始まり




魔都横浜、その夜の街に獣の咆哮が響いた。



それは地獄の鐘が鳴るが如し。
怒り狂った鬼神の産声の如し。
大地を揺らし、空を裂いた。



その咆哮が止んだ瞬間に、目の前に広がっていた光景を見たものは一人しかいない。他には誰もいない。其処には一人立っている女と地面に転がる人だったもの。


夥しい血が、彼女の身体中を染めていた。それは彼女のものではない。全部目の前の転がる死体のものだ。生きているのは彼女だけ。


無残な姿に成り果てたのは銃を装備していた男達だった。その銃口はいずれも全部彼女の方へと向けられた状態で地面に転がっていた。


暗いその場を照らすのは赤く輝く月。それは夜に現れその幻想的な美しさを見せ、朝が来ればその美しさをひっそりと隠すのだろう。


その赤い月を見上げオッドアイの瞳が光った。
左目は綺麗なアメジスト色の瞳。
右目は血のように赤い美しい瞳。


その瞳を見て、今は死体となった男が呟いていたのを彼女は思い出した。


__呪われた右目



『さあ、帰ろうか___イヴ』


彼女は後ろを振り向き、にこりと優しい笑みを浮かべた。


彼女が微笑みかけた先にいたのは、この世のものとは思えない巨大な獣。人の何十倍もある。その姿形は狼と似ていて、白銀の毛並みと鋭い牙と爪、そして恐ろしく美しい赤い瞳。



彼女はその獣に手を伸ばし、近づいてきたその鼻先を優しく撫でたのだった。


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