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この小説の夢小説設定・女性夢主
デフォルト名「海野由美(うみのゆみ)」
真田弦一郎達と同い年
女子バスケ部
とても負けず嫌いでストイック
真面目
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もうすぐ3学期が始まろうとしていた。新教育テストや書初め大会、生徒懇談会と学校行事が生徒を忙しくさせる。
それでも、夏休み明けと違ってクラスメイトの目を気にする必要がないだけ海野の気持ちは重くなかった。たった数日とはいえ自己責任で学校生活を送って思ったことは、1人でこの学校の行事をしっかり把握してこなせる気がしないということだった。
(今があるのは、あの3人が私に勇気をくれたからだと思ってるよ)
部活のミーティングが終わり、冬休みの宿題終わった?なんて話をしている部員に混ざって校門へ向かう。テニスコートは見えないが、ボールを打つ音に耳を傾けることが習慣となっていた。
「……って由美はどうするの?」
「え?あ、ごめん。ぼーっとしてた。何?」
「だからバレンタインだって」
「あぁ!バレンタインね。えっと……部活内で配るって話?」
「あ、そうか。先輩達に用意した方が良いのかな?……それもあるけど由美は本命チョコあげる人いるのかって聞いてるの!」
「いや、いないけど……ねぇ部活分はさ、皆で少しずつお金出して買わない?」
皆で買うならちょっと良いチョコ買えるかも!なんて盛り上がる同期から意識を離して、最近会っていない真田君、幸村君、柳君の3人にチョコをあげてもおかしくないだろうか?と考える。
(真田君とは、時々連絡もとってるから渡しやすいかな?)
「ねー由美!ネットで買うことになるけど、この小分けの良いよね!」
「あーうん。良いと思う……あれ?この数だとコーチの分は?」
「え、いるかなー?」
今度はちゃんと同期との話に集中する。
ーーー
家に帰ってからも頭の片隅でバレンタインの事を考えていた。小学生の時はあるだけ男女構わず食べてくれたので、大量生産してタッパーで持っていっていた。
(最低限友達の分はラッピングして、予備として長持ちするクッキーとラッピングを持って行けば対応できるだろう。余る分には自分と家族で消費すればいい。あとは……)
連絡先から真田弦一郎の名前を探す。
なんて連絡するか考えながら、前回のやり取りを読み返していた。
(そもそも甘いもの食べるのかな?)
いつか真田君と出かけて食事をした時に「筋肉にはタンパク質が必要だ」と話していた。もしかすると栄養バランスなど気にかけているかもしれない。そうだとしたら食べ物をプレゼントするのは逆に迷惑になのでは?
ーーー
色々考えた結果、食事に気を遣っていても食べられるスイーツはきっとあるはずだと思いつき、スポーツ選手とスイーツについて調べてノートにまとめる事に集中していた。ノートが5ページ目に差し掛かった時に、それを真田君本人に聞いたら良いことに気づいた。さっき眺めていた真田君の連絡先を開いて文字を打つ。
「こんばんは真田君。海野です。突然だけど、前に筋肉の為にタンパク質が大切って話してたと思うけど、他に気をつけてることはあるかな?例えばスイーツとか?急いではないので時間ある時に教えてくれると嬉しいな」
送信ボタンを押してから真田君はとっくに寝ている時間だと気づいた。返信は早くても明日の4時かな?
