第九章 感情の欠片は追憶の中に

【追憶の三 その秘め事は…】

 



『“–––––––––”』


俺はあの時、ルナの秘密を知った。














____6年前の追憶____



「はー、寒ィな」


木枯らしが吹き付ける寒い冬。


この季節になると色彩が失せ、何もかもが灰色の風景の中に閉じ込められる。そんな季節。


数台並ぶ車の一台に寄り掛かり、冬の寒さを感じながら俺は今日仕事を共にする人物を待っていた。


最初に云っておくが太宰の糞野郎ではない。あの野郎はつい先日、任務で遠くへ出張に出かけた。流石は歴代最年少幹部様ってか。五大幹部になったばかりのくせに重要任務を任されているらしい。まあ、散々あの糞野郎とコンビを組み合わせている俺からしてみれば奴がいないのは願ったりだ。これから任務だがピクニック気分のように清々しい。


「中原さん、準備整いましたが」

「嗚呼。もう少し待て、多分そろそろ…」


黒服の部下の返事に答えた時、ビルの中から出てきた人物。今日仕事を共にする相手。


「遅せぇぞ、ルナ」


俺の側まで来たルナにそう注意してもルナは全く表情を変えずに無言を貫き通す。毎度の事なので特に気にしないが、俺はルナの格好を見て顔を顰めた。


今日は冬の中でも特に寒いと天気予報で云っていたし、実際、仕事で無ければ部屋で寒さを凌ぎたいほどの気温なのだが、目の前の彼女の格好は年中変わらない。つまりは夏と同じ格好なのだ。外套を羽織るどころか黒い布のような服は襟元が緩みそこから晒された白い肩と腕。そして短い裾からは白く細い脚が覗いている。そんな、明らかに季節外れの格好でいるにもかかわらずルナは表情をピクリとも変えずに平然と立っている。


「手前、寒くねぇのか?そんな薄着でよ」

『…仕事に支障はない』


そういう問題じゃねぇだろ、と溜息を吐きたくなるが、もう出る時間だ。取り敢えず、車の中に入れば寒さは防げるだろうと、早々に部下に指示を出した。




***



正直に云って今回の任務は目的が良く判っていない。


ある廃墟のビル。そこの調査らしいが、ポートマフィアが見過ごせない何かがあるのか全く見当もつかない。


「中を調べろ。何か見つけたら直ぐに連絡よこせ」

「「はっ!」」


部下が散らばるのを確認してから、ずっと無言のままだったルナに視線を向ける。


「俺は近くを調べてみるが手前は如何する?何か首領から指示貰ってんのか?」

『……。』


何か一言くらい喋ってもいいだろが。何も云わずに辺りを見渡す此奴は可愛げの一つもない。だが、首領の指示で此処に来ているという事はちゃんとした命令を貰っているのだろう。あまり、詮索しないほうがいい。


視線を彷徨わせながら歩き出したルナを横目に俺も近くを調べる。ひび割れた床に瓦礫が転がり、子連れの鼠が徘徊する廃墟。至って怪しいところもなかった。


それから、一時間。


何かを見つけたと云う部下からの連絡もなかった為、一度散らばった部下に無線で収集命令を出す。程なくして集まった部下達。だが、4、5人で行動していた奴等が帰って来ていない事に気づく。


「おい、他の奴等は如何した?」

「それが、上の階を調べに行ったきり連絡が途絶えてしまいまして…」

「はあ?何かあったのかよ」


通信妨害にでもあっているのか。帰ってこない奴等の無線機へと繋げてみるが砂嵐が鳴るだけ。確かに連絡が取れないようだ。


「あ、中原さん。戻ってきました」


部下の一人が指を差した先に五人の黒服の部下がいた。


「おい手前等。通信機の不調か?ちゃんと仕事前にチェックしときやがれ」


自分の耳についた通信機を指で突きながら注意する。男達はすみませんと頭を下げて反省をしたから、今回は大目に見てやろう。


「それで何か見つけたのか?」


「いえ、何もありませんでした」
「特に何も」
「何もありません」
「変わっとことは何も」
「何もいません」


口を揃えて何もないと云ったそいつらに「そうか」と頷く。だが、俺は何となく違和感を感じていた。何がと訊かれると答えられないが、微かな違和感。はっきりしないそれを感じながら、部下に拠点に戻るように指示を出す。



