テニスって面白い?(完結)
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この小説の夢小説設定・男性夢主
デフォルト名「望月光瑠(もちづきみつる)」
切原赤也と同い年
テニス初心者
ふざけるが根は真面目
しっかり者
ポジティブ
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母親に赤也の話とテニス部に入ることを伝えると喜んでいた。しかし俺はとても後悔することとなった。
ーーー
「7時の朝練。休みが月に2日。加えて1・2年生は部室やコートの掃除も持ち回りで行う。練習試合も多いな。ワークライフバランスの時代やで」
入部届を提出した数日後のガイダンスで配られた部活スケジュールのプリントを確認する。周りも騒がしくなり、入部を取り消す人もたくさんいた。望月も最初は嫌気が差したが、赤也と先輩たちの試合を目の当たりにしたばかりで興奮しているからか、期待や好奇心の方がずっと上回っていた。
放課後には早速、テニス部のミーティングを行う教室に向かった。赤也と一緒に行こうと誘ったが、嫌だとあっさり逃げられてしまった。教室にはまだあまり人がいなかったが、この前話した丸井先輩とジャッカル先輩がドアの近くに立っていた。
「お。赤也の親友じゃん。テニス部入るの?ウチ厳しいけど大丈夫?」
「どうもです。大丈夫かは分からんけど頑張ります」
「ま、何か困ったらいつでも相談に乗るぜ!……ジャッカルが」
「俺かよ!……とりあえず毎週月曜日は全体ミーティングでこの教室で行うから。1年生はこの辺りに座って待ってくれ」
ジャッカル先輩の言われた場所には先に赤也が座っていたので隣に座った。視線で文句を言われている気がするけどにっこり笑って返す。だんだん人も増えてきて時間になると教室の席は埋まってしまった。部長が教卓に立ってミーティングが始まった。
ーーー
一通り自己紹介が終わって部活のルールなども確認した。入部した1年は40人ほどで内13人が初心者との事。赤也が小声で話しかけてくる。
「先輩から聞いたけど、練習がキツすぎて初心者はもちろん、経験者でも辞めるんだってさ。最終的に半分残るかどうからしいぞ」
「そうなんや……ん?もしかして赤也は俺のことを心配してくれたの」
「ばーか」
「おい、そこ!私語を慎め」
「「すみません」」
ーーー
次の日から本格的な部活動が始まった。朝練の筋トレ、素振り、ランニングは全員合同で行う。しかし、一部を除いた1年生と先輩方の差は明らかだった。俺を含めた初心者組はずっと先輩に怒鳴られ続けて、身体的にも精神的にも疲れて口を開くことさえできなかった。
「たるんどる!10回振っただけで腕が下がっておるぞ!」
『『はい!』』
「真田、初心者にはまだ綺麗なフォームは難しいよ」
「幸村。しかし変な癖がついてしまっては上手くはならない。正しい動きを回数重ねて覚えなければ意味がない」
「そうだけど、毎回言ってたら真田が練習にならないよ。それに……」
(変な癖ついたら、上手くなれない?だから真田先輩はずっと見てくれてたんや。回数やない、上手くなるイメージ……)
放課後の部活も初心者は、脚を怪我して通常練習に参加出来ない先輩の指導で筋トレ中心の基礎練習を行うとの事だった。それを聞いただけで、他の子の顔は不安で曇っていた。暗い空気に耐えれなかった。
「勉強が好きな訳でもないのに、授業をこんなにも待ち遠しいと思う日が来るとは思わなかったな。朝練だけでもう手が震えてるわ」
「望月くん……僕、既に続けられるか心配になってきちゃった」
「最初は皆そうやって!なぁ!赤也もそうやったろ?」
「ひゃっひゃっひゃっひゃ!お前ら足も腕もガクガクじゃねーかよ!そんなんで大丈夫かぁ?」
「赤也そんな寂しい事言わんで慰めてやぁ〜」
「うわっ!汗臭いままでひっつくな気持ち悪い」
「教室までおぶって〜」
皆、苦笑いで滑ってしまった。ノリ悪いなぁと思いつつも、表情はさっきより柔らかくなっていた。
ーーー
放課後、準備運動とランニング後に足を骨折している2年の先輩に指導で練習を始める。
『『よろしくお願いします』』
「部長からは筋トレメインで練習組む様に言われているからラケットはいらない。部長から渡されたメニューによると……ふーん。とりあえず腹筋、背筋、腕立て、スクワット300回やった後にプランク3分とコート外周300周……とりあえずそんな感じで。終わったら声かけてくれ。以上」
「え?300!?」
「ふーん。全部300で統一されてるから覚えやすくて良かったな。おら!ぐずぐずしてると時間なくなるぜ」
「先輩。一言で腹筋、背筋、腕立て、スクワットと言っても色んなやり方があると思いますが……」
「どこ鍛えるか意識したら分かるだろ。なんでも聞くな!自分で考えろ」
そう言って先輩は部室の方に歩いて行った。俺たちは動揺しながらも練習を始めることにした。30回×10セットに分けて1・5・10セットの目のみ1分のプランクを行う、その後に外周走るメニューで組み直した。朝練と同じ様に声を出しながら筋トレを行う。適度に休憩を取っているが、段々声も小さくなって挫けていた。