早寝早起きだなと小さく笑いながら、ノートの続きを埋めていく。中学の部活とはいえスポーツ選手ではある。食事と体について、知って損はないだろうくらいの気持ちで始めたことだったが、調べれば調べるほど面白くなってしまい、就寝時間が過ぎている事に気づかないほど夢中になって机に向かっていた。
ーーー
夜更かししてしまった事と、今日の部活が午後からだった甘えから、朝の9時までぐっすり眠っていた。
調べ物も、スポーツ選手が食べているスイーツから、どんどん栄養学の世界へ没頭していた。しかし、その情報も集めれば集めるほど矛盾も生じてしまっていた。ネットで簡単に調べるだけはいけないと思い、家庭科の教科書と資料集、家にある料理の本を隅々まで読み返していた。
ぼんやりした頭で身体を起こして連絡を確認すると朝の5時頃に真田君から返信が来ていた。
「おはよう海野さん。真田です。他に気をつけていると言っても毎日3食バランス良く食べているくらいだろうか?甘味についてはあまり詳しくない。すまないが役には立たないようだ。しかし、面白い着眼点だと思うので俺なりにも調べてみよう。だが、夜更かしは感心しないな」
最後の言葉は嫌味では無く、真田君流の心配である。
あのままの顔と声色で話すので、私も最初は「怒っている」と勘違いしていたが、本人はそんなつもりは全く無かったらしい。
微妙な差を判別できるようになるまで半年はかかった。
「おはよう。今日は早く寝ます!真田君が甘いものを食べているイメージもなかったから、聞きておきながら自分でも調べてたけど面白かったよ!もう少しまとめたら今度教えるね」
これでバレンタインを渡す口実ができたと思う。お菓子は趣味でよく作っているので、腕に自信があった。初めて作るお菓子になったとしても、バレンタインには絶対間に合わせるぞと気合いを入れる。
「食べてもらえたら嬉しいな」
もうすぐ冬休みは終わる。部活だけのスポーツ選手でいられる日々から、勉学や行事に勤しむ学生へ戻る。休み明けのテストが終わったら何を作るか考えよう。
ーーー
3学期が始まった。
テストや委員会、学校行事で忙しい中でも、図書館を利用して栄養について少しずつノートを埋めていた。ただ知識を深めるだけの理由ならここまで続かなかっただろう。真田君に教えるという目的があったから頑張れた。
「洋菓子より和菓子の方が脂質が少ないし、エネルギー補給に向いている。それに小豆はタンパク質も摂取できて、GI値も低くて血糖値が上がりにくい……羊羹とか良いのかも」
真田君達には手作りをあげたいと考えていたが、どこから作るのか?餡子を買ってきたら簡単に作れるが、餡子も作るとなるとかなり大変だとレシピを見ただけで分かった。
「最近の動画レシピだと簡単に見えるけど、ずっとお鍋見ていないと失敗しそう」
人にあげるものなら失敗は避けたい。リスクを考えながら最近読んだ赤毛のアンにあった台詞が頭を過ぎる。
「ケーキってね、特においしくしたいと思ってるときに限って失敗するものよ」
この一文を読んだ時は「そうそう」と同感だった。でも手作りしたら添加物は無いし、何より消費してくれる人がいる時こそ大量に出来てしまう手作りに踏み込める。
浮かれているのか、張り切っているのか?失敗をしたくない気持ちもあるが、それでも作ってみたいという挑戦心と好奇心を抑えることが出来なかった。
「どうせやるんだったら、徹底的にやった方が良いとも言ってた……気がする!」
ーーー
真田君用にスポーツ選手に適したスイーツについて1枚の紙にまとめたレポートを作成後、丸1日時間を取れる日に羊羹を作った。思わず躊躇してしまうほどの砂糖を入れたのに市販のものよりかなり甘さ控えめに出来た。小豆の味もしているし、ほんのり甘いので失敗では無いと思う。
「羊羹は更に砂糖入れるんだよね?だから洋菓子と違って食べる量が少なくても満足感あるんだな……」
丁寧に作り上げた一本の羊羹を食べやすいサイズに切り分ける。端の羊羹を摘むと、やはり甘さ控えめだった。それでも2個目に手を出そうとは思えなかった。余った羊羹も家族や友人に手伝ってもらって少しずつ消費しよう。
なるべく綺麗な羊羹を選び、1個ずつラップで包んで、プレゼント用の透明な袋に懐紙と羊羹3個を入れてテープでとめる。
懐紙は柳君が使っている所を見て興味を持ち、教えてもらった専門店に行って買ったものだった。ティッシュ代わりにもメモ代わりにも使える万能の物だと聞いていたが、思っていた以上に丈夫な紙で、絵柄も可愛くもったいなく感じてしまい使えていなかった。