しかし、その瞬間。



目の端を小さな影が横切った。



目を見開いて振り向き、五人の部下が立っていた方へと視線を向ける。





–––––––––––血飛沫を上げて二人の男の首が宙を舞った。





切り離された二つの首が地面に着くより速くに、小さな影が鋭利な短刀を光られせてもう一人の男の首を斬り落とす。



何が起こったのか判らななかったのは俺だけじゃない。背後に控えていた部下もその光景が理解できなかった筈だ。



最後の一人の首が地面に転がった頃にはその場に血溜まりができ、じわりじわりと音を立てているかのように広がっていく。



血に染まった短刀を持って静かに佇む少女。



冷たい瞳で足下に転がる五人の男達を見下ろし、ゆっくりとこちらに視線を向けた。オッドアイの瞳は美しく静かに俺を写している。



一瞬にして五人の仲間を殺したのは、
紛れもなく今俺の目の前にいる………、



––––––––––––ルナだった。





***





「おい、聞いたか?」
「嗚呼、やっぱり噂は本当だな。無闇に近づいたら殺されちまう」
「子供だと思ったら大間違いだ。次は誰が殺されるか判ったもんじゃない」



廊下の隅でこそこそと話す黒服の男達の会話に耳を傾けながら、俺とルナは廊下を歩く。無意識に速足になるのは、そんな会話を聞かせたくないからか。そう思ってちらっと隣を歩くルナを見遣るが、特になにも感じてなさそうだ。いつも通りの無表情だった。



拠点内に瞬く間に広まった噂。
否、それは噂と云って良いものか。



〝 菊池ルナが仲間を殺した 〟



それは確かに事実だった。


それに俺は目の前でその光景を見たうちの一人。


恐らくあの時、動く時間の中にいたのはルナだけだっただろう。ルナ以外の時間が止まっていたかのように誰一人として動けなかった。何が起こったのか理解できなかったからだ。


時間が動き出したのはルナが踏んだ血溜まりがぴちゃんと跳ねる音を出した時。俺の後ろにいた数人の部下が震える手でルナに銃を向けていたのが分かった。


如何してルナが仲間を殺したかなんざ判らない。だが、ルナは理由もなくそんな事をする奴じゃない。絶対に事情があるはずだ。


ルナに仲間を殺された事に困惑する部下達に銃を下ろさせて、何とかその場を収めたが、部下は未だに戸惑っていた。その目にはあったのは疑いの念と恐怖だけ。そして、それ以上誰もルナに近付く事はなく、拠点に戻ってからも何も云わずに入り口に向かうルナの背中を睨みつけていた。



今、冬の寒さに残った凍てついた困惑が拠点内を騒つかせている。


それを振り払って俺達は首領の執務室に辿り着いた。


「首領、中原です」

「入っていいよ」


返事を聞き、中へと入る。机に肘をつき手を組んでいる首領は微笑みを浮かべていた。何故そんなに嬉しそうなのかは判らないが。


「お帰り、ルナちゃん。任務は如何だったかね?疲れたかい?外は寒かったろう」


まるで娘を心配する父親だ。頬を引きつらせて乾いた笑いを零す俺に反してルナは無言で首領を無視している。本題に入りたいのに中々その雰囲気にさせてくれない会話にこほんと一つ咳払いして「首領」と緊張した声で呼びかければ、首領は漸く俺の方へと視線を向けた。


「先程の任務の事ですが」

「嗚呼、報告は聞いているよ。ルナちゃんが部下を五人、殺してしまったらしいねぇ」


笑みを消さないまま淡々と云った首領。まるでそうなる事が当然だったという口振りだ。やはり、首領は何か別の目的があってあの廃墟の調査にルナを同行させたのか。


「中也君、一つ訊いてもいいかい?」


黙考していた俺は顔を上げて首領を見る。先程とは違う何かを探るような瞳に無意識に背筋が伸びた。


「君は仲間を大切にするし、迚も部下思いだからよく慕われている。だが、もし目の前で何の罪もない部下を“仲間”に殺されたら、––––––君は、如何するのかね?」


それは何の意図があっての質問なのか、俺には到底計り知れない。だが、その問いへ答えは俺の中ですんなりと出てきた。


「たとえ仲間であっても容赦はしません。しかし、それはその仲間が本当に“裏切り者”であればの話です」

「……その判断は如何やってする?」

「少なくとも」


俺は首領を見て、そして、隣に立つルナを見た。


「ルナが部下を殺したのは“裏切り”じゃありません。組織にとっても、俺にとっても」


あの時、如何してルナが部下を殺したのか判らない。


判らないが、ルナを裏切り者だとは思わなかった。
憎いとも思わなかった。


「つまり、ルナちゃんだから……、と云うことかね?」

「はい」


微かにオッドアイの瞳が見開いた。だが、すぐに逸らされて俯いてしまったルナに首を傾げた。そして、くすくす、と聞こえてきた笑い声に目を向ける。首領は口元を隠しながら笑っていた。


「あー、いや、くくっ、すまないねぇ。まさか、そんな答えが聞けるなんて。組織内の殆どがルナちゃんを疑っているというのに君って子は」


一通り笑った首領はふぅと一度息を吐き出して、俺に目を向けた。


「いいだろう。君なら大丈夫だ」

「は、はあ…」


何が大丈夫なのか判らないが、首領の中で何か確信をついたのだろう。知らずのうちに試されていたのか?と疑問が残るが恐らく悪い事ではなさそうだ。


幼女とルナの前ではいつも緩んだ笑みを浮かべて威厳さを何処かに忘れてくるような首領だが、矢張りポートマフィアを統べる者。スイッチを切り替えた時の雰囲気は緊張を走らせる。その切り替えた雰囲気を感じた俺は背筋を伸ばして首領を見据えた。


