教授
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シリウスは通された個室を楽しそうに見渡す名無しの顔を見つめていた。
今この時間が本当のデートだったらどれほど嬉しかっただろう…。
「壁の絵ですが、日本画に見せかけた中国の絵ですよ!パンダがいるもん…ふふふ」
「俺にはよくわからないが。」
「そうですよね。海外の人の連想する日本は日本人からすると惜しい!!って感じです。若干ズレてます。」
クスクスと可笑しそうに笑う名無しの笑顔を見つめていると胸がギュッと締め付けられた。
「……。勝手だと思っただろう…」
突然の問いかけに名無しの顔が引きつる。
「全部知ってるのに誘ってすまなかった…。」
「…。」
俯いた名無しはナプキンを指先で弄びながら気まずそうに黙ってしまった。
二人の間に沈黙が走る。
店内は騒がしいのにその音はどこか遠くから聞こえてくるようだった。
「今日だけ俺の愚かな愛に付き合ってくれ!」
そんな沈黙を破るようにシリウスはおどけた声でそう言った。
名無しが顔を上げて悲しそうな表情をする。
「そんな顔するな!」
わざと大きな声で言ってから、名無しの鼻をむぎゅっとつねった。
名無しは驚いてひえっと変な声を出した後、やっと小さく笑った。
「待ってシリウス!!それはピスタチオのペーストと違いますよ?!乗せすぎでは?!」
「大丈夫だろ。」
呑気にそう言って、マグロのお寿司にワサビを大量に乗せたシリウスはそれをパクリと口に入れた。
あーあ…知らない…。
「ふぐっ!!!!…ぐっ…っっっ!!!」
案の定猛烈にむせて口をお絞りで押さえ悶絶している。
私は慌ててシリウスの横に行くと冷たい緑茶を彼に差し出した。
うっすらと涙を浮かべながらシリウスがお茶を飲み干す。
「うえぇ…」
口が痛いのか何なのか、いい歳のおじさんが泣きながら舌を出して変な声を出すのを見ていたら笑いが込み上げてきた。
「ふふふ…あはははは!!!ほら、言ったでしょう!!!ははははははは!!!!」
何だかツボにはまって可笑しくてたまらない。
シリウスも私をジトっと睨んだ後、一緒になって笑いだした。
「わはははは!名無しも食ってみろよ、まじでヤバイ」
「あははは!嫌ですよ!!」
楽しい。
シリウスはとっても素敵な男性なのに子供みたいなことばかりして、一緒にいると本当に楽しい。
私はこの人といるとつい笑ってしまう。
もし私がシリウスとの運命を選択していたら、こんな風に毎日ふたりで大口を開けて笑って過ごしたに違いない。
こんな素敵な男性に想いを寄せてもらえるなんて私はなんて幸せなんだろう。
一緒にはいられないけれど絶対に幸せになって欲しい…。
シリウスにはいつもこんな屈託のない笑顔で笑っていて欲しい…。
こんなこと私が言える立場ではないとわかっているけれど、私はシリウスを幸せにしたい…。
私も今日だけシリウスを愛そう。
明日からはただの友人に戻るから。
食事の準備が終わった聖ヨゼフ孤児院の厨房は無人だった。
それなのにコンロには小さな火がかすかに残っている。
傍には乾いたナフキンがその日に限って置き忘れられていた。
換気のために2センチ程開け放たれた窓から冬の空気が室内に入って来た。