今日はいよいよ潜入当日。


鏡の前で、変装に抜かりがないか確認していく。


おぉ〜！我ながら完璧！


調子に乗って1回転してみる。


さて、家を出る前に身代わりの情報を確認しておこうかな。


冬里 亜美
女性
頭脳よし、態度よし、運動神経よし

まさに優等生だ。


正直行きたくはないが、行かなければ僕が始末されるだろう。


…よし、行こう。


冬里 亜美の情報を反芻しながら歩いていると、あっという間に公安の前にたどり着いた。
覚悟を決めて足を踏み入れる。


うわぁ〜いたよ。

金髪ベビーフェイス！←

相変わらず顔がいいな〜。


冬里に指定されていた席を見て、僕はさらに帰りたくなった。


降谷さんの隣…だとっ！


僕の人生、いきなり終了かもしれない。

いや、大丈夫。
僕なら騙し続けられる。
今までもそうやって生きてきたんだ。


1つ息を吐いて席に着く。


「おはようございます」


普段の僕がしないような優等生スマイルを貼り付けながら、降谷さんに挨拶する。


挨拶は大切だからね！
印象第一！


「おはよう」


真顔で挨拶が返ってきた。

任務の度に妖しい笑顔をくれるバーボンを見慣れているからか、とても新鮮だ。


「今から朝礼を始める。まずは新入の紹介から」


背筋を伸ばし、前に出る。
心臓が忙しないが、ポーカーフェイスは崩れない。


「おはようございます。今日から配属されました、冬里亜美です。よろしくお願いします」


綺麗な一礼と、本日2度目の優等生スマイルを放つ。
そろそろ頬が吊りそうだ。


えっ？早い？


優等生は慣れていないんだから仕方がない。

というか…今年の新人は僕だけ？


…まじかぁ。


新人が1人ということは、何かと目立つ可能性がある。
失敗しても、成功しすぎても目立つだろう。
潜入の任務を成功させるには、目立ちすぎない立ち回りが必要となってくる。


「それじゃあお前は、降谷から仕事を習え」
「は…はい」


アブナイ、アブナイ。
思わず『はっ？』って言うところだったよ。
笑顔が崩れなかったことを褒めて欲しい。


僕はそのまま席へと帰り、朝礼を聞き流した。
さて、『降谷先輩』に挨拶をしなければ。


「今日からよろしくお願いします。h…」


いや、待て。
今の僕にはこの人が降谷だとは分からないはずだ。


「あぁ、よろしく」


よかった。
怪しまれてはいないようだ。


「ところで、降谷さんとはどなたでしょうか？」
「僕だ。冬里だったな」
「はい。よろしくお願いします、降谷先輩」


いきなりボロを出しそうになり焦った心を落ち着ける。


「それじゃあ早速、この仕事から始めてくれ」
「分かりました」


初日でこんなんだと、先が心配かも…。


こうして、僕のドキドキ公安潜入捜査がスタートした。