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雪をかぶったホグワーツはどこか母校の白い翡翠を思わせる。
私は白い息を吐きながら、城のような建物を見上げた。
私の名前は名無し。
日本の魔法魔術学校マホウトコロからこのホグワーツに教師見習い兼助手としてやってきた。
ダンブルドア校長先生とマホウトコロ校長である私の祖父はとても親しく、人手が欲しいホグワーツに留学と社会勉強を兼ねて是非とのお誘いを受ける形になった。
しかしそれは建前だ。
母校では成績優秀こそあった私も家族の中では落ちこぼれ魔女だった。
私の家系は代々女に強い力が現れる。
普通は私の年にもなれば自由に操ることのできる憑き物が現れ、それを自由自在に動かして杖なしで魔法を使う。
でも私には未だ憑き物が合わられず、杖で魔法を唱えていた。
家族は私の魔力の現れを随分気に病んでいて、何か新しいことをさせれば覚醒すると考えたらしい。
そういう理由で、私は家族の期待に応えられるよう、ここでの生活に日々精進し自らの変化も導き出さねばならないのだ。
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで気合を入れ、扉に続く階段を上がった。
扉は私を待っていたように、音もなく開いた。
私は編み上げブーツの雪をマットで拭い、インバネスコートの裾に着いた雪を払った。
一人イギリスに行く私を心配して、母は私に男物の洋服を着せた。
ハイカラーのシャツにスーツ、中折れ帽まで私のサイズに合わせて用意されていて、断ることができなかった。
私は黒髪のショートカットで、学生時代も青年に間違われることがあったので、母の思惑通り道中私を見た人達は小柄な男だと思っただろう。
今は休暇中で生徒はいない。
時間が曖昧だったせいか迎えてくれる人もいない。
私は広い廊下の前で途方に暮れた。
さてどうしたものか…と辺りを見回していると、右端の地下に続く階段から背の高い全身真っ黒な男性が現れた。
ぴっちりと首元までボタンで覆われた真っ黒な洋服に上から黒く長いローブを羽織っている。
肩まである黒髪から、睨むような目つきが覗く。
向こうも私に気がついて、一瞬足を止める。
私は中折れ帽を外して胸の前に持ってくると、その人物に向かってお辞儀をした。
カツカツと足音を響かせて私の目の前に来たその人が口を開く。
「どなたですかな?」
初めて聞く美しい声だ。
耳に心地いい。
「はじめまして。名無しと申します。」
私は顔を上げて彼を見つめた。
黒目がちの大きな瞳がスネイプを見つめる。
長いまつ毛の真っ黒な瞳の中に照明の光がたくさん集まり星を作っていた。
色が白くきめ細やかな肌。
いかにも手触りの良さそうな黒髪。
遠慮がちだが人当たりの良さそうな優しい笑顔。
名無しと名乗るその声も男性とは思えない可憐さだ。
余りにも美しい青年にびっくりしていると、彼がスネイプに尋ねる。
「失礼ですが、この学校の教授でいらっしゃいますか?」
「いかにも。」
「校長室をご存知でしょうか…?」
ふたり並んで校長室に向かう。
チラリと彼を見ると、スネイプの視線に気づいて人懐っこい笑顔を向ける。
その笑顔に思わずたじろぐ。
スネイプは大きな石の怪獣像の前で立ち止まった。
「…レモンキャンディ…」
そう言ったスネイプを青年がギョッとした顔で見た。
毎回校長のふざけた合言葉には辟易する。
石像が左右に開いて螺旋階段が現れるとスネイプと青年は階段を上がって校長室のドアをノックした。
『レモンキャンディ』だなんて。
なんて可愛いんだろう。
私は笑いを堪えて、真っ黒な教授の後に続いた。
扉をノックしたら、音もなく静かに扉が開いて、不思議な部屋が現れた。
「校長…来客を連れて参りました。」
「はて…」
机で書き物をしていたダンブルドア校長先生が半月メガネの中から私を見る。
それからびっくりしたように立ち上がった。
「校長先生、お久しぶりです。」
「今日じゃったかの?名無し。」
校長先生は足早に近づいて来ると笑顔で私を抱きしめた。
「すいません。日本が大雨でしたので中々思うようにこちらに来れず、はっきりした時間をお伝えできなかったのです。」
「迎えも送らずすまんかったの。」
「いえ、そちらの…」
私はここまで連れてきてくれた教授を見る。
「セブルス。ご苦労じゃった。
名無し、こちらはスリザリンの寮監、魔法薬学のセブルス・スネイプ教授じゃ。
セブルス、こちらは日本魔術学校マホウトコロから来た名無しじゃ。」
「では校長、話に聞いていた助手を務めると言うのは…この青年なのですか。」
校長は私の格好を見て笑った。
「まぁ、これまたステキな格好をしておるの。セブルスは名無しのことを青年と思っとるようじゃぞ。」
今まで、男装のことをすっかり忘れていた。
「スネイプ教授、このような格好をしておりますが私は女です。
勘違いさせたようですいません。」
スネイプ教授は眉間に皺を寄せて私を見た。
「女の一人旅は心配だと母が言うので、男装でホグワーツまで来ました。
私の兄はマホウトコロの薬学教師ですので、スネイプ教授とはご縁を感じます。
これからどうぞよろしくお願い致します。」
私はもう一度スネイプ教授に頭を下げた。
世界中にある魔法魔術学校の中でも、日本のマホウトコロは秘密主義の学校として有名である。
スネイプも存在は知っていたが、謎に包まれたマホウトコロの元生徒・現教師が目の前にいるとなるとつい興味をそそられてしまう。
性別不明の美しい容姿と物腰の柔らかさ。
そして名無しの兄はマホウトコロの魔法薬学教授だと言う。
スネイプは名無しと最初に出会ったという理由で、ホグワーツを案内するよう校長から頼まれた。
「スネイプ教授、お忙しいのにすいません。」
コートを脱いだ名無しの華奢な肩幅を見ると、青年ではなく女性なのだと思う。
「ホグワーツは生徒数が多いと聞きました。その分授業も大変ではありませんか?」
「左様。マホウトコロは…」
「三百人弱です。7歳から入学できますが、11歳までは寮に入れませんので夜間はそこからもう少し人数が減ります。」
謎の学校について名無しが話し出す。
「ホグワーツと同じ四つの寮があります。艮(うしとら)巽(たつみ)坤(ひつじさる)乾(いぬい)と呼ばれ寄宿舎も東西南北に分かれています。」
「大変興味深いお話ですな。」
「卒業後は教員を目指しつつ、教授の助手から校内の雑用まで…何分人数が少ないですので私の手でも足りてしまいます。」
「名無しのご専攻は?」
「…魔法民族学です。主に憑霊信仰についての…まだまだ未熟なので教員になるには時間がかかりそうです。」
そう言って、困ったように微笑んだ。
「名無し、ここが自室だ。明日の朝は直接大広間に来るようお願いしたい。」
「承知しました。
スネイプ教授、少しお待ちください。」
名無しがスーツケースを開けて小さなバッグを取り出した。
「感謝の気持ちをお受け取りください。」
そう言うと、バッグの中から千代紙を花の形に折ったものを手渡した。
甘い香の香りがする。
「入浴時や就寝時…リラックスしたい時に折り紙を開いてください。
桜の花が部屋いっぱいに広がっていい香りがします。
それでは、おやすみなさい。」
そう言うと丁寧に頭を下げて部屋にはいって行った。
スネイプは手のひらの上の千代紙を見つめた。
それは名無しのようにとても美しかった