唯我独尊御侍シリーズ
夢小説設定
『それは、友情だよね?』
赤月は、そっと自宅兼職場である店の裏手にある扉を開けた。
彼にしては珍しく、気配を押し殺している。空気の流れに合わせた、慎重な動きでなかに入った。
「……いませんね」
目だけで辺りを確認し、赤月はそっと息をはいた。
普段の彼らしくない様子を留守にしているブラウニーが見たならば、まず間違いなく体調不良を疑っただろう。
それほど、赤月の顔色は悪い。
なにかを恐れるかのように、身を小さくしている。
唯我独尊を地でいく赤月が、だ。
他者を気にしないはずの彼は、確実に何者かを警戒していた。
「ああ、情けない」
何故、自分が自宅で気配を消せばならぬのか。
この事態を引き起こした人物を思いだし、赤月は口を歪めた。
「このまま、部屋まで戻りましょう」
本来ならばライスに買ってきた金平糖があったが、今は身の安全の確保が最優先だ。土産は後回しにしよう。
そう思い、一歩を踏み出した瞬間。世界が真っ黒になった。
「な……!」
「ふふ、だーれだ」
視界が何者かにより塞がれたのだと理解するより前に、甘さを多分に含んだ声がした。
赤月の体が固まる。
「あれ、御侍様? 僕ですよ。わかりませんか?」
声の主は、楽しげにくすくすと笑う。
「ああ、そうだ。もっと近くならわかりますよね」
そうして、耳元に息がかかる。
「お帰りなさい、愛しの御侍様」
「は、離れなさい!」
もう我慢ならないと、赤月は目を塞いでいた人物から身をよじり腕のなかから脱出した。
そうして、普段は微笑んでいるかのように細めている目を見開かせ、相手を睨み付ける。
「なんのつもりです、エッグノッグ!」
怒気をはらんだ声を出す赤月に、さらさらの金色の髪を持つ青年……エッグノッグが嬉しそうに微笑んだ。
「な、何を笑っているのですか!」
「やだな、御侍様。貴方に名前を呼ばれて喜ばないはずがないでしょう?」
赤月がぽかんと、口を開ける。
そして、頬に赤みが差す。
侮辱されたのだと思ったのだ。
「馬鹿にするのも大概になさい! 名前など……」
「御侍様」
遮られ、赤月の言葉が途切れる。
エッグノッグの声に気圧されたのだ。
彼の赤みがかった目は真剣だ。不遜な態度しか取れない赤月が、口をつぐむほど。
「御侍様、僕にとって貴方に名前を呼ばれるのは至上の喜びなんですよ。僕にとって、貴方からの言葉全てが大切な宝物になる」
赤月が、彼をそばに置くようになってからまだ日は浅い。
理解できない。
何故、エッグノッグはここまで自分に心を寄せているのか。
特別なことは、なにもなかったはずだが。
眉を寄せる赤月に、エッグノッグは寂しげに笑う。
「御侍様の当然の行動が、僕には特別なことだっただけです」
「はあ」
エッグノッグとの出会いを思い出そうとした赤月だが、右手に温もりを感じてびくりと体を震わせた。
いつの間にかエッグノッグが、赤月のそばにいたのだ。
「ふふ、御侍様の手は働き者の手ですね」
手袋のはめた手で優しく撫でられ、瞬時に右手を振り上げた。
「な、な、な……!」
「照れているんですか? 可愛いなあ」
赤月は、自分の性別を確認した。
立派な男であることを再認識したのである。
可愛いは、誉め言葉にはならない。
侮辱しているのだと、思うことにした。そうしないと、精神的にまずいことになる気がしたのだ。
「……エッグノッグ」
「はい! 御侍様!」
嬉しそうに返事をするエッグノッグに、赤月は人差し指を突きつけた。
「しばらく、私に近寄るな」
「え!」
この世の終わりのような顔をしたエッグノッグに、なんとも言えない気持ちになる。
何故、ここまで懐かれたのか。不思議である。
「御侍様、あんまりだ!」
「うるさい、決めたのです」
「それじゃあ、御侍様を眺められません!」
「……今ので、決意が固くなりました」
「御侍様!」
悲壮感たっぷりのエッグノッグに、赤月は勝ち誇った顔をする。
ようやく本来の自分を取り戻せた気分だ。
「さて、私はライスのもとに行きますので」
「僕はライスになりたい」
「距離感のおかしいライスなど、嫌ですよ」
「うっうっ」
「泣いても無駄ですよ。まあ優しい私は期間を二週間にしてあげましょう」
「長すぎる、酷いです!」
嘆くエッグノッグに、赤月は微笑んだ。
「正しい距離感を学んだら短くなります」
「あ、それは無理です」
あっさりと答えられ、赤月はちょっと引いた。
エッグノッグの執着心はどうなっているのか。
エッグノッグの有り様は、ライスの情操教育に影響はないのかと、本気で考えた。
「……あとは、ブラウニーに任せよう」
面倒事は丸投げすることに決めた。
楽するのは、良いことだ。
「それじゃあ、二週間後に」
「御侍様あああ」
本気でさめざめと泣く姿に、赤月は思う。
エッグノッグの感情は、ちゃんと友情の範疇に入ってますよね、と。
自分の為にも、本気で心配になるのだった。