ラッピングの台紙として使えば、見た目が可愛くなり、もし手が汚れても拭える一石二鳥で我ながら良い使い方だと思う。
(このスイーツの話を持ちかけた時って、まだ冬休みだったよね。もう2月だし遅くなったけど真田君は覚えてるかな?明日時間もらえるか連絡してみよう)
真田君がまだ起きている時間か確認してから連絡をする。幸村君と柳君は連絡先も知らないので、どうやって渡そうか?真田君から渡してもらう様にお願いしようかなと考えていると返信が来た。
「その件についてだが、幸村も蓮二も興味があると言っていたんだ。もし良ければ明日の昼休みに4人で飯にしないか?」
「2人にも用事があったから丁度良かったよ。じゃあ明日のお昼にそっちのクラスに行くね」
幸村君はもちろんだが、あのデータマンの柳君にもこのレポートを見られると思うと、また別の不安が込み上げてきた。一応まとめノートも持っていこう。
レポートとノートと、そして羊羹を小さな袋にまとめて、それごと学校の鞄に入れる。やっと渡せるとウキウキしながら今日の宿題に手をつける。
ーーー
お昼の時間。いつもお昼を一緒にしている友達に声をかけた後に、お弁当と昨日まとめた袋を持って真田君の教室を覗く。構えていたのか、真田君はすぐ気づいて来てくれた。
「海野さん。食堂で幸村と蓮二が席を取ってくれているようだ。そこで良いか?」
「食堂ね。大丈夫だよ」
昼休みで沢山の人が行き交う廊下で、風紀委員として「走るな」と注意をする真田君の後ろを追いかける私は、周囲からどんな風に見えているのだろう?
(やっぱり悪いことして連行されている様に見えるのかな?)
「弦一郎、こっちだ」
「む、あそこだな。遅くなった」
食堂は少し賑わっていたが、柳君が声をかけてくれたおかげですぐに合流できた。空いている椅子を引いて腰をかける。
「混む前に来てもらえて良かった」
「あぁ。俺達の席まで頼んで悪かったな」
「海野さんの荷物こっち置くかい?」
「大丈夫だよ!ありがとう」
くだらない話を楽しみながらご飯を食べる。久しぶりに4人揃っての時間だった。私は幸村君が同じ委員会である以外に接点も共通点もない。それでも話題に置いていかれることはなかった。話をしながらも3人の優しさを感じ取っていた。
ーーー
「ご馳走様でした……さて、早速本題と言う程のものでは無いけれど」
「いや、選手として身体を作る為にも食は大切だからな」
「スポーツ栄養士という資格がある様に、プロの選手は専門家に食事を管理してもらう程大切な事だろう」
「もー、2人とも堅いんだから。海野さんが面白い顔になってるよ」
「プレッシャーやめてよ。私がまとめた事以上のものは出ないからね」
ーーー
「……という事で、まとめるとチョコレートはメリットとデメリットがあるので摂取のタイミングと種類を気にした方が良いみたい。そしてオススメのスイーツは餡子ってところかな?」
「面白いデータだな。甘い物を食べすぎるのは良く無いが、我慢をするのもストレスを溜めて集中力を欠くおそれがあると」
「悩んだら洋菓子より和菓子って覚えやすくて良いね」
「あぁ。アスリート選手が試合直前のエネルギー補給に接種しているとは目を見張るものがあるな」
3人にも楽しんでもらえたみたいで胸を撫で下ろす。あとは手作りの羊羹をいつ渡そうか会話を聞きながらタイミングを伺っていると、真田君が急に私の方を向く。
「疑問なんだが、前半がチョコレートの話だったのは海野さんの好物なのか?」
「そういえば……なんでチョコ調べていたんだっけ?」
「え?来週バレンタインだからじゃないの?俺はてっきりスポーツしている誰かへ本命のお菓子を考えているのかと思って聞いてたよ」
「あ!そうだった。本命じゃないけど、私3人にお世話になったし、何かお礼したいなと思ってて……目的ばかりに夢中になってバレンタインのこと忘れてた」
袋からラッピングをした手作り羊羹を取り出して3人に配る。
「ちょっと早いけど、羊羹作ってみました」
「え、俺達に?ありがとう!」
「まて海野、学校に菓子など……たるんどるぞ」
「弦一郎これは……」
「学業に関係ない物は持ち込んではいけない。そうだろ?」
幸村君と柳君の顔もグッと歪める。
あぁ。そうだった。私は食堂に来るまでの間、廊下で走る生徒に注意しているところをずっと見ていたのに、なぜ何も疑問を持たなかったのか?
