エッグノッグと創作御侍(女の子)シリーズ
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小さな幌馬車が走る。
枯れ果てた大地を。乾いた風を受けて走り続けていた。
御者台に座るのは、柔らかな金色の髪をした男だ。
薄汚れたマントに身を包み、端正な顔からは表情が抜け落ちている。
じっと手綱を握りしめ、そして時折荷台の方を振り返っていた。
「……」
何かを呟く。それは乾いた喉では音にはならない。
ただ呟いた瞬間だけ、男の目に生気が宿った気がした。
キャラバンの商人に数枚の貨幣を渡し、水の入った皮袋と食料を受け取る。
「いやあ、お互い大変でしたなあ。少し前にあった砂嵐で立ち往生しましてね」
恰幅の良い商人は口も良く回った。
べらべらと最近の旅事情を話す。料金を相場よりも多く払ったから、その見返りでもあるのだろう。
買った水で喉を潤しながら、男は商人の話を聞いた。
「そういえば、聞きましたか? お客さん! 魔女の話を!」
商人が大げさに体を揺らす。
「……魔女?」
男が聞き返した。商人の話に初めて反応したのだ。
商人は身を乗り出した。
「ええ、ええ! 万能の魔女ですよ!」
目に期待を宿した商人の手に、男は金貨を一枚置いた。
商人はさっと懐に金貨を仕舞うと、もったいぶった様子で語った。
この先の寂れた村に、魔女がいると。魔女に癒せぬ病はなく、奇跡を幾度も起こしてきたという。
「だから、万能の魔女、か」
「ええ、そうですとも!」
「……食霊ではないのか?」
「さあ……。ただ長寿とも聞きますしな。その可能性もあるのでは、と」
「そうか、ありがとう」
男は身を翻す。
商人は笑顔のまま見送る。
「荷台の奥様が良くなりますように祈ってますよ」
商人の言葉に男は立ち止まったが、すぐに幌馬車に向かう。
荷台に荷物を慎重に置く。荷台の真ん中に、毛布に包まった少女が居たからだ。
少女は年頃は十六歳ぐらいだ。目を閉じ、深く眠っているように見えた。
「……沙耶」
声を掛けたが、起きる気配はない。
男はぎゅっと唇を噛んだ。
「待っていてください、私の、沙耶」
男の声には切なさが滲んでいた。
もう諦めよう。
最初に言ったのが誰だったのかは、もう思い出せない。
大切な御侍である少女が目覚めなくなってから、食霊たちは手を尽くした。
男ーーエッグノッグもそうだ。
しかし、何をしても沙耶は目を開くことはなかった。
呼吸はしている。幸い食事を取らなくても、衰弱する様子はない。だが、異常ではあった。
食霊たちは待ち続けた。長い間、待った。
それでも、沙耶が起き上がることはなかった。
疲弊した食霊たちは、ひとり、またひとりと諦めていった。
沙耶に殉じることを選んでしまった。
ひとり、エッグノッグだけは希望を捨てずにいた。
絶望に沈むなか、沙耶を攫うように連れ出し、旅に出た。
長い長い旅を。
年を取らなくなった眠り姫を連れて、彷徨うことを選んだのだ。
キャラバンを離れ、幌馬車をとめた。
御者台から荷台へと移る。
沙耶は微動だにせず、目を閉じたままだ。
「沙耶……」
名前を読んでも、声は返らない。
エッグノッグは微笑みを浮かべ、沙耶の頬を両手で包んだ。暖かい、彼女は生きている。
「沙耶、どうか、待っていて」
そして、沙耶の唇に口づけた。
誓約の日にしたように、誓いを立てる。
「僕がきっと、貴女を助けるから」
ぽたり、沙耶の頬に雫が伝う。
乾いたはずのエッグノッグの目から、涙が溢れていた。
「愛しています。私の、沙耶」
悲願を果たすまで、二人の旅は終わらない。
枯れ果てた大地を。乾いた風を受けて走り続けていた。
御者台に座るのは、柔らかな金色の髪をした男だ。
薄汚れたマントに身を包み、端正な顔からは表情が抜け落ちている。
じっと手綱を握りしめ、そして時折荷台の方を振り返っていた。
「……」
何かを呟く。それは乾いた喉では音にはならない。
ただ呟いた瞬間だけ、男の目に生気が宿った気がした。
キャラバンの商人に数枚の貨幣を渡し、水の入った皮袋と食料を受け取る。
「いやあ、お互い大変でしたなあ。少し前にあった砂嵐で立ち往生しましてね」
恰幅の良い商人は口も良く回った。
べらべらと最近の旅事情を話す。料金を相場よりも多く払ったから、その見返りでもあるのだろう。
買った水で喉を潤しながら、男は商人の話を聞いた。
「そういえば、聞きましたか? お客さん! 魔女の話を!」
商人が大げさに体を揺らす。
「……魔女?」
男が聞き返した。商人の話に初めて反応したのだ。
商人は身を乗り出した。
「ええ、ええ! 万能の魔女ですよ!」
目に期待を宿した商人の手に、男は金貨を一枚置いた。
商人はさっと懐に金貨を仕舞うと、もったいぶった様子で語った。
この先の寂れた村に、魔女がいると。魔女に癒せぬ病はなく、奇跡を幾度も起こしてきたという。
「だから、万能の魔女、か」
「ええ、そうですとも!」
「……食霊ではないのか?」
「さあ……。ただ長寿とも聞きますしな。その可能性もあるのでは、と」
「そうか、ありがとう」
男は身を翻す。
商人は笑顔のまま見送る。
「荷台の奥様が良くなりますように祈ってますよ」
商人の言葉に男は立ち止まったが、すぐに幌馬車に向かう。
荷台に荷物を慎重に置く。荷台の真ん中に、毛布に包まった少女が居たからだ。
少女は年頃は十六歳ぐらいだ。目を閉じ、深く眠っているように見えた。
「……沙耶」
声を掛けたが、起きる気配はない。
男はぎゅっと唇を噛んだ。
「待っていてください、私の、沙耶」
男の声には切なさが滲んでいた。
もう諦めよう。
最初に言ったのが誰だったのかは、もう思い出せない。
大切な御侍である少女が目覚めなくなってから、食霊たちは手を尽くした。
男ーーエッグノッグもそうだ。
しかし、何をしても沙耶は目を開くことはなかった。
呼吸はしている。幸い食事を取らなくても、衰弱する様子はない。だが、異常ではあった。
食霊たちは待ち続けた。長い間、待った。
それでも、沙耶が起き上がることはなかった。
疲弊した食霊たちは、ひとり、またひとりと諦めていった。
沙耶に殉じることを選んでしまった。
ひとり、エッグノッグだけは希望を捨てずにいた。
絶望に沈むなか、沙耶を攫うように連れ出し、旅に出た。
長い長い旅を。
年を取らなくなった眠り姫を連れて、彷徨うことを選んだのだ。
キャラバンを離れ、幌馬車をとめた。
御者台から荷台へと移る。
沙耶は微動だにせず、目を閉じたままだ。
「沙耶……」
名前を読んでも、声は返らない。
エッグノッグは微笑みを浮かべ、沙耶の頬を両手で包んだ。暖かい、彼女は生きている。
「沙耶、どうか、待っていて」
そして、沙耶の唇に口づけた。
誓約の日にしたように、誓いを立てる。
「僕がきっと、貴女を助けるから」
ぽたり、沙耶の頬に雫が伝う。
乾いたはずのエッグノッグの目から、涙が溢れていた。
「愛しています。私の、沙耶」
悲願を果たすまで、二人の旅は終わらない。
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