囚われた親友に

「ただいま」
「お帰りなさい」
「お帰り、陵」

 家に帰ると、定年退職した義父と義母が迎えてくれた。
 ―――俺は小田切家の養子になった。
 柏木家の次男だった俺は、家を出ても問題ないと思った。その申し出は両方の両親が驚き戸惑っていた。でも、最初に認めてくれたのは、英二の父だ。『お願い致します』と、俺の両親に頭を下げて下さった。なんでどうしてと涙ながら疑問をぶつけてきたが、俺の決心は揺るがず、最後は皆が納得してくれた。
 俺は柏木家が嫌になったんじゃない。感謝している。俺を生んでくれたこと。小田切家にも感謝している。……英二を生んでくれたこと。
 英二がどんな環境で、どんな人達に育ててもらったのか。そんな人達に、英二に代わって感謝して生きたいと思った。
 それが“英二と生きること”だと思ったからだ。

「涼しくなってきたし、もうお彼岸ね」
「残暑でまだ暑いけど過ごしやすくなったな」
「俺、明日墓参りに行ってきます」
「私達は今日済ませてきたから、お饅頭とお花が飾ってあるわよ」
「毎年毎年……きっとアイツは喜んでるだろうな」

 義母、義父はとても良くしてくれている。義母とは、君、さん付けが取れないけれど、それはそれでいい。義父とはすっかり打ち解けて、二人で飲みに行ったりする。アイツが嫉妬していたりしてな。










 次の日。お参り道具一式を持って墓に向かった。先に柏木家の墓へ行き、線香を上げた。それから小田切家の墓へ。昨日義母達が来たと言うだけあって、墓石も周囲も綺麗になっている。

「良かったな……英二」

 此処に来ると、不思議と心が安らぐ。英二が見守っているような気がして。

「英二……見てくれ。少しは上達したんじゃないか?」

 墓参りには似合わないサッカーボールを持ってきていた。墓から少し離れて、リフティングをする。

「よっ……と……っ、……ぉ……あっ………!」

 3回目でおかしな所へボールを蹴ってしまった。転がっていったボールを追いかけて、また墓の前に戻る。

「やっぱり俺はスポーツ向かないな。………もっと、お前に教えてもらえば良かったな」

 呟きながら線香に火を灯す。煙が立ち込め、墓の前に置いて手を合わせる。ゆっくりと目を閉じて………そうすれば、20年近く過去の思い出が甦ってくる。出逢いから別れに至るまで、全てが鮮明に。

「……俺はずっと……お前と添い遂げる。見守っててくれ。今も……これからも……愛している」

 立ち上がり、準備していたアクエリアスを開けて飲む。半分以上残して、それらを墓の上からかけた。

「これ……毎日飲んでたよな。沢山飲め」

 ペットボトルが空になって、それから水をかけてやり、墓石を拭いたら墓参りは終いだ。道具一式を片付けて、帰るのが名残惜しくその場で墓を見つめる。

「………」

 夢に英二が出てきてからは、もう涙が出なくなった。それきりで20年は泣いてない。ふわり、と……暖かい風が体を包みこむように吹いてきた。

「―――――」
「……っ!?」

 これは幻聴か。一瞬聞こえた気がする。アイツの声が。彼岸だからだろうか……。
 全身を包み込む温かさに俺は無意識に涙を流していた。


 END
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