第四章 恋路に在りしは恋敵




晴れやかな空。


青色のそれは澄んだ空気に一層映え、其処に浮かぶ真っ白な雲は楽しそうに空を漂う。


太陽の光は温かく。
こんな日は散歩日和と呟き外へと出掛けたいだろう。

まあ、ルナの場合は天気が良くも悪くも関係なくシュークリームを買う為に外へと足を踏み出すのだが。


ルナが向かった先は行きつけの洋菓子屋。


『おばちゃん、シュークリーム下さい』


ほぼ毎日のようにシュークリームを購入するルナはその店の人とはもう顔馴染みだ。


だが、ルナが覗いた店頭には誰もいない。首を傾げたルナがもう一度『あのー』 と奥に声をかければバタバタと走ってくる音が聞こえた。


「はい!お待たせしてしすみません」


いつものおばちゃんが来るのかと思ったら、出て来たのは若い青年。


『あれ、おばちゃんじゃない…』

「おばちゃん……?店長のことですか?店長は今日お休みで店にいないんです。もしかして御用でしたか?」

『ううん。シュークリーム買いに来ただけだから』


ルナはいつも通りに『シュークリーム100個下さい』 と注文した。そして、そんな莫迦みたいな量の注文に驚く青年の反応は一般的だろう。


「ひゃ、百個ですか?」

『うん。その内の10個は帰りながら食べるから、残りはいつものように送って、っておばちゃんに伝えといて』


呆気にとられていた青年はルナの笑顔に聞き間違いでないと悟る。きっとシュークリームの事が物凄く好きなんだな、と自己完結した青年。


「あの、もしよかったら新作のシュークリーム食べていきませんか?」


青年のその誘いに『食べます』 と直様乗ったルナはやはりシュークリームに目がない。


そして、誘われるがままにテーブル案内されたルナは其処に腰掛け青年が持ってきたシュークリームを見て瞳を輝かせた。


『ふわぁ!美味しそう』


青年が出したシュークリームは見たら買ってしまいたくなるような程のものだった。ふわふわとした生地に包まれている生クリーム。それを彩るフルーツがシュークリームそのものを引き立たせている。


パクリと一口齧ったルナは口一杯に広がった甘さに驚いた。そして、零れ落ちそうな頰に手を当てる。


『美味しい〜!』


青年に笑顔を向けてそう云ったルナ。


容姿端麗なルナのその笑顔とその言葉に青年はどきり胸を鳴らす。


「じ、実はそのシュークリームを作ったのは僕なんだ。将来もっと立派なパティシエになるのが夢で。その為に今勉強していて」

『へぇ、そうなんだ。こんなに美味しければもう夢叶ってると思うけどね』


美味しい。そな言葉がパティシエである青年にとっての何よりの褒め言葉。


最後の一口を食べ終えたルナは自身のお腹を叩きながら『はー美味しかった』 と感嘆の声を漏らして立ち上がった。


『ご馳走様。それじゃ帰るね』

「あ、待って」


店を出て行こうとしたルナを呼び止めた青年は口を開いたり閉じたりした後、意を決意したようにルナは見詰める。


「僕、また新作のシュークリームを作るから君に食べに来て貰いたいんだ。……よかったらだけど」


拳を握りしめてそう云った青年だが、最後の方は自信なさげに付け足した。それでも、青年は願った。もう一度、彼女に自分の作ったシュークリームを食べて貰いたいと。


『うん、いいよ』


ルナの返事にパッと顔を上げて喜んだ青年は「君の名前は?」とルナに問う。


『菊池ルナ』

「ルナ、ちゃん」

『うん。それじゃ、またねパティシエ君』


ひらひらと振って去っていくルナが見えなくなるまでパティシエの青年はその小さな背中を見つめていたのだった。



それはある日、突然出会った___
鳴り止まぬ鼓動に教えられた青年の初恋。







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