「それで、何か判ったかね?」


『––––––蜘蛛の糸』


答えたのはルナだった。俺は目を瞠ってルナに視線を向ける。変わらずの表情のまま首領を見据えるルナは続けた。


『あの五人の首についていた』

「蜘蛛の糸だと?そんなモン見えなかったが」

「人には認識されにくいのだよ。蜘蛛の糸は迚も細いからねぇ。通常の蜘蛛の巣でも光の反射がないと見えにくいだろう?暗いところなら尚更ね。それと似たようなものさ」

「その蜘蛛の糸とは何なんですか?」

「ある人物の異能力だ」


俺の問いに首領はそう答え、机に置かれていた一枚の紙を差し出す。そこに貼られていた写真には一人の男。


「彼は或る組織が監視していた異能力犯罪者だったが、先日から彼の行動は過激化し、目に余る程になった。そして、遂には我々の縄張りにも足を踏み入れてきたのだよ」


そこでだ、と指を鳴らした首領が俺達二人に微笑みかける。


「君達二人に任務を与える。この異能力犯罪者を見つけ出し速やかに排除すること。いいね?」





***




初めて、ルナと二人だけの任務。


いつもは太宰がいるから、どこか新鮮な気分だ。任務内容としてはある異能力犯罪者を見つけ出し、始末する。簡単そうに聞こえるが、これがそうでもない。この横浜内に身を潜めているとの事だが正直云って居場所の情報はそれだけだ。


「取り敢えず街に出てみたが何処捜せってんだ。皆目見当もつかねぇぜ」


前髪を掻き毟って愚痴を零す。そして、同意を求めてチラッとルナに視線を向けるが期待したものは返ってこず相変わらずの無表情だった。こんな時、太宰なら犯人の場所を予測して見つけ出すのだろう。認めたくはねぇが無駄に切れる頭をしている分、そういう事には長けてやがる。


「手前は首領から聞かされてねぇのか?この蜘蛛男の居場所とかよ」

『……。』


無言で首を振るルナ。手掛かりは本当にないらしい。重い溜息を吐いてしまうのは仕方ない事だ。こうなれば一から情報を集めて、蜘蛛男の足取りを追うしかねぇか。


「まあ、兎に角街で情報を…、うおっ!」


歩き出きだしたと同時に服を後ろへと引っ張られる。あまりにも急な事につんのめりそうになりながら何とか踏ん張って、何事だと背後を振り返った。


『……。』

「…ンだよ、急に」


俺の服を引っ張るルナが無言のままある方を指差した。俺はそのままルナが指差す方へと視線を向ける。そこにあったのは、シュークリーム屋だった。


「……。」

『……。』

「…まさか、アレが食いてぇのか?」


無言でこくりと頷いたルナ。


「おい、頼むから口で云えや」



、、、、、。



もっ、もっ、と小さく咀嚼しながらシュークリームを食べていくルナ。


此奴は今が任務中である事を判っているのか。いや抑も此奴はこんな食べ物に興味を示すやつだったか?少なくとも一年前のルナは違った。


しかし、同じベンチに腰掛けてその姿を見れば何となく嬉しい気持ちになる。だから、俺も黙ってこうしてルナがシュークリームを食べる姿を眺めているのだろう。


「それ食ったらさっさと仕事するぞ。こんなペースでやってたら、蜘蛛野郎が遠くに逃げちまうだろうが」

『…この街からは、逃げない』


漸く、喋ったルナに驚いたが、その確信をついたような物言いに「何故、判る?」と問うた。


『あの廃墟には、その男の罠があったから』

「蜘蛛の糸か」


こくっと頷いたルナ。俺は手に持っている紙に視線を向け、そこに載っている男の顔を睨む。この男の能力の詳細は不明。蜘蛛の糸というのは見えないのではなく、見えにくいだけと首領は云っていたが、俺はあの時実際に蜘蛛の糸に気付かなかった。それを考えると少し厄介な相手かもしれない。


ん?と頭上に浮かんだが疑問符を見上げて思い返す。そう云えば、あの時ルナは蜘蛛の糸の存在に気付いていた。人に認識されにくい筈の糸をルナは…。


「手前、あの時よく蜘蛛の糸に気付いたな」


最後の一口を食べようとしていたルナが口を開いたまま俺に視線だけを向ける。そして、数秒黙ったままだったが、残った一切れを口に放り込んだ。


「手前もこの男の能力は知らなかった筈だ。なのに、何で見えた?」

『……。』


俺はある一つの予感があった。
それはずっと確かめたかった事の一つ。


「……手前のその右目と関係があるんじゃねぇのか?」


俺が初めてあの獣・・・を見た時に感じた違和感の正体。


『私の右目は、イヴの目と同じ。だから、見えた。
……それに、この毛先の色も』


自身の髪の先を指で摘んだルナ。水浅葱色の髪の途中から毛先にかけてキラキラと光る白銀の髪が陽光に照らされて輝いている。


髪も右目もイヴと同じ。


––––––何故?


