唯我独尊御侍シリーズ
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「まったく、話にならない!」
そう言って荒々しく帰ってきた主に、ブラウニーは目を丸くさせた。
肌の白い主である赤月の頬は、怒りの為か微かに赤くなっている。
相当ご立腹のようだ。
珍しい。彼は皮肉屋で唯我独尊を地でいくが、荒れた姿を今まで見せたことがなかった。
しかも、力強く外套を床に放り投げ廊下を歩く様に冷静さが見当たらない。
いったいどうしてしまったのだろうと、ブラウニーは困惑した。
床から外套を拾い上げ、ブラウニーは赤月の後を追う。
「御侍様、今日はご友人とお会いになられたのでは……?」
今朝、故郷の友人に久しぶりに会いに行くと言った時は、機嫌が良かったはず。
主の身に何が起きたのか。
ごくりとブラウニーは喉を鳴らし、赤月の言葉を待った。
「あんな奴、もう友人ではありません!」
ブラウニーを睨み付け、赤月は言い放つ。
「け、喧嘩でもなさいましたか?」
唯我独尊で毒舌な主の貴重な友人がいなくなるのは、たいへんな事態だ。
ブラウニーは、赤月の横に並び表情を伺った。
すると、赤月は細い目をカッと見開かせる。
髪色と同じ漆黒があらわになり、ブラウニーは息を呑んだ。
「喧嘩? はっ! そんな生易しいものではありません!」
「え?」
思った以上の剣幕に、ブラウニーは身を震わせ聞き返す。
赤月は拳を震わせ、口を開いた。
「これは……戦争です!」
「せ、戦争!?」
穏やかじゃない単語に、ブラウニーは目を見開いた。
「そう、戦争ですよ。奴は侮辱したのですから!」
「御侍様を、ぶ、侮辱!」
自尊心の高い主だ。友人とはいえ、自分を貶められたのならば、この怒りようにも納得がいく。
しかし得心したブラウニーに、赤月は首を横に振った。
「私は、侮辱されていません」
「え?」
ブラウニーは、驚きから外套を落としてしまう。
主は侮辱されていない? つまり、他人への中傷に腹を立てているのだ。自分至上主義の主が!
なんという奇跡なのか。
主が他人の為に怒った事実に、ブラウニーは感動にうち震えた。
外套を拾い、ブラウニーは自分より背の高い主を見上げる。
「誰かが侮辱され、お怒りになったのですね」
嬉しさから胸を高鳴らせ言えば、赤月は口を歪めた。
「は? 私が、他人の為にそんな労力をするわけないでしょう?」
お客様の為にいる料理人にあるまじき発言である。
「え、ですが……」
「奴は、私の好物を貶したのです!」
赤月は赤月だった。自分の為に怒り、自分の為に荒れたのだ。
感動を返してほしい。ブラウニーは、がっくりと肩を落とした。
そんな悲しみに暮れるブラウニーに構わず、赤月はぷりぷりと怒ったままだ。
「まったく、何が餡はつぶ餡が素晴らしいだ! こし餡の滑らかさを知らないなど、言語道断!」
赤月の発言に、ブラウニーは膝をついた。
喧嘩の内容が、想像の斜めをいっている。
「子供ですか……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
ブラウニーはどっと押し寄せた疲れに負けないよう、立ち上がる。
「そうですか。では、私は店に向かいます」
「今日は、休みにしたのでは……」
ブラウニーの問いかけに、赤月は口の端を上げた。
「奴を泡ふかせるこし餡を作ってきます」
「……そうですか」
立ち去る赤月の背を見送り、ブラウニーはため息をついた。
この戦いは長引くと確信して。
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