パタンと部屋の扉が閉まる音が辺りに響いた。地下拷問室から二人が向かったのは中也の部屋。中也が拠点で寝泊まりする時に使う部屋だ。


沈黙。


ルナも中也も何方も言葉は発せずに佇む。ルナはずっと背中を向けていて、中也からはその表情が見えないが、明らかに怒っている。中也は久し振りに、やっちまったな、と心の中で後悔をした。


帰ってきたら一番初めに会い行くと約束したルナを放って、俺は憎っくき元相棒の元へ行ってしまったのだ。太宰の野郎が捕まったと聞いた時はそりゃ高まる興奮が抑えきれずに足を進ませてしまったのが悪かった。


「その、悪かったな」


沈黙を破ったのは歯切れの悪い俺の謝罪。あまりの静けさに音を出すことを躊躇われたが、謝罪の言葉以外は出てこなかった。


『…何が？』

「約束……破っちまって」

『いいよ。どうせ中也は私よりも太宰が好きなんでしょ？』

「ンなわけねぇだろ」

『一番に会いに行ったくせに』


次の言葉が出てこない。確かに会いに行ったがそれは厭がらせをしに行っただけで、会いたくて行ったのではない……こんなモンは言い訳に過ぎんか。今回は約束を破ってしまった俺が悪かったのだから。

『＿＿……たのに、』

もう一度謝ろうと帽子を取ろうとした俺の耳に小さな声が入る。視線をルナに向ければその小さな肩は震えていた。


『ずっとずっと待ってたのに』


泣きそうな声だった。それを聞いた時、俺の体は動いていた。そのか弱く可憐な肩を引き寄せて後ろから抱き締める。回した腕に暖かい雫が落ちるのを感じた。


「悪い、悪かった。ルナ」

『莫迦、莫迦莫迦中也ッ！最低男ッ』

「悪い」

暴言を吐き続けるルナを抱き締めて俺は耳元で謝罪の言葉を伝え続ける。暫く、同じ事を繰り返して漸くルナが落ち着いた頃に体を離し、此方に体ごとルナを振り向かせた。向かい合った事で見えるようになったルナの表情。大きな瞳には涙が溜まり、瞬きをすれば今にも零れ落ちそうだ。目元に溜まるそれを指で拭ってやってから、今度は正面から抱き締める。

『許さないから絶対』

「どうすれば許してくれんだ？」

『シュークリーム100個』

「案外安いな」

そう云えば、胸を押されギッと睨まれたので明日買ってくる事に決めた。


涙を止め鼻を啜りながら俺を見上げたルナ。その瞳は不安そうに揺れている。


『中也も私に会いたかった？』


何を心配する必要があるのか。そんなもん当たり前だ。西方の小競り合いを鎮圧する毎日。いつも近くにいた存在がいない事は心のぽっかりと穴が空いたような感じだった。毎日、頭の中に浮かび上がる笑顔を思い出し、早く会いたいと何度思ったかしれない。何度手前の声を聞きたくなったことか。


「俺もずっと手前に会いたかった」


もう一度その小さな体を引き寄せ、腕の中に閉じ込める。柔らかい髪から香る甘い匂いを吸い込み、その腕の中にいる存在を確かめた。


ルナは擽ったいのか少し体を捩ったが、それを逃さなように左手は腰を引き寄せ、後頭部には右手を回した。そして、顔を肩から離し、顔を上げたルナの唇に喰らい付く。


『んっ』

声を漏らしたルナの唇を割って舌を捻じ込み、奥に縮こまっていたルナの舌を俺のそれで絡め取った。久し振りに感じた此奴の舌はこんなに熱かっただろうか。


『んっ……はぁ…』


酸素を求めて、胸を押してきたルナから少し顔を離してやれば潤む瞳が視界に入る。ルナは熱い吐息を漏らし、頰を染めて視線をずらす。


『中也、シようとしてるでしょ』

「はっ。久し振りに会えたんだ。抱かせろよ」

『……優しくしてくれるなら』

「仰せのままに」


ルナの手を取り手の甲にチュッと口付けを落とした中也はルナの体を持ち上げ、部屋に置いてあるベッドに身を沈めた。