『理由は、云えない』


俺が訊きたい事を読み取ったのだろうか。無表情のまま俺を見据えるルナは俺が問う前にそう云って口を噤んだ。


菊池ルナを知れば知るほど疑問が募るばかり。


気まずくなった雰囲気が俺達の間に沈黙を作り出す。冬風の音が耳元で熱を攫った音を聞いて、俺は立ち上がった。


「詮索が過ぎたな、悪りぃ。……だが、一つだけいいか?」

『…?』

「その理由はよォ。‥…太宰の野郎は知ってンのか?」


ルナに背を向けたまま問う。もし、俺が知らずに太宰が知ってたらそれは癪だ。何がとは云わないが負けた気がするからだ。ちらっと視線を後ろに向けてルナを見る。


ルナは、首を横に振っていた。


『太宰は、知らない。知っているのは首領だけ』

「…そう、か」


どことなくいい気分だ。太宰が知らないのなら、何がとは云わねぇがまだ負けてはいねぇ。





***




調査とは粘り強さが必要だ。


地道に聞き込みを行い、得た情報を元に目的へと辿り着く。そのために欠かせないのが先般も云った粘り強さ。


だが、聞き込みの時点で有益な情報が得られなければ、途中で心が折れることもある。


「マジで何も出てこねぇ…」


あれから既に数時間は経過した。もう心が折れかかっている中也は今更だがバイクに乗って聞き込みしていくべきだったと後悔する。このまま何も情報が得られなければ、任務から下ろされてしまうかもしれない。そんな焦りに追い込まれる中也だが、準幹部としてそれだけは避けたいと意気込む。


そんな時だ。



『くしゅっ』


そんな小さな音が聞こえたのは。中也はその音の方に振り返る。相変わらずの無表情だが、鼻の頂きを赤くしたルナ。それもそうだろう。こんな極寒な日にその格好じゃ寒い事は一目瞭然だ。中也は外套やマフラーを着けているが、ルナは黒布一枚なのだから。


「おいおい何か外套か何か持ってねぇのか?風邪引くぜ?」

『…外套は、動き辛い』

「見てるこっちが寒みィんだよ」

『……。』

「……はぁ、仕方ねぇな」


中也は自身が身に付けていた首元のマフラーを外し、それをルナの首に巻いてやる。


『…?』

「これなら、軽りィし動き辛くなることもねぇ」


目をぱちくりと瞬かせるルナ。そんなルナの頭を中也はマフラーを巻き終わった後、優しく撫でる。


「ちったァ温っけぇだろ?やるよ」


中也はそう云って歩き出した。ルナは何故中也が自分にマフラーを巻いてくれたのか理解できずにいた。そして、視線を中也の背中から自身に巻かれたマフラーへと移す。


ルナがマフラーを着けたのは初めてだった。何のために中也がこれを着けてくれたのか。そんな疑問がまだ残ったまま、ルナはその緑のマフラーに触れ、顔を埋める。


『中也の、匂い』


それは迚も優しい匂い。

それに、凄く、


『…あったかい』


首元だけじゃなく、体全体まで広がる温かさにルナはそのマフラーに顔を埋めたまま目を閉じる。


そうこれは前に、熱を出した時にも感じた。


とても、“安心”する温もり。


「おい、ルナ。何してんだ。早く来い」


呼ばれた名に目を開けたルナ。


視界に映った中也は不思議そうに首を傾げてルナを待っている。ルナはもう一度マフラーに触れてから、中也の元に駆け寄った。



***


「何だありゃ。何かあったのか?」


ガヤガヤと騒がしい人集り。


何かを取り囲むように出来ているそれに気づき中也とルナはそこに近づく。人と人の間から見えたその中心には一人の女性が倒れていた。


「誰か救急車を呼んでくれ!彼女が急に倒れたんだ!」


意識を失っている女性を介抱しているのはサラリーマンの男。仕事仲間なのだろうか。戸惑う人達に的確に指示を出していき、青白い顔で倒れている女性に必死に声を掛けていた。


