噂の女バス先輩は……(完結)
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デフォルト名「海野由美(うみのゆみ)」
真田弦一郎達と同い年
女子バスケ部
とても負けず嫌いでストイック
真面目
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去年の夏に流れた噂を再び思い出すきっかけとなったのは後輩の赤也だった。柳と2人きりの部室で少し当時の話をした。
あの時は1年レギュラーとして俺たち3人は関東大会で優勝をした後で夏休みまでもう少しといった時期だった。
ーーー
テニス部はどの部活よりも遅くまで練習していた。全国大会に向けてかなり気合も入っていたからか、それでも時間が足りていなかった。
部活時間のフェンス外にはギャラリーがいて、ずっと賑わっていた。俺たちだけで打ち合う時間が恋しく、部活後にこっそり真田と柳と30分だけ軽くラリーをしていた。それ以上は風紀委員の真田がうるさかった。
真田がその30分のラリーを見ている奴がいるって言い出した時は、顔に似合わず夏にぴったりな怖い話でも始めたのかと笑っちゃった。
その次の日は雨が降っていて仕方ないから真っ直ぐ帰ろうとしたら、真田が「少し用事があるから先に帰ってくれ」と言ってコートに向かった。不思議に思っていたが、柳は「おそらく昨日の視線を感じた相手が残っていないか確認しに行ったのだろう」と言ってたので、すぐ追いつくと思って先に帰ったんだよね。
結局追って来なくて次の日に聞いたら、視線を感じていたのは勘違いではなく、俺たちのラリーに見惚れてこっそり見学をしていた生徒がいたらしい。話が合ったそうで、スポーツのあり方や真田のテニスについて話しながら帰ったそう。真田がまた放課後に会う約束したとか言うから、勝手にテニス部に入部を悩んでる男子だと思い込んでいた。
ーーー
「弦一郎。もう時間だ切り上げよう」
「う……うむ」
「今日はたまたま何か用事でも入っちゃったのかな?俺も会いたかったから残念だよ」
もしかして真田が怖がらせちゃったんじゃないの?と喉まで出かけたが、ギリギリ飲み込んだ。立海テニス部は半端な気持ちで入部するレベルではない。これでよかったと思っていた。
「!海野さん。やっと来たな。ちょうど切り上げて帰ろうとしていたところだ。幸村と蓮二を紹介したいから着替えるのを待っていてくれないか?」
真田の目線の先を追いかけてフェンスの外を見ると女子がいた。
「遅くなってごめんなさい。もう帰る時間だよね?」
「あぁ。今日もよければ駅まで一緒に帰れないだろうか?」
彼女は俺と柳の方に顔を向けた。
「こんにちは。女バス1年の海野由美です。ご一緒しても良いですか?」
「あぁ」
「もちろんだよ」
ーーー
「正直、柳はどう思ってた?俺は全国大会前なのに、真田が女に惑わされるなんてってガッカリしたよ」
「俺も精市ほど弦一郎のことを知っていたわけではないが、浮かれてしまったのかと1度データに書き込んだな」
「でも、少し話をしたらスポーツマンジップを重んじる子だと分かったよね。スポーツが違えど俺たちのテニスに何か感じたみたいだったし、真田が気にかけるのも少し分かったよ」
「あぁ。だからこそ、初対面の海野さんを信じることができたのかもしれないな」
「……そうだね。俺に助けてもらったら女子を敵に回すなんてハッキリ言うのも海野さんくらいだよ」
「ふ。そうだな」
ーーー
海野さんは部活後に忘れ物を取りに行ったところ、テニスコートで3人がラリーしているのをたまたま見かけたこと。簡単に見えるラリーは上手だからだと直感で分かったこと。自分も魅せる様なプレイをしたいことなどを話した。
「……だから昨日は真田君がどういった気持ちでプレイしているのか聞くことができて大変参考になりました。私もうまくできた日に慢心せず、常に自分の成長を信じた練習を意識します」
「海野さん、かなり真田の影響受けてるのかな?すごく熱いね」
「私、絶対同級生には負けたくないの」
「ほぅ。昔からの馴染みとかか?」
「いや……そんなことより幸村君と柳君の話も聞きたいかな」
