U -17合宿所(未完結)
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この小説の夢小説設定・女性夢主
デフォルト名「海野由美(うみのゆみ)」
真田弦一郎達と同い年
女子バスケ部
とても負けず嫌いでストイック
真面目
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お昼ご飯を食べたら斎藤さんに駅まで送ってもらえる予定だ。トレーニングルームで越知さん、毛利さんと別れてから部屋で制服に着替え、食堂へ向かう。なるべく急いだが席はほとんど埋まっていた。自分の食事を手にした後、座る場所を探すために食堂を見渡しながらゆっくり歩いていると、幸村君と柳君と食事をしている真田君と目が合った。
「海野さん。よかったら合席しないか」
「真田君!ありがとう」
「昨日も会っているのに、久しぶりな気がするね」
「同じ空間にいたのに、やっとゆっくり話せるね」
「海野さんが納得するような情報は得られたか?」
「え?や……やだなぁ柳君、私はただ皆さんとお話ししていただけだよ?」
「そうか。今はそういうことにしようか」
柳くんの核心を突く質問にドキッとしたが、ただ1人で暴走していただけなのでとても話せなかった。深く掘り下げられなくて胸を撫で下ろした。
「そういえば、海野さんはこれから部活行くの?昨日、斎藤コーチが引退してるって言われてたけど高校の部活に混ざって練習しているんじゃないの?」
立海はどの部活も中高大と風通しが良く、先輩と気軽に練習できる強みがある。なので、内部進学する人は入学前から上の学年の練習に混ざることが多かった。
しかし、私は今の部員を信頼することができず続けることが難しいと判断して、バスケ部は中学で辞めることを顧問にも報告していた。本当は3人に何度も相談や報告するタイミングがあったが、言い辛くて黙っていた。
「私、高校は他の部活に入ろうかなって思っていて……」
「え、バスケ辞めちゃうの?」
「そんなデータはなかったが……弦一郎は知っていたのか?」
真田君の沈黙が怖くて、顔を見ることができなかった。そういえば私達は部活が違えど、切磋琢磨して互いに高め合う仲だった。バスケ部ではない私と変わらず友人でいてくれるのだろうか?今まで思いつかなかった不安が頭をよぎった。
「なぜだ海野!」
真田君は立ち上がりながら荒げた声で私に問いかける。おそるおそる真田君の顔を見ると、声に反して悲しそうな顔に見えて罪悪感に襲われた。
「真田、海野さん2人共落ち着いて」
「ここは食堂だ。弦一郎、とりあえず座ろう」
「すまない。動揺したようだ」
食堂はさっきまでの和やかな雰囲気から一転してどよめく。真田君は周囲に気を配る様子もなく言われたまま座り、一呼吸置いた後にこちらの様子を伺っているように見えた。
「理由を聞いても良いか」
私は頷いた後に、部員と表面上は仲良くしていても学年が上がるにつれて一方的に溝が深まりプレイに支障が出ていたことや、中途半端で辞めることだけはしたくなかったので中学3年間は意地だけで続けていたことをなるべく簡潔に話した。3人は時々何か言いたげな顔をしていたが、黙って最後まで私の話を聞いてくれた。
「……もちろんずっと本気でプレイしてきたから心残りないと言ったら嘘になるかもしれないけど、ケジメはつけたつもり。高校からは……まだ決めていないけど別のスポーツに挑戦しようと思ってるの」
最後に笑って見せた。幸村君と柳君は視線だけ動かし真田君を見る。その真田君は今にも怒鳴りそうなほど険しい顔をしながら真っ直ぐこちらを見ていた。その視線から逃げるようにお水を一口含めた。
「そうか……俺は海野さんがそんなに悩んでいることも知らなかった」
真田君は優しい声で寄り添ってくれた。恐る恐る顔を上げると真田君は俯いていた。幸村君と柳君も口にはしなかったが表情は私のことを心配してくれた。
「俺は海野さんに助けてもらっていたのにな」
真田君の視線は一瞬幸村君の方を向いていた。幸村君は何のことか分からず驚いている様子だった。私が真田君を助けた?もしかして入院中の幸村君の話だろうか?