『…中也』


その様子を見ていた中也は急に掛けられたルナの声に視線を向ける。ルナはジッと人集りの真ん中を見据え、そして、指差した。


『蜘蛛の糸』


ルナのその言葉に目を見開いて、倒れている女に視線を向ける。目を凝らして女の首の辺りを見据えた。そう、蜘蛛の糸は見えないのではなく、見えにくいのだ。



キラッと光った一本の細い線。

それが女の首から繋がっている。



中也は人集りを掻き分けた。漸く、見つけた異能力者の手掛かり。


二人が人集りを抜けて前に出たその瞬間。


倒れていた女の目が開き、此方に視線を向けた。それに驚いたサラリーマンの男が声を掛けたが、女はゆらりと立ち上がる。それは自分の足で立ったというより、吊るされているように。そして、まるで操り人形のように女は走り出した。


「なっ!逃げやがった」

『多分、誘き寄せる為の罠。相手は私達が探してる事を知っている』

「ンなら、話は早ぇ。犯人直々に居場所を案内してくれるってこったろ?上等じゃねぇか」


ニヤリと口角を上げた中也。そして、中也とルナは騒つく人集りを置いて走り去った女を追いかけた。



***



辿り着いたのは倉庫街。


港湾都市にはよくある物資を保管する為の巨大な倉庫だ。そこに扉が開け放たれた一つの場所があった。


「此処だな」


扉に背をつけて倉庫の中を窺う。薄暗くて中の様子は静まり返っているが、確かに中から人の気配が感じられた。中也は反対側の扉に背をついて同じように中を覗くルナに目を向ける。


「おい、ルナ。無理だけはするんじゃねぇぜ。ヤベェと思ったら逃げろ」

『…それは、命令?』


そう問うルナを見て、中也は眉を寄せる。こんな時、太宰なら“命令”を使ってルナを使うのだろう。そして、ルナは必ずそれに従う。


「否、違ぇよ。だが、一つだけ守れ」


中に一歩踏み出した中也の背中をルナは見据えた。


「絶対ェに、死ぬんじゃねぇぞ」


小柄なのに大きく見える背中。

それを追いかけてルナも倉庫の中へと入った。



中は広かった。あたりを見渡せば積荷が幾つも山を作っている。少し埃っぽい臭いが空気を漂っていたが、普通の倉庫だ。


その空間の真ん中に女が一人立っていた。両足と両手は床に向かってだらんと垂れ下がり、首には一本の蜘蛛の糸。


そして、女の周りに、否、この倉庫の中に張り巡らされた大量の糸。そこは蜘蛛の巣と化していた。


「出てきやがれ蜘蛛野郎!此処にいるこたァ判ってんだ」


中也の声が倉庫内に響いたが、それは数秒もしないうちに消える。だが、その直後、返事が返ってきた。それも中也の耳元で。


「僕に何か用かな?」


中也の視界の端にあったのは男の顔。それも逆さ吊りの状態でニンマリと不気味に嗤っている。その男は確かに写真の男と同一人物だ。



振り返ると同時に蹴りを入れた中也。だが、手応えはなく空気を裂いただけ。中也は舌打ちをして消えた気配を探る。


「おおー、怖い怖い。いきなり蹴るなんて酷いんじゃないのかい?最近の子供は教育がなってないなぁ」


声がする方へと視線を向ければ、そこには宙に浮かぶ男。芝居がかった口調で肩を竦めるその男は空中に立っていた。否、実際は違う。男は細い蜘蛛の糸の上に立っているのだ。


「チッ、莫迦にしやがって。こちとら唯の餓鬼じゃねぇんだよ」

「そのようだね。知ってるよ。君達、ポートマフィアだろ?まさか、横浜一の非合法組織を使うなんて、今回は流石にやり過ぎたかな。とうとう彼奴等・・・、僕を始末する心算らしい。はぁ、困ったな」

「彼奴等?何の事だ?」

「あれ?彼奴等の依頼で僕を始末しにきたんじゃな…ッ!」


言葉を止めた男が腕を上げた。その瞬間、束になった蜘蛛の糸が盾となり飛んできた銃弾を防ぐ。


カランと音を立てて床に落ちた弾丸。男はそれを撃ったであろう人物に目を向ける。ルナは拳銃を構えたまま男を冷たい瞳で見据えていた。


「話の途中なのに。……嗚呼、君、あの時僕の可愛い操り人形マリオネットを壊した子だね」


首を横に倒してルナを見遣った男。その表情は気味が悪く、異質な雰囲気を醸し出している。


「折角黒服の彼等をマリオネットにしてあげたのに君が首を落としちゃうから蜘蛛の糸が解けてしまったじゃないか。おかげでまた詰まらないマリオネットしか手に入らなかった」


男はそう云って右手を差し出す。5本の指に巻かれた蜘蛛の糸。その先に繋がれているのは先刻倒れていた女と積荷の後ろから出てきた四人の男達。その誰もが普通の一般人だった。だが、その手には短機関銃やナイフなどの武器がある。


「だから、君が責任取ってくれるよね?」


男が指を動かしたと同時に糸に操られた五人が一斉に動き出した。五人全てがルナに総攻撃をし掛ける。


ルナは放たれた短機関銃の銃弾を避け、懐から短刀を取り出した。続いてナイフを持って向かってきた女を蹴り飛ばし、銃を撃つ男の頭を台にして宙に飛び上がる。そして、糸の上で見物してた男目掛けて短刀を振り下ろした。


