エッグノッグと創作御侍(女の子)シリーズ
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沙耶は、困惑していた。
差し出された手を前に、どうしていいのかわからない。
胸の前で両手を握り、不安げに目の前の人物を見る。
さらさらの金色の髪に、柔らかな目をした男性。
優雅な立ち姿は、絵本のなかから出てきた王子様みたいに見えた。
優しそう。
そう思うけれど、内向的な性格沙耶はなかなか声を出せない。
この美しいひとは、なんと言ったのか頭のなかで反芻する。
『お嬢さん、どうか僕の御侍様になってくださいませんか?』
そうだ。
街を歩く沙耶を呼び止めた彼から、柔らかな笑みとともにそう言われたのだ。
ならば、この人は食霊? まだまだ未熟な身ではよくわからない。
料理御侍を目指す沙耶は、遠い田舎から光耀大陸に来たばかりだ。
知り合いは少ないし、契約した食霊もいない。
だから、彼が本当に食霊だというのならば、とても魅力的な提案をされたのだけど。
でも、私なんかと契約して、彼は後悔しないだろうか。
自分に自信のない沙耶は、誰かに幻滅されるのが怖い。
まだ、十四歳。子供だという自覚はある。
沙耶は変わらずにこにこと微笑む男性を見る。
沙耶の返事を、催促することなく待っていてくれる。
その優しさに勇気をもらい、沙耶は震えながら口を開く。
「わ、わたし……」
「はい」
「その、まだ、料理御侍ではないですけど、が、頑張りたくて……」
男性の目を見る。優しい目。包み込まれるような安心感があった。
「でも、ひとりだから……だから、あの」
「エッグノッグ。僕の名前は、エッグノッグです」
「エ、エッグノッグさん、わたし、わたしと一緒に、いてください」
知り合いの少ない街は不安ばかりだった。寂しく心細い思いを抱えて過ごしていた。
だから、彼……エッグノッグの申し出は、とても嬉しくて、泣きそうだ。
すっと、エッグノッグが片膝をつく。
そして、沙耶の顔を覗きこんだ。
「はい、御侍様。僕は貴方のそばにいます。愛しいひと」
「あ、ありがとう、ございます……!」
これが十四歳の沙耶と、後の看板食霊となるエッグノッグとの出会いだった。
あれから、二年。
十六歳になった沙耶は、困り顔でエッグノッグを見上げていた。
相変わらず王子様のように美しい彼は、端正な顔を綻ばせて沙耶を見つめている。
「御侍様は、困った顔も愛らしいですね」
「あ、あの。エッグノッグさん……」
「はい、愛しい御侍様」
「こ、困ります」
二年の間に若き料理御侍となった沙耶だが、性格はまったく変わっていない。
接客は食霊が一手に引き受けてくれるので、内向的な沙耶でもなんとか店を維持できていた。
沙耶は真っ赤になりながらも、必死にエッグノッグを見つめる。
「お、お店で、暴れてる人がいるんですよね? わ、わたしが行かないと」
「大丈夫ですよ、御侍様。手の掛かるお客様は、プリンと梅茶漬けが相手していますから」
「でも……!」
「御侍様」
エッグノッグがそっと沙耶の頭を撫でる。
出会った時から変わらない笑顔に、焦る心が鎮まっていく。
「大丈夫です。僕たちを信じて」
「エッグノッグさん……」
問題を起こす客が出たのは、店主の自分が不甲斐ないからだと思っていた。
頼りないから、問題が起きたのだと。
でも。
彼の笑顔が、不安を取り除いてくれた。
「僕たちは、貴方を守ります。貴方の大切なお店も」
沙耶は、ぐっと目に力をこめた。でないと涙腺が緩んでしまいそうだったから。
「愛しい御侍様。貴方には笑顔が似合う」
そして、愛しいと目で表情で表すエッグノッグに、沙耶は俯く。眩しいのだ、彼という存在は。
「そういうの、困り、ます……」
エッグノッグと過ごすようになってから口癖となった言葉。
エッグノッグの沙耶への態度は、甘くて戸惑うばかりだ。
だけど、いつもは恥ずかしくて逃げてしまうけど。今日は、ちゃんと言葉にしないと。
沙耶は赤い顔のまま、エッグノッグを見る。
「エッグノッグさん」
エッグノッグはとろける笑みを向けてくる。恥ずかしい、でも、頑張る。
「いつも、ありがとう、ございます」
精一杯の感謝を込めて、笑顔を作る。
うまく笑えているといい。
少しでも、気持ちが伝わってほしい。
沙耶は、震える声で絞り出す。
「わたし、皆、大好き」
それが、限界だった。
茹で蛸のように顔を赤くさせ、沙耶はエッグノッグの前から逃げた。
恥ずかしい、裏庭へ行こう。
脱兎の如く沙耶が去ったあと、客の相手をしていたプリンが立ち尽くすエッグノッグを見つけるのは十分後のことである。
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