ーーー
夏休みに入ると、テニス部もバスケ部も大会が近づくため自然と連絡も取らなくなる。休み中の部活で顔を合わすことがあっても基本は挨拶だけ。次に真田君と連絡を取るのは大会後、つまり夏休み最終週に恒例となった庭園を鑑賞しながら行う報告会だ。
本来ならそこで初めてお互いの部活の試合結果を聞くことになるが、テニスの全国大会はバスケの全国大会後に開催されるので、内緒でこっそり応援しに行っていた。
……しかし、今年の夏は違った。
「あれ?真田君からメールが来てる」
お風呂から上がり、水分補給をしながら携帯を確認する。送られてきたメールの内容は一言『電話できないだろうか?』だけだった。
いつもなら『真田です。夜分にすまない』といった定型文の後に用件を書くので、緊急だということを察した。
王者立海の三連覇がかかったプレッシャーは良い緊張だと話していたが、幸村君不在が続いて弱気になってしまったのだろうか?
(真田君はいつも強気で、どっしり構えていそうに見えるけど、内心はいつも他人の心配ばかりしている優しい人だもんね……)
こちらから真田君に電話をかけると1コールで繋がった。
「!もしもし海野です」
「海野さん。電話ありがとう」
「もしかしてずっと待ってた?ごめんね遅くなって」
「いや、こちらこそすまない。話がしたくて……」
夏休みの宿題がどこまで進んだのか、おじいさんから居合斬りの稽古を受けた話、教えてもらったケーキ屋に売っていたどら焼きが美味しかった話など世間話が続いた。本当に話がしたかっただけだったのかと思った瞬間、電話から聞こえる声が震えた。
「……大丈夫?」
「すまない……第三者の意見を聞かせてくれないか」
幸村君のお見舞いに行った時に、試合の報告をしたら聞きたくないと追い出されてしまったそうだ。お医者さんにテニスができないかもしれないと言われた幸村君の気持ちを何も考えていなかったのではないかと真田君は話した。
「勝ち進めることで……幸村に元気を与えられると思っていたんだが……むしろ苦しめてしまっていた……俺は……俺はどうしたら良かったんだ」
「……幸村君は自分の病気と闘ってる。病気を代わってあげることはできないから、真田君が今できることは幸村君の居場所を用意することじゃないかな?」
「しかし、幸村は……もうテニスが……」
「テニスが出来ないかもしれないと聞いてもリハビリ頑張っているんじゃなかった?それに部長が戻ってこないから立海テニス部負けましたなんて幸村君が喜ぶと思う?」
「確かに……そうだな」
「私も幸村君と連絡はとってるけど、お見舞いに来て欲しくないって言われちゃったんだよね。きっと仲の良い真田君だから、幸村君も本音で不安をぶつけたんじゃないかな?」
「そうか……ありがとう海野さん。もう迷いはしない」
真田君の声が明るくなったので安心した。その後も少し話しをした。バスケ部のことも聞かれたが、最後の試合はほとんどベンチにいたことや高校で続けないなんて暗い話はとても出来ないと思い、報告会まで内緒と誤魔化した。
その報告会でもU-17選抜候補の合宿に選ばれたと、新しい道へ不安と期待でいっぱいになっていた真田君に、話を切り出すことができなかった。余計なことで真田君に不安を与えたくないし、とにかく弱い自分を見せたくなかった。
ーーー
「ほら、この話は終わり!自分の選択に悔いはない」
「しかしだな……」
「もういいの!私は大丈夫だから。ほら休憩時間終わっちゃうから早く食べよう」
どうせ言いそびれて怒られるなら高校生になってから言えば良かったかもしれないと少し反省したが、心配してもらったことが少しだけ嬉しかった。
それでもやっぱり弱いところは見せたくなくて、事実は話したが自分の気持ちは嘘しか言えなかった。
明るく別の話を振って後味が悪くならないように食事の時間を過ごした。短い昼休憩が終わる頃に、斎藤さんの迎えが来た。食堂にいた人に軽く挨拶をして合宿所から離れた。
ーーー
「合宿所はいかがでしたか?少しは誤解が解けたなら良いのですが」