「ルナ!」


自分の名を呼ぶ中也の声に反応して背後を見れば、蜘蛛の糸が束になって迫ってきていた。それを細い糸を足場にして何とか避けたルナ。


「ははは、吃驚した。恐ろしい子だね君。まさか、此処まで来れるとは。でも、罠に掛かったのは君の方だ」


男が左手を上げたその瞬間、幾多もの糸の束が至る所から湧き出た。それがルナ目掛けて飛んでいく。


だが、その糸はルナに届かなかった。


それは男の体に隕石のような速さで飛んできた物が命中したからだった。男の体に突っ込んできたのは質量が数十倍にもなった木箱。この倉庫にあった積荷の一つだ。


「手前の相手はルナだけじゃねぇぜ?イカれ野郎」


蜘蛛の男がルナばかり相手している間、積荷に高重力をかけてそれを男目掛けて放った中也。ルナは蜘蛛の糸の上に立ったままそんな中也を見据える。中也も砂埃が舞うそこから目を離して、ルナを見上げた。そして、何も怪我をしていないルナを見て、安堵を溢した。



「今の攻撃はよかったよ」

『…っ!』
「なっ!」


そんな声が響いたと同時、砂埃が舞うそこから放たれた糸の束。そして、再び動き出した幾多もの束がルナを捕らえようと生き物のように動き出す。


ルナは糸を蹴って、それを回避した。




–––––––––筈だった。



たった一本の蜘蛛の糸がルナの首に巻かれていた緑のマフラーを絡め取る。



首からスルッと解かれたマフラー。



それに気づいたルナは離れていくマフラーに手を伸ばした。



しかし、ルナの手はマフラーを掴めず空を切る。



そんなルナの腕を蜘蛛の糸が捉え、そして、そのまま幾多もの蜘蛛の糸がルナの体を呑み込んでいく。


「ルナ!」


目を瞠って中也はルナの名を叫ぶ。だが、もうそこにはルナの姿はない。そこにあるのはまるで巨大な繭のようなその塊だけ。


「ふふ、あははは!」


気狂いに高らかに嗤う男の声が響いた。中也はその嗤い声の方へと目を向ける。砂埃が晴れたそこには蜘蛛の糸がまるで守るように男を囲っていた。恐らく、それで先程の中也の攻撃から身を守ったのだろう。


「残念だね。もう、彼女はあそこから出られないよ。たとえ、どんな異能力者でもあの繭を破ることなんて不可能だからね!」

「如何いう事だ?」

「僕は今までずっと沢山の人を僕のマリオネットにしてきたんだ。そんな僕を一般人の軍警が捕まえられなかったのは僕が異能力者だったという事だけじゃない。それは彼奴等・・・が僕の犯罪記録を隠滅していたからなんだよ」

「隠滅だと?」

「そうだよ。僕の異能力は蜘蛛の糸を操るだけじゃない。こんな風に繭に閉じ込めて捕まえる事が出来る。そして、其奴が異能力者なら其奴の異能力を封じ込める事が出来るんだ」


異能力を封じ込める?

それは所謂太宰の異能力無効化と似通ったもの。

だとしたら、あの蜘蛛の糸で出来た繭は物理攻撃も異能力も効かない。それはつまり、奴が異能を解くまで二度とあそこから出る事が出来ないという事。


「彼女は永遠に彼処から出れない。でも、大丈夫。そんなの可哀想だから、ここで終わらせてあげる」


男が左手を掲げた瞬間、ルナが囚われている繭から音を立てて出てきて煙。シュゥゥと鳴る音はまるで何かが溶け出しているような音だった。


「猛毒蜘蛛が持つ毒ガスだ。もう彼女は骨さえ残らないよ」

「くそっ!!」


急いでルナの元へと駆け寄った中也は重力を乗せた重い蹴りを繭目掛けて放った。だが、その繭はビクともせず、煙を上げ続ける。


「ッ!ルナ!おい!ルナ!」

「もう無駄なのに。往生際が悪いね君」

「五月蝿ぇッ!」


近寄ってきた男を蹴りで追い払った中也は男を睨み付ける。空気を震わす殺気を放つ中也と繭の中にいるルナを見比べてふーんと顎に手を当てた男。


「君、彼女の事が大切なんだね。なら……」


男は再び左手を上げて、ニンマリと嗤った。


「君も直ぐに彼女の元に逝かせてあげる」


蜘蛛の糸が中也を襲う。あれに捕まったら終い。中也は舌打ちを溢してそれを避ける。だが、視界の端に映る煙を上げる繭に意識を持っていかれる。もう、あの繭を壊すには男を殺す他ない。たとえ、殺したとしてもルナが生きているとは限らないが、それでも、任務はこの男を殺す事。



