教授
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「教授、遅くなりました!」
そう言って、薬学教室に飛び込んで来た名無しを見て、スネイプは呆れた。
シャツとパンツは泥だらけで、髪には枝や葉が付いている。
スネイプが名無しを凝視しているのに気がついたのか、名無しもスネイプを見つめる。
「えっと…何ですか?!」
スネイプは杖を出して、名無しをキレイにした。
「身だしなみに注意したまえ。」
「さっきハグリット教授とニフラーを追いかけてたので…」
すいませんと名無しが笑う。
名無しがここにやって来てから半年が過ぎようとしていた。
最初こそ美しく清楚な感じがした名無しは蓋を開けてみると随分イメージと違っていた。
よく笑い、よく食べ、よく働く。
そしてよく気がきくので授業準備はいつも完璧になった。
明るくて誰にでも親切で、スネイプには特に懐いているように思える。
ホグワーツに来て初めて会ったのが自分であるので、気を許しているのかもしれない。
空気を読むのもうまく、絶妙な距離を保つのが上手い。
スネイプが多忙の時は言わずとも黙って黙々と作業をしている。
人嫌いのスネイプも名無しに懐かれるのはなんとなく気分がいい。
すぐに生徒からは美しい上に友達みたいに接しやすいと大人気になり、教員一同からも大層重宝され可愛がられている。
スネイプも言葉にこそ出さないが、この底抜けに明るい助手を気に入っていた。
授業が終わってスネイプ教授は薬瓶を棚に片付けている。
私は音を立てず教授の背後に忍び寄った。
黒いローブが教授の動きに合わせて揺れている。
教授が棚に瓶を全部置いたのを確かめる。
「教授!」
背後から急に顔を出した私をジロリと教授が睨む。
「お尋ねしたいことがあるんですが、良いでしょうか?」
「この前のようなくだらん質問なら却下する。」
先日、教授はセクシーとキュートどっちがタイプですか?と聞いたことを言っているのだろう。
「今日は真剣です。」
本当か?と目を細めて私をみる教授の顔が憎らしい。
「聞いてやろうではないか。」
「内なる力を引き出す魔法薬はありますか?」
スネイプ教授は呆れた顔で私を見る。
「そんなものがあったら誰も苦労しないのではないですかな?」
…それもそうだ。
「ですよね…。兄にも同じことを言われたのですが、日本にはなくてもここなら…教授なら持ってたりするかなぁと思いまして。」
「仮に持っていたとしたら、名無しは飲みたいのかね。」
「…そうですね。」
私は言葉を濁した。
「我輩の目から見ると…魔力が弱いわけではなさそうだが…」
「わぁ!!スネイプ教授に初めて褒められた!!」
スネイプ教授に褒められてテンションが上がる。
「黙りたまえ。」
「照れなくていいんですよ。
…そうだ、能力を引き出すのは無理でも、引き出すきっかけを作り出すショック薬みたいなのは作れたりしますか?」
教授が私の顔をジッと見て口を開いた。
「作れなくも無いが…理由を言いたまえ。我輩が納得する理由を。」
「…聞きたいんですか?」
私は赤面してモジモジしながら教授を見上げた。
「妙な動きをするな。」
教授が眉間に皺を寄せる。
この顔が可愛くて私は大好き。
「…私…出来損ないなんです…」
「…出来損ないとは…?」
私は教授に自分のことを話し始めた。
スネイプは名無しの話を聞いて興味を覚えた。
エクスペクトパトローナム、つまり守護霊のようなものなのだろうか。
守護霊は通常、杖から出現させるが彼女の場合は体内で守護霊が彼女と共に成長し、意思を持つこともあるという。
彼女の家系の女性は例外なく憑き物と呼ばれる生き物が年頃になると現れるという。
「私、もう22歳になるのに変ですよねぇ。」
名無しは呑気に笑っている。
「…確かに。魔力はあるのでスクイブではない。
そうなれば…名無しが言うように何かのきっかけで憑き物が生まれるということか…」
うんうんと相槌を打ちながら名無しがスネイプを見つめる。
「一度だけ…」
思い出したように名無しが話出す。
「学生の頃…兄さんと幼馴染と行ったお祭りの帰りに、急に胸が苦しくなって熱の塊が胸に現れたんです。
でも、すぐに消えてしまってそれっきりです。」
…おもしろい。
スネイプは学術的な興味をそそられてニヤリとした。
「我輩が作って差し上げよう。」
「えっ?!」
「我輩は魔法薬を作る、名無しは憑き物を引き出す要因と原因を今一度考察し、レポートにまとめ我輩に提出したまえ。」
「スネイプ教授、ありがとうございます!」
突然名無しがスネイプの右手に飛びついてギュッと抱きしめながらぴょんぴょん跳ねた。
「こら、手を離せ!」
「このご恩は忘れません。これからは教授の授業を優先して何でもお手伝いしますね。」
名無しが首を少し傾けてスネイプの顔を見上げる。
その嬉しそうな顔はとても可愛らしい。
やったやった!!と名無しは上機嫌でスキップをしながら薬学室を出て行った。
スネイプはその後ろ姿を見ながら今まで忘れていた奇妙な感情が胸に湧き上がるのを感じた。
17歳のあの日…
名無しは羊皮紙を広げて、記憶を手繰り寄せた。
兄と幼馴染の八雲と三人、花火の余韻を胸に歩いていた。
普段無表情な兄も八雲といる時だけは楽しそうで、時折笑顔を見せる。
名無しは二人の一歩後を歩きながら、その二つの背中を眺めていた。
楽しみにしていた祭りが終わり、夏の終わりも近い。
八雲が兄に夜店ですくった金魚を見せる。
顔の前に差し出された金魚を、目を細め眺める兄。
誰もが振り向く美貌を持つ線の細い兄と、筋肉質な色の黒い精悍な八雲がとても美しい。
兄が微笑むと、八雲は慌てて兄からはなれた。
私はそれを見て、胸が急に苦しくなって…
「出目金、欲しがってのにとれなくて残念な。」
振り向いた八雲が悪戯な笑みを浮かべた。
兄も私を見て笑っている。
でも二人がまた歩き出すと、スッと胸に現れた熱は消えてしまった。
「わかんない…」
私は独り言を言った。
取り敢えずレポートにはありのままに書いた。
教授に読んでもらえば何かわかるかもしれない。