第七章 快楽は毒なり薬なり




私はDOPを排除する協力者としてポートマフィアに入り、中原中也と云う男の部下になった。


最初は彼を被験体にするつもりなんて毛頭なかった。
マフィアの五大幹部に手を出せば自身の身も危ないし、色々とリスクが大きすぎる。


彼の前では部下を演じて、影でこっそり他の被験者の記録を取ればいい。





〝ねぇ、中也!〟


執務仕事中にも関わらず中原幹部の部屋にいて、子供のように構って構ってと彼の仕事の邪魔する女は首領様の娘だとか。上の立ち場だから、我儘も許されるのだろう。


中原幹部の傾向タイプは気品がある女性らしい。
全く持って彼女とは正反対の傾向タイプ
屹度、彼も適当に相手をしているのだろう。


そう思っていたのに。


彼女の面影を探す彼の瞳。
逃げる彼女を必死で追い駆けて行く彼の背中。
彼女を優しく見詰める彼の瞳。


そこにとっくの昔に忘れた大切な人への愛情が見えた気がして、私の心に住む歪んだ感情が更に歪みを持った。


若し、中原幹部を無理矢理私のものにしたら?


中原幹部だって、男。


快楽を渇望すれば、今までDOPの被験体となった男達と何ら変わらない。


変わらない、筈だったのに……。


彼は私を抱かなかった。
強い欲望に抗い乍ら〝ルナ〟とあの女の名前を呼び続けて、一度たりとも私の方を見なかった。


何故?


有り得ない事よ。


DOPの毒に蝕まれた人間は誰一人としてその毒に勝った男なんていなかったのに。
_____如何して?



そして、私は彼を自分のものにする前に彼女の殺気に体を捕らえられた。


〝お前、中也に何した?〟


何処までも暗い底なしの闇。
冷徹な温度を感じない瞳に睨まれた時、私は思った。



この二人の間にあるのは、本当に愛情なのだろうか?



愛情なんて言葉に収まらない“何か”。


互いだけを求める。



それを言葉にするなら、“依存”だ。
恐ろしく強い互いへの依存心。
彼等は屹度、互いに縋り合い乍ら生きている。



そこには他の誰も立ち入る事はできない。



私は、貴方達を見てそう思った。




父に貰いたかった愛情。

歪んだ愛情。

私の中に残る誰かを思う愛情。




それを全て上回る程に、醜くて、

____それでも、迚も美しい依存愛情




嗚呼、羨ましいな。




私も…、私も貴方達みたいに、




貴女のように、一人の大切な誰かに……





愛されたかっ、た……な、









***





既に消え入りそうだった鼓動が完全に止まった。
もう、それは決して動かない。



血だらけの監房。



そこに生きて立っているのはルナ一人。



ルナの目の前には久坂葉子だったもの。



最後に見た彼女の涙。



一粒溢れた雫には恐怖も絶望もなかった。


それは心の奥底に仕舞われていた彼女の本当の想い一雫






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