教授
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日曜日が来た。
今日私はメイクも薄く、お洒落をしていない。
ニットにジーンズにダウンジャケット。
いつものブーツとマフラー。
髪もいつもよりワックスでぐしゃぐしゃさせて、男にも見えるみたいな格好をした。
廊下を歩いていると、スネイプ教授が歩いて来た。
「教授!!」
私が走り寄るとスネイプ教授は上から下までジロリと視線を走らせて無言だ。
「今から出かけますが、お土産は何がいいですか?
今夜一緒にお茶しましょう!」
「…何処へ行くのだ。」
「スプラッター映画見に行くんですよ。」
スネイプ教授は馬鹿馬鹿しいという表情をして私を見た。
誘わなくて正解だったかも!
「何もいらん。迷惑がかからぬよう門限を守って帰ってきたまえ。」
はーいと通り過ぎたものの、よく考えると成人済みの魔法使いは許可さえ出せば門限はないはず。
「私もう大人ですよ!!」
「…そうは見えませんな。」
フンと鼻で笑って廊下の角を曲がって行った。
待ち合わせ場所に着くと、一際目立つお洒落なシリウスが私を待っていた。
フードを被った私はこっそり忍び寄って真横に立つ。
私だとは気づいていないみたい。
「…待ち合わせですか?」
「えっ?!」
声をかけたら思いっきり不審な目で見られて、私は笑いながらフードを外した。
「名無し!!」
シリウスはびっくりした顔をして、すぐに少年の笑顔になった。
「今日は何だか…その何だ!そういうのもいいな!
学生の頃のジェームズみたいだ!」
ジェームズ…確かあのくしゃくしゃの髪の男の子だ。
早速、学生時代の話が飛び出て私は内心ニヤリとした。
「ホグワーツでの私を見てもらおうと思って。この前のは思いっきり余所行きでした。」
シリウスは大きく笑って私の頭をポンと撫ぜた。
密かに期待していた映画は全然大したこと無くて、大コケした。
ただ、シリウスが予想以上に怖がって私に抱きつくどころか自分の椅子で縮こまっていて、可愛くて笑ってしまった。
「殺人鬼が引っ張り出した内臓、作り物丸出しでしたね。」
「…名無し、その話はよしてくれ。」
スネイプ教授を宙吊りにした仕返しに私はモンブランケーキをシリウスの前に突き出して、脳みそと言ってみる。
シリウスは嫌そうにケーキを私に押し返した。
「ところで…さっき私を見てジェームズと言いましたが…」
私は今思い出したようにシリウスに話を振る。
「ああ!ジェームズ!
グリフィンドールにハリーポッターがいるだろう?」
「Mrポッターが何か?」
「彼の父親さ。そして俺とリーマスの親友だ。」
「!!!」
フォークからモンブランケーキがポトリとお皿に落下した。
言われてみると、確かに雰囲気が似ていたような?
「俺とジェームズ、リーマス、それからもう一人、ピーターという男がいるんだが学生時代いつも四人でつるんでいたんだ。」
シリウスは嬉しそうな顔をして笑った。
「そうでしたか。
Mrポッターも可愛らしい顔をしていますし、ジェームズさんも素敵でしょうね。
シリウスもルーピン教授もハンサムですし、ピーターさんは存じあげませんが…学園の人気者だったと想像できます。」
「さぁ、どうだか。」
シリウスは少し照れた顔をして窓の外を眺めた。
「ルーピン教授に憧れている女子生徒が今もたくさんいますよ。」
もっと話を引き出そうとそう言った私の顔を見て、シリウスが話し出した。
「ルーピンは学生時代から大人びていて誰にでも親切だった…確かに人気があったな。
俺は恋愛よりもジェームズと悪戯するほうが好きだったんだ。
ジェームズはリリーばかり追いかけていたよ。」
「リリー…?」
私の心臓が大きく音を立てた。
「ポッターの母親だよ。
ジェームズは意中の女性とめでたく結ばれてハリーが産まれたんだ。」
オリエンタルリリーの前に佇むスネイプ教授の後ろ姿が脳裏に現れ、血の気が引いた。
シリウスは私の変化に気がつかず話を続ける。
「スニベルス…いや、スネイプとリリーは幼馴染なんだ。
側から見てもわかるほどスネイプはリリーに惚れていた。
それでジェームズとスネイプは…わかるだろう?
結局、リリーはジェームズや俺たちを選んだのさ。」
「…そうでしたか。
スネイプ教授はMrポッターにいつも厳しいので何故かと思っていましたが、わかった気がします。」
私は無理に笑った。
「名無し、スネイプには気をつけろ。」
「スネイプ教授はとても優しいです!」
大声を出した私の顔を見てシリウスが固まった。
…しまった…私は赤面して下を向いた。
「…私はスネイプ教授を尊敬しています…」
小さな声でそういうのがやっとだった。
シリウスは私を見て、何かを察したのか優しく笑うと帰ろうと呟いた。
気がつくと私はひとり温室にいた。
目の前には真っ白で優雅なオリエンタルリリーが咲き乱れている。
「あっ、スネイプ教授のお土産買うの忘れちゃった…。」
私は誰に言うわけでもなく、声を出して呟いた。
告白する前から失恋か…。
こんなに綺麗で、優雅で、いい香りで…ふわふわの赤毛が素敵で、エメラルドグリーンの瞳が魅力的で…
「うっ…うう…うっ…」
うわあぁぁぁぁぁぁん…
大声を出して私は号泣した。
子供みたいに両手で顔を擦りながら、涙が後から後から溢れて地面に吸い込まれて行った。
失恋した悲しさよりも、スネイプ教授が今でもリリーさんに抱いている気持ちを思うと切なくて、息が出来ないほどしゃくりあげた。
しばらくして落ち着いたのか涙はもう出ない。
地面にしゃがみ込んで私は鼻歌混じりに歌を歌う。
『何でもない言葉でも
届きますようにって
いつも願ってた
気づいてた?
私があなたのこと見ていたの
その瞳に見つめられるのが大好きだって
どうしたらわかってもらえる?
手を伸ばして私に触れて
あなたの痛みを私にも分けて』
不思議な旋律が聞こえた気がしてスネイプは顔を上げた。
それから目の前にいたものにギョッとして思わず羽ペンを落とした。
地下の薬学室の扉の前に真っ白い狐が座っていた。
二本の大きな尻尾をゆっくりと左右に揺らして、紫の大きな瞳でスネイプをじっと見つめている。
椅子から立ち上がったスネイプは狐に近寄って行った。
ゆっくりとしゃがみ、狐の頭を撫ぜてみた。
気持ち良さそうに目を細め、手のひらに頭を押し付けてくる。
「名無しはどうした…?」
狐は当然何も答えない。
スネイプのローブの中に体を伸ばすと、ぐるりと一周して尻尾で優しく顔を撫ぜた。
そして音もなく扉をすり抜け行ってしまった。