『–––––中也』



中也の脳裏にルナの声が響いた。




––––––––俺は、ルナを守ってやれなかったのか。



血が滲むほど歯を食いしばって動きを止めた中也に、蜘蛛の糸は襲いかかる。





刹那、地を震わす咆哮が響いた。



目を見開いて上を見上げた中也。


目を向けた先に、ルナを捕らえていた繭が形を歪ませているのが見えた。それは徐々に膨れ上がっていき、そして、次の瞬間には音を立てて糸が弾け飛ぶ。


「な、な、なんだ?」


血のような赤い瞳と白銀に輝く毛。
鋭い牙を生やした大きな口から鳴る唸り声。


繭の中から出てきたそれは白き化け物と溶け出している服から煙を上げるルナだった。


「な、何故だ!?有り得ない!その繭の中は、異能が使えないはずなのに!」


震える声で叫ぶ男の方へと黒い影になったイヴがルナを乗せて突っ込んでいく。そして、短刀を構えたままルナは男の左腕を斬り落とした。風圧に押されて下に落ちていく男。周りの糸が散り屑のように消えていく。


『中也』


落ちていく男を見ていた中也は呼ばれた自身の名に上を見上げた。そこには中也をしっかりと見据えているルナの姿。その意味を理解した中也は落ちていく男を追うように飛び降りて、重力の乗った拳を振り上げた。


「これで終ぇだ!」


男の腹に減り込んだ拳。その勢いのまま男は地面に叩き込まれた。糸の防御もない。中也の拳を諸にくらった男は今度こそ致命傷だった。


中也はゆっくりと地面に降り立ち、地面にめり込んだ男を見遣る。彼はもう息をしていなかった。



ルナは中也が男を倒したのを見届けて辺りを見渡した。そして、床に落ちていた緑のマフラーを見つけ、それを拾い上げる。付いてしまった埃を払ってそれをもう一度首に巻いた。やはり、迚も温かく、優しい香りがした。


「ルナ!」


どこか焦ったような声に目を向ければ、駆け寄って来た中也に直様抱き締められた。目を瞬かせるルナ。ぎゅっと背中に回った中也の腕は強くなる。何故抱き締められているのか理解できず、如何していいか判らないルナは中也の腕の中で固まったまま暫く動かけなかった。


「はぁぁ。ったく、マジで心臓止まるかと思ったぜ」


本当にルナが死んでしまったかと思った。だが、今、ちゃんと此処にいる。それだけで、こんなにも安堵する事に中也はルナを抱き締めて、それを噛み締めていた。


『中也、痛い』

「あ、悪りィ……っンな!?」


謝罪してルナを離した中也だが、ルナの姿を見た瞬間上擦った叫び声を出した。その訳は今のルナの格好を見たからだ。先刻まで気付かなかったがよく見たらそれはあられもない姿。毒で溶けてしまった服はもう本来の役割を果たしていない。完全に胸は晒されているし、下着も丸見え。もうほぼ裸だ。


「見えてんぞ莫迦!早く隠せ!!」


ぐるんと勢いよく背を向けて赤い顔のまま叫ぶ中也。だが、そんな耳まで真っ赤になってる中也を不思議そうに見上げるルナは首を傾げるだけ。


『何を?』

「何をじゃねぇだろ!?手前女だろうが!少しは恥じらえや!!もういいこれ着てろ!」


中也は羽織っていた黒外套を背を向けたまま差し出す。それを受け取ったルナは取り敢えず云われるままに袖に腕を通して前をしめる。


「…着たか?」

『うん』


恐る恐る振り返った中也の視界にはぶかぶかな外套を着たルナが映る。ちゃんと晒されていた肌は隠れていた。安堵の溜息を吐いた中也だが、裸を見られた事に全く気にしていない様子のルナを見て自分だけ意識している事に恥ずかしさを覚える。それを紛らわす為に襟足を掻いた。



その時、倉庫の外から車の音が聞こえてきた。其方に目を向ければ背広を着た一人の男と黒の戦闘服を着た数人の男達が中へと入ってくる。武装をしているが襲ってくる雰囲気はない。


