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名前は灰となりて

夢はいつか覚めると誰かが言っていた。
人間がモンスターと仲良くなるなんて、あり得ないと。
でも俺はそれを信じていた。いつか本物の、人間ではないモンスターに会って仲良くなっていっぱい遊んで手を繋いで帰ったり、笑いあったりするんだと。

殴ったり、痛いことをしないモンスターに会えると、僕は信じていた。

人間は殴るし、痛いことするし、免罪符を掲げ正義のためにひたすら武器を振るう。
だから人間を許してはいけない。人間は敵だ、だから仲良くしてはいけない。

「お前たちのところではそんな風に言われているんだろ。いいのか、俺を匿ってて…。」
「だってアンタはオイラたちに暴力とか振るわないだろ。」
「そりゃそうだけど…。」

いつものように寒空に雪が降るスノーフル、暖かな火とそれが燃やす薪の音が心地良くてつい意識を飛ばしてしまいそうになる。
サンズとパピルスの家の隣の空き家を貸してくれて更にはロイヤルガードから匿ってくれている二人と街の子たちには感謝しかない。この子たちに会ってなかったら俺はもうとっくに死体になっていたのだから。
毛布に丸まりながら暖炉の焚き火を眺めているとどこ落ち着くような、何か親近感があるような気持ちになる。パチパチという燃やす声が俺を眠りに誘うんだ。
目を閉じると頭の上に何かが乗っかる、多分サンズの手だろう。ゆっくりと温もりを与えるように撫でられる頭とその感触にますます眠りに落ちてしまうそうだ。優しい手、こんなこと地上にいた頃にあっただろうか。されるがままに受け入れていると肩を抱かれサンズの肩に頭を乗せるよう促された。

「いいぜ、このまま寝てても。」
「だけど…。」
「安心しな。何かあったら起こすさ。」

言われるがままにゆっくり呼吸して力を抜いていく。冷めたココアが入ったカップは火に照らされ、静かに影を落としている。ああ、これが愛しいと思った者に、信用する者に甘えるという感覚か。
俺はゆっくりと微睡へ身を委ねた。

静かな寝息を立てているネームレスの頭を撫でる。今まで見かけた人間とは違う白い髪は火に照らされオレンジに輝いている。初めて見かけたこいつの姿には驚いた。
煤を、灰を被ったのだろうか薄汚れた髪に焼けた白衣、ボロボロの唇からは「君は…敵?味方?」と聞いてきたもんだ。オイラが敵だったらどうするつもりだったのだろうか。
今となってはわからない話だ。
記憶と名前が無いというから咄嗟に「アムネシア」…記憶喪失と名付けたが嫌がらず街の奴らにはそう名乗っていた。それからは転がるように簡単に街の奴らはネームレスを受け入れた。人間で白い髪は珍しいのかモンスターと同じ感覚なのか。
スケルトンの知り合いかい?きっと似た種族なんだよ。そんな雰囲気で話が通っている。パピルスにもそう話した。とても驚いていたが「俺様たちと同じ骨が入っているのか!?つまりネームレスは兄弟だな!」と、すんなり受け入れたし新しい兄弟ができたことでパピルスもとても喜んでいた。

「アンタには、感謝しているんだぜ。」

撫でる手を止め、そっとその白い髪に口付けた。
この髪はもうあの時みたいに薄汚れておらず、綺麗な白だ。純粋無垢、モンスターと人間の争いも恨み辛みも知らない綺麗な白だ。
この白を汚してはいけない。だからどうか。

「この時が続きますように…ってな。」

二人だけの空間でパチンと火がないた。
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