第二章 過去に抗う者達よ
「おい…、ルナ……」
『なーに?中也』
天井を見上げた儘不機嫌な顔を晒している中也とは反してニコニコと笑いながら椅子に腰掛けているルナ。
「なーに?じゃねぇよ!何で俺をベッドに縛り付けてやがんだ手前!!」
青筋を立てた中也は怒り任せに怒鳴る。だが、ベッドに体を拘束されている中也は動くことが出来ずに辛うじて顔をルナの方へと向けれるだけだった。
一昨日の夜、Q奪還作戦に参加して汚濁を使った中也は今現在、治療中の身であった。もう大分体も回復していて徐々に力も戻ってきているのだが、それを許さないルナは中也を無理矢理ベッドに貼り付けて絶対安静を強要させている。
『何でって…また私に内緒で任務に行かないように』
「任務どころか、腕も動かせねぇぞオイ!」
腕を上げようと力を入れる中也だが、それさえもベッドに固定されていて叶わず、虚しくガタガタと音が鳴るだけ。
『暫くは安静にしててね。大丈夫大丈夫、ご飯も私が食べさせてあげるから。はい、あーん』
「巫山戯んな!…って、アチッ!せめて冷ましてから食わせろよ!!」
『あ、ごめん。ふぅーふぅー』
「もういいわ!!」
治療室から中也の怒鳴り声が聞こえる度に部屋の外で見張りしている黒服達が肩を揺らしていた。だが、これは慣れである。一々二人の会話を気にしていたらキリがないのだから。
ビクついている黒服の男達がいるなど知る由もないルナは器に残ってしまったもの食べ始めた。
そんな時、部屋に響いた叩音にルナは返事をして振り返る。扉を開けて入ってきたのは紅葉だった。彼女はモグモグと口を動かしているルナを見てから、中也に視線を向けた。
「中也、食欲がないのかえ?」
「いや……こんな身動き取れねぇ状態で食えと云われても…」
『中也には絶対安静にしてもらわないと……私、心配で』
「ほほ、ルナは優しいのう」
『えへへ』
紅葉に褒められて嬉しそうにはにかむルナ。そんな二人を見て、これのどこに優しさがあるんだァ……?と中也は一人心の中で疑問をこぼした。
その時、再度部屋に響いた叩音。其方に視線を向ければ一人の黒服の男が頭を下げた儘その場に立っていた。
「ルナ様、首領がお呼びです。至急、首領執務室に来るように、と」
淡々とした口調で告げられた言葉。彼の声でその首領からの指示が重大なものであると悟ったルナは顔から微笑みを消して椅子から立ち上がった。
「ルナ」
だが、ルナが部屋から出る前に中也はルナの背中に向かって呼びかけた。
「無理するんじゃねェぞ」
扉の前で立ち止まった背中に中也は真剣な声でそう云った。そして、振り返ったルナ。その口元には笑みが浮かんでいる。
『それ、中也が云えた事じゃないよ』
冗談交じりに笑い、去っていったルナ。その後暫く中也はルナが出ていった扉を見詰めていたのだった。
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__首領執務室。
暗く閉ざされた部屋には椅子に腰かけた森とその前で後ろ手で手を組んで立っているルナだけしかいない。
『首領、用件はなんでしょう?』
緊迫した雰囲気の中、先に口を開いたのはルナだった。彼女は微かに口元に笑みを浮かべていたが瞳の温度は冷たく森を見据えている。対して森も同じように笑みを浮かべていたが。
「探偵社が組合の
『へぇ、探偵社が…。乗り込んだのは人虎君かな?そんで、うちの龍ちゃんは彼を追いかけて独断行動かぁ』
「その通りだよ。彼の独走癖は健在らしい」
『手が焼けるね』
ふふ、と笑ったルナは『それで?』と鋭い視線を森に向けた。まさか、この雰囲気のままこれだけの話で終わる訳がない。それ故にルナは本題を森に促した。
『私は何をすればいい?』
森がルナを呼び出した
「今、組合は白鯨をこの街に落とし横浜を破壊させようとしている。もし、白鯨に乗り込んだ彼等がそれを阻止出来なかったのなら……その時には__」
指を組んだ儘机の表面を見据えていた森はゆっくりとした口調で云う。そして、視線を上げ、厳格な瞳をルナに向けた。
「横浜に落ちる前に、君が白鯨を破壊しなさい」
それは組合戦になって初めて森がルナに出す“命令”だ。
『首領の命とあらば』
ルナは忠君の如く森に