「…すまない。明日の外出だが急用ができたのだ…」
それはつまり、一ヶ月前から楽しみにしていたデートはキャンセルして欲しいという事だろうか。
　教授は私が振り返って何か言うのを待っている。
　
　多忙な教授が『お前の行きたいところに連れて行ってくれ』と私に言ってくれた日から、ずっとずっと明日を楽しみにしていた。新しい洋服やメイク用品、ネイルカラーも用意していたのに…。教授はそんな私の気持ちを全然わかっていない！…そうだ…。私は咄嗟に一芝居打って教授を振り返った。
　
「教授、気にしないでください。ゴホンッ…実は私も今朝起きたら風邪気味のようで…ゲホッ…丁度良かったす。」
もちろん仮病だ。さぁ、どうする？大げさに俯いて喉を触ってみる。
　教授が私の目の前にやってきて、優しくおでこに手を置いた。そうそう…そうやって私に優しくして。
「すぐに薬を調合する。」
へっ？ダメダメ！それは困る！元気なのに不味い薬はゴメンだ。一芝居打ったものの、教授が薬のスペシャリストだった事をすっかり失念していた！
　
「地下は冷える。これを。」
そう言いながら自分のローブを脱いで私にかけてくれた。優しくて涙が出そう…。急に罪悪感が込み上げる。ごめんなさい。教授が私を一番大切にしてくれてることが今更ながらわかる。
「熱も…ちょっとあるかもです…。薬はいいので側にいてください…」
これ以上はダメだってわかっているのに、もっと優しくして欲しくて教授の手を掴んだ。真っ赤になっている私の顔を見て教授が囁いた。
「今すぐ私にキスして風邪をうつせばいい…」
頭がクラクラして、幸せでどうにかなりそう！
　
「クシュン！」
ムードをぶち壊すように大きなくしゃみが出た。何だか喉も痛くなってる…？
「やはりダメだ。すぐに調合してやろう。」
教授は私の手を離すと背中を向けた。教授を騙したからバチが当たったの？チラリと教授が私を見る。
「病は気からと言うだろう。」
ククッと楽しそうに肩で笑う。
「クシュン！」
仮病がバレバレだったのも、今の大きなくしゃみも恥ずかしすぎて私はローブで顔を隠してただただ反省したのだった。