赤月は、そっと自宅兼職場である店の裏手にある扉を開けた。
彼にしては珍しく、気配を押し殺している。空気の流れに合わせた、慎重な動きでなかに入った。
「……いませんね」
目だけで辺りを確認し、赤月はそっと息をはいた。
普段の彼らしくない様子を留守にしているブラウニーが見たならば、まず間違いなく体調不良を疑っただろう。
それほど、赤月の顔色は悪い。
なにかを恐れるかのように、身を小さくしている。
唯我独尊を地でいく赤月が、だ。
他者を気にしないはずの彼は、確実に何者かを警戒していた。
「ああ、情けない」
何故、自分が自宅で気配を消せばならぬのか。
この事態を引き起こした人物を思いだし、赤月は口を歪めた。
「このまま、部屋まで戻りましょう」
本来ならばライスに買ってきた金平糖があったが、今は身の安全の確保が最優先だ。土産は後回しにしよう。
そう思い、一歩を踏み出した瞬間。世界が真っ黒になった。
「な……!」
「ふふ、だーれだ」
視界が何者かにより塞がれたのだと理解するより前に、甘さを多分に含んだ声がした。
赤月の体が固まる。
「あれ、御侍様? 僕ですよ。わかりませんか?」
声の主は、楽しげにくすくすと笑う。
「ああ、そうだ。もっと近くならわかりますよね」
そうして、耳元に息がかかる。
「お帰りなさい、愛しの御侍様」
「は、離れなさい!」
もう我慢ならないと、赤月は目を塞いでいた人物から身をよじり腕のなかから脱出した。
そうして、普段は微笑んでいるかのように細めている目を見開かせ、相手を睨み付ける。
「なんのつもりです、エッグノッグ!」
怒気をはらんだ声を出す赤月に、さらさらの金色の髪を持つ青年……エッグノッグが嬉しそうに微笑んだ。
「な、何を笑っているのですか!」
「やだな、御侍様。貴方に名前を呼ばれて喜ばないはずがないでしょう?」
赤月がぽかんと、口を開ける。
そして、頬に赤みが差す。
侮辱されたのだと思ったのだ。
「馬鹿にするのも大概になさい! 名前など……」
「御侍様」
遮られ、赤月の言葉が途切れる。
エッグノッグの声に気圧されたのだ。
彼の赤みがかった目は真剣だ。不遜な態度しか取れない赤月が、口をつぐむほど。
「御侍様、僕にとって貴方に名前を呼ばれるのは至上の喜びなんですよ。僕にとって、貴方からの言葉全てが大切な宝物になる」
赤月が、彼をそばに置くようになってからまだ日は浅い。
理解できない。
何故、エッグノッグはここまで自分に心を寄せているのか。
特別なことは、なにもなかったはずだが。
眉を寄せる赤月に、エッグノッグは寂しげに笑う。
「御侍様の当然の行動が、僕には特別なことだっただけです」
「はあ」
エッグノッグとの出会いを思い出そうとした赤月だが、右手に温もりを感じてびくりと体を震わせた。
いつの間にかエッグノッグが、赤月のそばにいたのだ。
「ふふ、御侍様の手は働き者の手ですね」
手袋のはめた手で優しく撫でられ、瞬時に右手を振り上げた。
「な、な、な……!」
「照れているんですか? 可愛いなあ」
赤月は、自分の性別を確認した。
立派な男であることを再認識したのである。
可愛いは、誉め言葉にはならない。
侮辱しているのだと、思うことにした。そうしないと、精神的にまずいことになる気がしたのだ。
「……エッグノッグ」
「はい! 御侍様!」
嬉しそうに返事をするエッグノッグに、赤月は人差し指を突きつけた。
「しばらく、私に近寄るな」
「え!」
この世の終わりのような顔をしたエッグノッグに、なんとも言えない気持ちになる。
何故、ここまで懐かれたのか。不思議である。
「御侍様、あんまりだ!」
「うるさい、決めたのです」
「それじゃあ、御侍様を眺められません!」
「……今ので、決意が固くなりました」
「御侍様!」
悲壮感たっぷりのエッグノッグに、赤月は勝ち誇った顔をする。
ようやく本来の自分を取り戻せた気分だ。
「さて、私はライスのもとに行きますので」
「僕はライスになりたい」
「距離感のおかしいライスなど、嫌ですよ」
「うっうっ」
「泣いても無駄ですよ。まあ優しい私は期間を二週間にしてあげましょう」
「長すぎる、酷いです!」
嘆くエッグノッグに、赤月は微笑んだ。
「正しい距離感を学んだら短くなります」
「あ、それは無理です」
あっさりと答えられ、赤月はちょっと引いた。
エッグノッグの執着心はどうなっているのか。
エッグノッグの有り様は、ライスの情操教育に影響はないのかと、本気で考えた。
「……あとは、ブラウニーに任せよう」
面倒事は丸投げすることに決めた。
楽するのは、良いことだ。
「それじゃあ、二週間後に」
「御侍様あああ」
本気でさめざめと泣く姿に、赤月は思う。
エッグノッグの感情は、ちゃんと友情の範疇に入ってますよね、と。
自分の為にも、本気で心配になるのだった。
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