唯我独尊御侍シリーズ
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「只今、戻りました」
ブラウニーは紙袋を抱え、店の裏口から入る。
がさがさと重い紙袋の中身は、小豆だ。
そう。ブラウニーの主である赤月のこし餡つぶ餡戦争は、まだ続いているのだ。
赤月は、日夜こし餡の研究に勤しんだ。店を信頼する食霊たちに任せ、こし餡研究に精を出し続けていた。
ちなみに、生産されたこし餡は何故か赤ワインが処理している。
毎日、顔が青くなるまで食べている姿は、多くの食霊の涙を誘った。
ブラウニーは、赤ワインは何か弱味を握られているのだと確信し、同情していた。
助けなど、ない。
赤月に助言しようとしたビーフステーキが、何も言えなくなるまで嫌味攻撃を受けたからだ。
彼は尊い犠牲となり、我々に教えてくれた。
赤月には、逆らうなと。
唯我独尊、自尊心山の如しの主に助言など意味はない。ブラウニーも日々、痛感していることだ。
さて、話は戻る。
こし餡つぶ餡戦争だ。
さすが数少ないご友人の一人。
苦労して作り出されたこし餡だったが、食べての一言がこうだった。
「はは! やり直し!」
あとはひとくちも食べなかったそうだ。
帰宅した赤月からそれを聞いたブラウニーは、気が遠のきそうになったものだ。
自信家で気位も高い主は、荒れに荒れた。
八つ当たりこそなかったものの、笑顔で怒気を放つ彼は恐ろしかった。
そんな経緯を経ての、小豆の買い出しだった。
小豆を厳選せよとの命令にも、きちんと添えたと思う。
ブラウニーは、主に忠実な食霊だ。仲間の犠牲が出ると分かってはいても、従うのだ。逆らうの怖いし。
「さて、御侍様は……」
きょろきょろと視線をさ迷わせると、縁側の方から歌が聴こえた。
低い声。男性のものだ。食霊の誰かが歌っているのかと思い、不思議と足が向かう。
歌声は、優しいものだったから。
「ーー」
旋律に導かれた先は、縁側で合っていた。
しかし、ブラウニーは固まった。
衝撃のあまり、息が止まる。
縁側に見えたのは、座る赤月で。しかも、食霊のライスを膝枕していたのだ。
よく聴けば、旋律は柔らかく子守唄だと分かる。
そこは分かったが、状況が呑み込めない。
あの赤月が、他人など眼中にない、唯我独尊の主が、膝枕。子守唄付き。
あり得ない。
ブラウニーは目眩がした。日々赤月に尽くすがゆえに、とうとう幻覚を見てしまったのだ。きっとそう。
ブラウニーは、衝撃の光景から目を反らし、踵を返した。戻ろう、現実へと。主はきっと厨房にいるのだ。うん。
しかし、現実の世界は残酷だ。
重い紙袋が、ずるりと手から滑った。落ちた。音がした。歌声が止んだ。ブラウニーの時間も止まる。
違う、幻覚が消えただけだ。
そう言い聞かせる。
しかし、再度言おう。現実とは残酷なのだ。
「ブラウニー?」
声が、した。してしまった。
主の声だ。しかも、呼ばれた。
ブラウニーは主に忠実だ。幻聴だと思い込もうとしても、体が勝手に動く。
振り返れば、ライスを膝枕したままの赤月が深く目を細め見ている。
幻覚じゃ、なかった。
「お、御侍様。わ、わたくし……」
震える声で、恐怖におののく頭で言い訳を考える。
しかし。
「見ましたね?」
「はい」
忠実さが仇となり、素直に認めてしまうブラウニー。
世界は、残酷だ。
後日、赤ワインと一緒に顔を青くするブラウニーの姿があったという。
ライスへの優しさの半分でもいいから、欲しいなとブラウニーは思った。