「ふむ。思ったより早く終わったようですね」


地面にめり込んで死んでいる男を冷たい瞳で見据えて、淡々と云った背広の男。きっちりと七三分けに揃えられた髪とその服装からは彼の性格が窺えるほど。


「手前等、何モンだ」


中也の問いに振り向いた男。中也はその時、自身の背後に隠れたルナに気付きながらも男から視線を逸さなかった。


「嗚呼、ご苦労様でしたね。後は我々が処理をします」

「おい、質問の答えになってねぇぞ」

「…はあ、我々が何者か。それは後ろにいる彼女なら判っている筈ですが?」


頑なに答えない男に舌打ちを溢して、中也は視線だけをルナに向ける。ルナは横を向いたまま男を見ていなかったが、中也だけに聞こえる声量で口を開く。


『…異能特務課』

「異能特務課だと?」


その組織の名は聞いた事があった。


内務省異能特務課。


それは国内の異能者を統括し管理する表向きには存在しない事になっている国内最高峰の秘密組織。


そんな奴等が何故此処に……。


その時、中也は蜘蛛の男が云っていた言葉を思い出す。ずっと頭に引っかかっていた事。



とうとう彼奴等・・・、僕を始末するする心算らしい。

それは彼奴等・・・が僕の犯罪記録を隠滅していたからなんだよ。




蜘蛛の男は話の中で何度も“彼奴等”と云っていた。それは異能特務課の事だったのだ。漸く、中也の頭の中で辻褄があった。


「成る程な。その蜘蛛野郎は手前等が飼ってた異能力者って訳か」

「飼っていたとは人聞きの悪い。我々の仕事は常に異能力者を管理し統括する事なのですから」

「だから、対異能力者として使える其奴を今迄野放しにさせてたってこったろ?奴の犯罪記録を帳消しにしてまでなァ」

「何と云われようと構いませんよ。非合法組織に揶揄られても痛くも痒くもありませんからね」


涼しい顔で受け流す背広の男に中也は舌打ちを溢す。そんな中也の舌打ちも聞かぬ振りをして男は当たりを見渡した後、倒れている五人の一般人の側に屈み、両手を合わせた。それを見て、中也はそれが死体である事に気付く。糸が消えれば、操られていた人達は解放されると思っていたがそうではないらしい。


「全く、悪趣味な異能だ。人を死体にして操るなど」


男のその言葉に中也は目を見開く。


「生きたまま傀儡にするんじゃねぇのか?」

「いえ。彼が人を操るには一度彼の手で殺さなければなりません。彼が生み出す猛毒蜘蛛に噛まれた人間は一瞬で毒が全身に回り即死し、そうして出来た死体だけを彼が使役できるのです。ですが、それは一度に五人迄と制限があるようですが、最近では一般人をそうやって取っ替え引っ替えしていたようでね」



死んだ者しか操れない。
それなら、あの時も……。



「何はともあれ今回は助かりました。銃弾も異能も効かない彼を始末するのは我々でも少々厄介でしたから」


背広服の男は立ち上がって、そして続けた。


「しかし、異能力が効かない筈の相手を一体如何やって倒したのか。迚も気になりますが」


先程と打って変わった温度を感じさせない男の目が中也の背後にいるルナに向けられる。探るようなその目は殺気を含んでいた。それに気付いた中也は背中に冷や汗を滲ませてルナを横目で見る。ルナは何も云わずに何処か遠くを見据えているだけ。


そのルナの様子に諦めの溜息を吐いた男は中也達に背向けた。



「まあ、いいでしょう。ですが、覚えておきなさい。
我々はただ君の存在を見逃してあげているに過ぎない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、とね。それだけはお忘れなきよう」



背広の男はその言葉を残して黒い戦闘服を着た男達を従えて去って行った。




二人だけ残った静かな倉庫内で、中也とルナは暫く何方も言葉を発さなかった。


冬の風の冷たさが入口の隙間から入り込み、体に突き刺さるのを感じながら中也はゆっくりと振り向きルナを見据える。


「あの背広服の野郎と知り合いなのか?」

『……。』

「答えたくなかったらいいけどよ。……手前に向けられた彼奴の目は尋常じゃねぇ殺気を含んでやがった。手前も気付いてたんだろ?」


そして、もう一つ殺気があった。男の殺気よりも恐ろしく、体中が身震いを起こす程のその殺気はルナの足元で蠢いていた黒い影。それはまるで、ルナの中から無理矢理出てこようとしている様にも見えた。


「なァ、ルナ。何であの時、糸の繭の中で手前は異能を使えた?」


もし、本当に蜘蛛の異能者が捉えた者の異能力を封じ込める力を持っていたのだとしたら、ルナはあの時、彼処から出る事は不可能だった筈。


だが、ルナはイヴを使って繭を破壊してみせた。その事実こそかが有り得ない事なのに。


「何で手前は使える筈のない異能力で、イヴを呼べたんだ?」


オッドアイの瞳をしっかりと見据えて中也はその問いを口にした。



それは屹度、知る事を許されない秘め事。




『イヴは、』


 

菊池ルナの最大の秘密。






『–––––––イヴは私の異能力じゃないから』
















俺はずっと思っていた。



〝  白き化け物イヴを出現させる能力 〟



ずっとそれがルナの異能力だと疑わなかった。



だが、それは間違いだった。





なら、イヴとは何だ?



《 恩讐の彼方に 》とは何だ?


ルナの本当の異能力とは?






その答えを俺は、この追憶ではまだ語りえない。








* .・☆. 【追憶の三 その秘め事は…】fin .☆・. *
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