テニスコートからは真田先輩の怒号が聞こえてくる。基礎練をこなすこともできない自分が情けない。思考がどんどんネガティブになっていく。だから、考えない様に大きい声を出す。
「行くでぇー!!いーち!にー!……」
筋肉の損傷を感じる。早く練習だけでもついていける様になりたい。テニスコートから聞こえる音を励みに戦った。1つ1つの動きに集中する。1時間以上の筋トレで、歩くのも難しいほど身体がボロボロになった。仮に心身共に万全だとしても下校時間までにコート外周300周走り切ることは難しいと分かっていた。
「とりあえず、できるところまでやろ!」
「なあこんな事を毎日しないといけないのかな?」
「流石に明日は別メニューだろ」
「あの負傷先輩1回も見にきてないし、少しくらい誤魔化してもいいんじゃ?」
「ちょっと待って。気持ちはわかるけど、誤魔化しても強くならへんよ」
「いや、望月君こんな基礎練習だけで強くなる訳ないだろ。朝の素振りで学校のラケット持っただけでボールにすら触れてないんだぞ!」
「全国レベルの学校だからできる奴が強くなればいいって思っているんだろ。スケジュールにあったレギュラーのミーティングってなんだよ」
「それ俺も思った。合同練習だってどうせ俺たちは基礎練習だろ?もう辞める」
「待てって!まだ初日やで!落ち着けって」
全員がヒートアップしていた。同級生で同じ初心者の俺の声は何も届かない。同じ状況のはずなのに孤独を感じていた。真っ白な頭の中にで、壁打ちをしているあの時の赤也を思い出していた。
「……俺は、1人でもやるわ。もし、先輩が来たら、望月は足が遅くてまだ走ってますとでも言っといて」
完走できなくても自分に嘘はつきたくなかった。筋トレと違って、テニスコートで練習している先輩や赤也が見えるから自分を奮い立たせることができた。今すぐ逃げ出して空調の効いた部屋で大の字で横になりたい気持ちを全部飲み込んだ。入部前に自主練していたボロボロでかっこいい赤也を繰り返し思い出して憧れを追いかけ続けた。コート内の真田先輩を見て、今朝言っていた言葉を思い出す。
(変な癖がついてしまっては上手くはならない。正しい動きを回数重ねて覚えなければ意味がない。走り方もそうか)
ぐっと顔を上げて、悲鳴を上げている自分の身体に集中する。なんだか倒れてしまいそうだけど、案外俺は丈夫らしい。
下校時間10分前になると練習を止められてしまった。全然時間が足りなかったが、それでもゆっくりでも進んでいる。
ーーー
次の日の朝。全身が痛くて起き上がるのもやっとだった。それでも朝練に遅刻しない様に自分を叩き起こした。学校に行くと1年生初心者組が13人から俺を含めて8人にまで減っていた。
「あれ?昨日疲れすぎて遅刻かな?」
「昨日望月が1人でコート外周走り行った後、愚痴っているのを銀髪の先輩に見られてしまって、真田先輩にチクられたら怒られるし練習キツイから辞めるって」
「俺らはせめてボール打つまでは続けようと思う。……でも望月みたいに全部やるのは難しいかな。今日も身体ヤバイ」
「せやな。俺も起き上がれんかったくらいや。自分のペースで頑張ろうぜ」
ーーー
しかし、練習内容はずっと変わらないままだった。なんとか残ったメンバーはサボりながらだったが支えあって耐えていた。やっと明日は第3日曜日。つまり待ちに待ったオフの日だ。体をしっかり休ませることができる。
口で指示だけして俺らの練習を一度も見に来たことの無い負傷先輩の一言がなければ。
「あ、お前ら明日休みだから軽く20kmくらい走っとけよ」
「え。自主練ってことですか?」
「怠けんじゃねーよ。ラケットすらまともに振れないお前らが休める訳ねーだろ」
きっと皆はサボるんだろうと思った。ここで差がつくなら俺はやり遂げたいと思った。強くなりたい。赤也が見ている世界に早く辿り着きたい。
ーーー
休日のランニングも3時間かかったが、走りきることはできた。朝練で遅れを取っているのは確かだが、最近はその差が少し縮まった気がする。それだけでかなりモチベーションは高まった。きっと午後の筋トレと外周も時間内で終われる様になるんだ。気合を入れて取り組もうとすると負傷先輩が話しかける。
「おい、初心者。休みも走ったか?」
『『はい』』
「ほい。証拠は?」
「え?」
皆の顔を伺うが全員戸惑っており、そんな話は聞いていなかった。望月は地図アプリを開いて昨日自分が走ったルートを選択する。
「……俺はこのルート走りました」
「いや、何も証拠なんねーよ。もっとちゃんとしろよ」
「ちゃんとってなんやねん。そんなん一言もなかったやんか!」
「考えれば分かるだろ。あーあせっかく今日からボール打てると思ったけど、これじゃあな。せめて時間内に筋トレと外周終わらせろ。ま、終わる訳ねーけど?じゃっ頑張って」
わざとだ。きっと本当に時間内で終わらせても嘘と決めつけて、ラケットすら持たせるつもりがないんだ。1人の悪意によって憧れへの道を閉ざされるのか?立海テニス部は実力こそ全て。その中で初心者の声は届くのか?出来ないなら辞めろと言われるだけだ。こんなことで俺はテニス部を辞めなきゃいけないのか?