「海野、今日はお前の話を聞かせてほしいと言ったはずだ」
「そうだね。俺たちの話はまた次回にでも。せっかくだから同級生にライバル視するきっかけの話でも聞いてもいい?」
ニコニコ話していた海野の顔はどんどん曇っていった。俯き顔が見えなくなると、なんとか聞こえるほどの絞った小さな声で
「今日で最後かもしれません。ごめんなさい」
何か触れてはいけないことだったのかもしれない。しかし、このまま放置するわけにもいかない。どこか座れる場所に行くべきか考えていると、海野は無理に笑いながら顔を上げて話した。
「私、元々バスケ部に馴染めてなくて、今日部員にキレちゃったから明日から居場所がなくなるかもしれないの」
こんなに明るく元気に話す彼女から、予想も出来ない言葉の羅列に俺たちは何も言えなかった。
「でも、私だって馴染む努力はしたのよ?何で無視するの?って聞いても答えてくれないし……幸い3年の先輩とは普通に話せるのでパス練習とかは3年の先輩と組んでる。だから圧倒的に強くなって、無視する子達をねじ伏せたかったの!なのに皆の前でキレちゃったから流石に3年の先輩にも呆れられちゃったと思う。まぁ自業自得なんだけどね」
彼女の身体は少し震えていた。女子バスケ部員もかなり人数が多い。そこで孤立しているとクラスにも影響が出ることは容易に想像できる。明日からの登校に怯えるのも仕方ないのかもしれない。
「たるんどる。自業自得と諦める前に、お前が間違ったことをしたのなら明日謝れば良い。間違っていないなら堂々していれば良い。違うか?」
「真田君……そうだよね。ありがとう。多数決が正義とは限らないのに弱音吐いてた。私は私が正しいと思った様にやってきた」
弱気でいつ泣いてもおかしくなかった目に力が入った。そして自分に言い聞かせる様に呟いた。
「どちらにしても起った事実は変えられないけど、明日の行動は考えられる。居辛いからって逃げたら相手の思うツボだよね?」
「そもそも、どうして海野さんは部員にキレたりしたんだ?」
「部活終わりに毎日簡単なミーティングしてから皆で帰るんだけど、帰り道が同じ方向の子達に『ついてくるな』とか『同じバスに乗るな』とか毎日言ってくるくせに、今日に限って団体行動を離れようとしたら『どこ行くの?』『教室で泣いてるの?』って絡んできて……つい?」
「あははっ!それは大変だったね。海野さんの行動ひとつひとつが気になるんだ」
「ふ。テニススクールの幸村を思い出すな。強くなった幸村の行動をいちいち茶化す者もいた」
「え?幸村君もそんな経験あるの?」
「俺には真田が『強さに嫉妬しているだけだ』って言って側にいてくれたから何ともなかったけど、海野さんは1人だもんね。俺達に何かできることはあるかい?」
「いや、幸村君に助けてもらったら女子を敵に回すから何もしないで。真田君も柳君も知らないフリしてもらっていい?噂の三強と繋がりがあるってなると余計に悪化しそうだし」
「え〜?女子を敵に回すなんて……酷いなぁ」
「いや、精市はかなりモテるからその分析は間違いないだろう」
「本当に何もしなくて良いのか?」
「うん。思い通りにさせないし、誰よりも強くなってプレイでボコボコにしてやるんだから!」
「うむ。また変化があれば教えてくれ」
「またテニスコートにも遊びに来てよ」
その後は当たり障りの無い話をした。駅で別れた時には、彼女は屈託の無い笑顔になっていた。
ーーー
次の日は彼女の噂が学年中に広まっていたが、周りの声を物ともせず過ごす彼女をただ見守るだけだった。堂々と過ごす姿を時々見かけていたので、さほど心配はしていなかった。
しかし、真田はそうでもなかった様で、無視をされても見かけるたびに声をかけていた。その事については後日海野さんにも怒られていたが、真田は真田の流儀を譲れなかったそうだ。
「きっとあの日、俺達に会わなかったとしても彼女1人でも立ち上がって同じようにしてたんだろうな」
「あぁ。弦一郎と堂々と喧嘩できる同級生の女子は他いないだろう。それに、海野さんも弦一郎を見つけると口角が2㎜ほど上がっていたところから本当は嬉しかったと思われる」
「意地っ張りな2人だよね。さ、そろそろ昼休みも終わりだ。行こう柳」
「あぁ」
(続く)