
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