それでも俺の中でテニス部を辞めるといった選択肢はなかった。いつもの筋トレをしながらどうやって証拠を用意するか考えていた。
「望月……お前なんで筋トレしてんだよ」
「もう無理って分かったから俺ら帰るよ」
「ん〜そうか。分かった。気をつけてな」
「お前まじかよ!残るつもりか!?」
「いや、だってなんで俺らが辞めなアカンねん!少なくともアイツに一泡吹かさんと気ぃすまへんわ!」
「……頑張っても身体壊すだけだよ。まぁ、好きにすればいいと思う」
ーーー
初心者が俺1人になって数日。入部してからそろそろ1ヶ月経つ。不服だが、このメニューにも慣れてきた。筋トレは撮影して、ランニングはGPSアートアプリで記録している。今日は下校時間超えてもゴネて最後までやりきってアイツに突きつける。それでも理不尽なことがあれば……あんまり話したことがないけど、メニューを作った部長に抗議してみたいと思う。ここまでやって駄目なら考え直すしかない。
「下校時間だから望月も着替えて」
「すみません……もう……ちょいで……終わるので……最後まで走らせてください!」
「それは出来ない。それに初心者の君は筋肉痛も酷いだろう。休むのも練習だ」
「先輩、俺と真田と柳で久しぶりに30分だけ打って行きます。彼のことは俺たちで見ていますから」
3強の幸村先輩が、3年の先輩と俺の間に入って、一緒に説得してくれた。幸村先輩と俺を交互に見た先輩は深くため息をついて少し笑った。
「……分かった。お前ら無理はするなよ30分だけだからな。部長と先生には話しておくよ」
「ありがとうございます」
「あ……ありがとうございます!幸村先輩もありがとうございます」
「さて、30分で終わるかい?それ以上は風紀委員の真田を説得しないといけなくなるけど」
「あと43周です」
「今のスピードだと難しいだろう。また明日頑張ればいいんじゃないかな?焦らなくてもテニスは逃げないよ」
「でも……どうしても今日やり遂げたいです。俺、走ってきます」
せっかく作ってもらった時間だ。必ずやり遂げよう。身体の悲鳴は聞こえているが、不思議と力がみなぎってくる。これまで言われたままで筋トレやランニング行っていた訳ではない。時間を気にして、正しいフォームを気にして、呼吸を気にしてきた。
自分の走っているルートしか見えない。音も自分の呼吸と心臓だけ。深く、深く集中する。
ーーー
「300周……はぁはぁ……アプリでも記録されている……」
もう何も考えれられなかった。呼吸を整えるためにコート1周歩くが、半周辺りで転び動けなくなった。止まると風が無くなり身体が一気に熱くなる。眠りたいが身体中が痛くなって眠ることも許されなかった。呼吸に集中して回復を待つ。
「光瑠!」
遠くから赤也の声が聞こえるが返事する元気がない。手をピースにして生きているアピールだけする。気づくかな?と思っていると足が急に冷たくなって反射で全身がビクッとなった。必死に仰向けになって赤也と目を合わす。
「なんで黙ってたんだよ!!……あのクソ先輩、初心者に筋トレばかりの練習させていたらしいじゃねーか」
「俺……やったで……ちゃんと」
「はぁ!?」
筋トレの動画とGPSアートアプリを見せる。赤也が確認している間に呼吸が落ち着いてきた。ゆっくり起き上がって赤也が持ってきてくれたアイシングで足を冷やす。
「ははっ……律儀にこんなの撮って。ボロボロになったお前、カッコイイな」
「なんや、煽ってんのか?」
「先にお前が言ったんだろ!……ようやく俺もお前の言った意味が分かったわ。ほら、部室に行くぞ」
そういや、3強に負けた赤也にそんなこと言ったかもしれない。今の自分がみっともないと思っていたが、ずっと遠い憧れだった、あの時の赤也になっていたって事やろか?夢中になるのは案外簡単だった。そして悪くないと思った。
「赤也おぶって〜」
「触るな!汗で気持ち悪いんだよ」
(続く)