「安全面と食事面が納得してません。結局練習も見学できませんでしたし」
「あらら食事もでしたか。確かに選手に任せていますので管理不足と言われても致し方ないですね。練習の方はまた今度来てくださいよ」
「……改めて聞きたいのですが、どうして私は呼ばれたのですか?」
「そうですね。立海の3人から聞いた話から、あなたはプレイの質がメンタルと密接していることを知っていて、彼らに良い影響を与えてくれそうと思ったからです」
私自身がコントロールができずに潰れていったのに、誰かに良い影響を与えられるわけがないのにと思いながら、こっそり鼻で笑った。しかも、合宿所にいる人たちに弱音を吐く人もいなかったので斎藤さんの話を全く信じることができなかった。
「さて、もうすぐ着きますよ。またいつでも遊びに来てください。歓迎します」
お礼を伝えながら車から降りて、斎藤さんの車が見えなくなるまで見送った。駅に強い風が吹いてる。自分が何か役に立ったとは思えない。前向きな選手達の言葉で元気をもらってばかりの自分に何ができるのかと己の無力さを呪った。
ーーー
夜、知らない連絡先から一通の連絡が来た。
「こんばんは由美ちゃん。毛利寿三郎です。今日はホンマおおきに。一緒に喋れて良かったわ。なんかあったら気軽に連絡して!……まぁ練習あるから休み時間と夜くらいにしか返信出来やんけど。ほな、また。」
毛利さんからだった。そういやトレーニングルームで連絡先を教えたんだっけ?真田君、幸村君、柳君と仲が悪いと言っていたが合宿で支障は無いのか。いや、また勝手に心配して暴走してしまうところだった。
しばらく文章を考えていたが、結局当たり障りのない内容を送る。
「こんばんは毛利さん。私の方こそ貴重なお時間いただきありがとうございました。何かありましたら、よろしくお願い致します。皆様のご活躍を応援しております。海野」
送って数分で返信がくる。
「聞いて良いのか分からんし、嫌なら答えなくて良いけど、今日食堂で三強と揉めたってホンマ?俺のせいやったら嫌やなって思って……
「ごめん。やっぱ変なこと聞いたかも。全然無視してもろたら良いから」
真田君が大声出したから噂になってしまったのだろうか?もしそうなら真田君にも悪かったなと思いながら返信を打つ。
「いえ、私今はバスケ部ですが高校は別の部活に入ろうと思っていて、その事を報告したら『もったいない』と言ってくれたんです。全然喧嘩とかではないのでご心配なさらず」
「そっか。そんなら良かったわ。ちなみに高校はテニス部のマネ?それやったら俺も嬉しいな」
「私はマネより選手ですね。できれば屋内のスポーツにしたいです」
「あらら。サラッと振られてもたわ。次の部活決まってないんやったらバスケ続けんせーね?実力ある方が楽しいやろ?」
その通りだと思っている。しかし部員と上手くいっていないなんて恥ずかしくて打ち明ける事はできない。なんて誤魔化そうか考えていると毛利先輩から連続で文章が送られてきた。
「俺なんか練習サボりまくって部活に居場所なくても、実力あるって理由だけでテニス続けてきたからな」
自分が恥ずかしいと思って友達にも隠していた事を毛利先輩は自分から今日初めて会った人に話している。文章を読みながら頭が真っ白になった。どうして、こんなにサラッと人に話せるのだろうか?
そういや、真田君から幸村君が入院している時に拒絶されたという相談も、真田君から私を頼ってくれた。
(今まで黙って耐える事が強さだと思っていたが、それは間違いで人に弱味を見せる事が本当の強さなのかもしれない)
自分の考えを否定することに勇気が持てず、ただ混乱していた。とりあえず毛利さん先輩を待たせているので、ふわふわした気持ちで適当に話を合わせて会話を切り上げた。
もうバスケ部を辞めると挨拶も済ませている。今更戻りたいとも思わないが、未練がないと言うのも嘘だ。自分の選択に初めて迷いが出た。
バスケットシューズは手入れして部屋に置いたままだ。
(続く)