幸せを取り戻した日(ブラウニー)
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私は、不思議な子供だったと思う。
物心ついた頃には、黙々と絵を描いていた。
知らない男の人の絵だ。
何か大きなバズーカ砲みたいな武器を背負っている、褐色の肌の男の人。
クレヨンでぐりぐり描いていると、のんびり屋の両親は想像力豊かねえと笑った。
褒めてもらえるから、たくさん描いた。
クレヨンから、色鉛筆に変わって、それから水彩でキャンパスに描くようになった。
どんどん上達していく私を両親は褒めてくれだけど、いつも不思議そうに聞いてきた。
「絵の彼は、どうして泣いてるの?」
私は、笑顔の彼を描いたことがない。
中学生になった私は、アニメや漫画が大好きな普通の子だ。
初めてアニメを観た時は、凄く感動したのを覚えている。
こんな楽しいものがあったなんて!
こんなにのんびりして、楽しめるなんて初めてだ!
そこで、首を傾げた。
私は、ずっとのんびり暮らしてるのにな、と。
優しい両親と一緒にいる時も、なんて平和なんだろうとも思った。
不思議な感覚だ。
私は私。なのに、たまに羨ましい気持ちになるのだ。自分自身に嫉妬している。
変なの。自分が幸せなのが、許せないとか。
その感覚は今もある。
ずっとずっと抱えている。
きっと、大人になってもこの気持ちを抱えていくんだなと思っていた。
そう、十四歳の誕生日を迎える日までは。
私は新しい絵の具をプレゼントに貰った。
嬉しくて、離れで絵を描いた。
涙を流す男の人を、一心不乱に描き続けた。
今までで一番の出来だ。誇らしくなった私は、満足だった。
だけど、男の人の泣き顔を見ていたら、不意に言葉が零れた。
「会いたい……」
胸がぎゅっと苦しくなる。
寂しさが、後から後から溢れてきた。
何がそんなに辛いのか。悲しいのか。
分からないまま、その名が浮かんだ。
「ブラウニー……」
瞬間、空気が揺らいだ。
甘い匂いが鼻腔を掠めた。
突然感じたひとの気配に、振り返る。そして目を見開いた。
そこには、くたびれたマントに身を包み、真っ直ぐ私を見る男の人がいたからだ。
初めて見るけれど、知っている。毎日毎日描き続けていたから。
絵のなかで見た男の人が、立ち尽くしている。
絵と同じように、涙を流して。
震える唇が動いた。
「ずいぶんお待たせしましたね、御侍様」
そして、涙を拭い目もとを和らげた。
私は、彼の笑顔を初めて見た。
それは、とても幸せそうな笑みだった。
もうすぐ誓約の日だった。
彼女は楽しみだねと笑い、自分も笑顔で頷いた。
ずっとずっと一緒だと、思っていた。
彼女が堕神の手に掛かるまでは。
流れた血の色、閉じられた瞼。二度と彼女は動かない。
永遠の別れに耐え切れず、ブラウニーは彷徨い歩いた。
終焉を求めて、さすらい、枯れぬ涙を流し。
幸せそうに笑う彼女の幻を求め、歩みを止めずに。
そして、辿り着いた。
彼女だ。
髪の色が違う。目の色も。年齢すら幼い。
だが、ひと目でわかった……彼女だ。
最愛の御侍様だと。
ああ。ようやく。
わたくしは、笑えるのだ。
涙は止まり、強ばりながらも口が弧を描く。
御侍様が好きだと言ってくださった笑顔を、浮かべることができるのだ。
幸せが胸に宿った。
物心ついた頃には、黙々と絵を描いていた。
知らない男の人の絵だ。
何か大きなバズーカ砲みたいな武器を背負っている、褐色の肌の男の人。
クレヨンでぐりぐり描いていると、のんびり屋の両親は想像力豊かねえと笑った。
褒めてもらえるから、たくさん描いた。
クレヨンから、色鉛筆に変わって、それから水彩でキャンパスに描くようになった。
どんどん上達していく私を両親は褒めてくれだけど、いつも不思議そうに聞いてきた。
「絵の彼は、どうして泣いてるの?」
私は、笑顔の彼を描いたことがない。
中学生になった私は、アニメや漫画が大好きな普通の子だ。
初めてアニメを観た時は、凄く感動したのを覚えている。
こんな楽しいものがあったなんて!
こんなにのんびりして、楽しめるなんて初めてだ!
そこで、首を傾げた。
私は、ずっとのんびり暮らしてるのにな、と。
優しい両親と一緒にいる時も、なんて平和なんだろうとも思った。
不思議な感覚だ。
私は私。なのに、たまに羨ましい気持ちになるのだ。自分自身に嫉妬している。
変なの。自分が幸せなのが、許せないとか。
その感覚は今もある。
ずっとずっと抱えている。
きっと、大人になってもこの気持ちを抱えていくんだなと思っていた。
そう、十四歳の誕生日を迎える日までは。
私は新しい絵の具をプレゼントに貰った。
嬉しくて、離れで絵を描いた。
涙を流す男の人を、一心不乱に描き続けた。
今までで一番の出来だ。誇らしくなった私は、満足だった。
だけど、男の人の泣き顔を見ていたら、不意に言葉が零れた。
「会いたい……」
胸がぎゅっと苦しくなる。
寂しさが、後から後から溢れてきた。
何がそんなに辛いのか。悲しいのか。
分からないまま、その名が浮かんだ。
「ブラウニー……」
瞬間、空気が揺らいだ。
甘い匂いが鼻腔を掠めた。
突然感じたひとの気配に、振り返る。そして目を見開いた。
そこには、くたびれたマントに身を包み、真っ直ぐ私を見る男の人がいたからだ。
初めて見るけれど、知っている。毎日毎日描き続けていたから。
絵のなかで見た男の人が、立ち尽くしている。
絵と同じように、涙を流して。
震える唇が動いた。
「ずいぶんお待たせしましたね、御侍様」
そして、涙を拭い目もとを和らげた。
私は、彼の笑顔を初めて見た。
それは、とても幸せそうな笑みだった。
もうすぐ誓約の日だった。
彼女は楽しみだねと笑い、自分も笑顔で頷いた。
ずっとずっと一緒だと、思っていた。
彼女が堕神の手に掛かるまでは。
流れた血の色、閉じられた瞼。二度と彼女は動かない。
永遠の別れに耐え切れず、ブラウニーは彷徨い歩いた。
終焉を求めて、さすらい、枯れぬ涙を流し。
幸せそうに笑う彼女の幻を求め、歩みを止めずに。
そして、辿り着いた。
彼女だ。
髪の色が違う。目の色も。年齢すら幼い。
だが、ひと目でわかった……彼女だ。
最愛の御侍様だと。
ああ。ようやく。
わたくしは、笑えるのだ。
涙は止まり、強ばりながらも口が弧を描く。
御侍様が好きだと言ってくださった笑顔を、浮かべることができるのだ。
幸せが胸に宿った。
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