そして、このまま引き下がればバレンタインの日が風紀委員の手によって学校中が阿鼻叫喚になってしまう。それを阻止できるのは今しかない。弁論大会に向けて国語の授業で学んだ説得力のある話し方を思い出しながら頭をフル回転させる。
「真田君。これは伝統行事だよ。日にちは間違えたけど、バレンタインというイベントでは大切な人に感謝を伝える文化」
「ふん。文化とは言え、学校で行う必要はないはずだ」
「真田君の小学校では節分の日に給食で豆が出たり、七夕には短冊作りをやらなかった?学校でも文化を学び、重んじる。もちろん授業の邪魔をしない前提にだけど。自主性を尊重することは立海大生として必要な事だと思うよ」
決定打とは言い切れないが、同じ土俵には立てたのではないか?と思う。しかし準備もなく、思いつきで話していることもあり、あと一押しになる言葉が出てこない。
グッと唇を噛んで考えていると、幸村君と柳君も加勢してくれた。
「海野さんの言う通り。文化を重んじる奥ゆかしい女子を、真田は学業を理由に泣かせてしまっては男が廃るんじゃないか?」
「幸村……しかし……」
「弦一郎、彼女の気持ちを無下にするのか?それに、今は昼休みでエネルギー補給には問題はないだろ」
心の中で幸村君と柳君に感謝する。腕を組み目を閉じて考える真田君を見ながら強く祈る。
「……わかった。バレンタインは目を瞑ろう」
「だって!海野さん。俺と柳は今貰うけど、真田はバレンタインの日に欲しい様子だから申し訳ないけど一度持ち帰ってもらって良いかな?」
「な!?」
「羊羹は砂糖がたくさん入っており、防腐剤代わりとなる。手作りでも1週間は問題ないだろう」
「蓮二まで!俺は別に……」
「わかった!じゃあ真田君は当日に教室で渡すねからね!」
分かったよ。幸村君、柳君!私が朝一に真田君の教室で渡すことによってクラスの人に「真田君もバレンタインは許してくれる」って事を教えてあげたら良いんだね!その役目、必ず果たします!
もうすぐ昼休みは終わる。
ーーー
バレンタイン当日、朝礼前の真田の教室
「真田君おはよう。そしてお待たせ!ハッピーバレンタイン!」
「おはよう海野さん。これが手作りの羊羹か……ありがとう。困ったことに、あの日からずっと幸村と蓮二に美味しかったと自慢されていたんだ。早速、今日の昼に頂こう」
「全然大したものじゃないけど、お口にあったら嬉しい」
あの厳格な真田がバレンタインをもらっている。異様な光景に教室はざわめいているが、2人とも全然気にしていなかった。少し話をした後に笑顔で自分の教室へ戻る海野を教室にいた人は見守っていた。
「おい。ブン太、俺の見間違いじゃないだろうな?」
「真田の奴!俺の菓子は没収してたのに……」
「てっきりバレンタインは怒号が飛び交うと思って覚悟していたが……拍子抜けだな」
「この現場を見たのだから、今後は菓子持ち込んでても文句言わせねぇぜ。てか、あの女、見間違いじゃなければ鬼の……?」
「やっぱり真田の弱みを握っているのか?」
そんな噂をされているとは知らずに海野はバレンタインを楽しんでいた。
バレンタイン1年目(完)