教授
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ハンカチで手を拭きながらシリウスの所に戻ろうとした私に女性客がぶつかった。
「あなた!早く逃げなさい!火事よ!!!」
…火事?
私は慌ててシリウスのいる個室へと向かう。
「お客様!裏の建物が火事です!速やかに避難してください!!!!」
「名無し!!!!」
後ろから手首を掴まれて振り返ると怖い顔をしたシリウスがいた。
「シリウス、火事だって!」
「早く外へ!急げ!!!!」
店内にいる人達もなるべくパニックにならぬよう冷静に店の外へ避難して行く。
私達も連れだって店の外に出た。
外は想像以上に煙に包まれていた。
空の色が赤く燃え上がっている。
「孤児院が火事なの?」
ハンカチで口を押えながら私はくぐもった声でシリウスに尋ねた。
シリウスも手で口元を押さえながら私を見て頷く。
『助けて!』
『消防車はまだなの?!』
『まだ中に子供がいる!!!!』
人々が叫んでいる声が聞こえる。
こんな時魔法界ならすぐに大勢の魔法使い達が火を消せるのに!
「助けに行く…」
シリウスが燃え上がる炎を見てそう呟いた。
「私も行きます。」
「ダメだ!危険すぎる!煙の来ない場所に逃げろ。」
バチンと音がしたかと思うとシリウスの姿が私の前から消えた。
「待って!!!シリウス!!!!!」
ああ!なんて勝手な人なの?!
シリウスを助けに行かないと!
そう思った瞬間、私の視界が紫色に変化した。
シリウスのいる場所に…行かないと…
視界が弾けて私は光の中に吸い込まれた。
灼熱に焼けた建物の中にいるはずなのに私の体が氷のように冷たい。
「シリウス!!!!どこにいるの?!」
真っ黒な煙の中にいるのに、私の瞳は冴えわたっていて全てのものがはっきりと見える。
「返事して!!!!」
気を集中していくつもの扉を順に見つめて行く。
左側、3つ先の扉に光が浮かび上がる。
「シリウス!!!!」
私はその扉の前に走って行くと、焼けたドアノブに手をかけた。
熱いはずなのに、温度は感じられない。
「名無し!」
扉の開いた気配にシリウスが振り返る。
「逃げろと言ったのに!どうして!!」
「魔法使いが多いほうがいいに決まってます!!!子供たちは?!」
「残っていた子供たちは外に運んだ!もういないはずだ!ここが最後だ!」
私は部屋を見渡す。
紫の瞳は何も反応しない。シリウスの言う通り、もうみんな外に避難できたみたい。
「さぁ、行きましょう!」
煙がまた立ち上って、シリウスは苦しそうな表情を浮かべた。
「シリウス…」
煙に包まれた彼の腕を掴もうと手を伸ばした瞬間、部屋の窓ガラスが砕け散った。
その一瞬私達は動きを止めてしまった。
嫌な轟音が響いて目の前のシリウスの姿を隠してしまう。
真っ黒な煙の中に金色の光がぼんやりと浮かび上がる。
紫の瞳がはっきりと目の前の惨状を浮かび上がらせた。
「…」
大きく崩れ落ちた天上がシリウスの下半身に覆いかぶさっている。
シリウスは苦悶の表情を浮かべて、それでも心配するなという表情で私を見た。
嫌だ…早く助けないと…
…どうして?
さっきまでおいしい食事をして、冗談言って、大口開けて笑いあって…
少年みたいに元気に笑ってたのに…シリウス…
今までに感じたことのない大きな力が私の胸元からせり上がって、周りの全てを吹き飛ばした。
私はシリウスの横に走り寄って彼の頬を触る。
その頬はひんやりと冷たい。
「シリウス、病院に連れて行きます。」
「…デート楽しかった…」
「そんな言い方嫌だな…デートならいつでもしましょう?」
「…約束だぞ…」
私はシリウスに微笑みながら、気を集中させる。
誰かを連れて姿くらましをしたことが無いけれど、今ならきっとできる。
その時シリウスの手を掴む自分の手を見ると、左の小指から金色の色が一本シリウスに向かって伸びていた。
「…シリウス?」
金色の色はゆっくりと伸びて冷たくなって動かないシリウスを繭のように包んでいった。
【あなたは今日、彼と一緒にいなきゃいけなかった】
私の中の私の声がした。
【糸には理由がある】
「玉…助けて…」
涙が突然溢れて私の頬を滝のように伝った。
【どうすればよいかあなたは知ってる】
「…うん…わかってるよ…玉…」