秘めやかな愛(ブラウニー)
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夜の帳が、全てを覆い隠す。
それに安堵する自分は、情けない。
この暗闇のなかなら、誰かに自分の姿を見られることもないのだから。
さらりと、長い髪がブラウニーの頬をくすぐった。びくりと体が震え、意識が現実へと引き戻される。
「おん、じ、さま……っ」
かすれた声が、ブラウニーの口から出る。
ぎしりと、ブラウニーを縫い止めている寝台が軋んだ。
彼の両手首は、細く小さな手により封じられるように顔の横に押し付けられていた。
弱い力だ。
ブラウニーならば、簡単に振り払える。
しかし、出来ない。
出来るわけがないのだ。
ブラウニーの体を寝台に封じ、見下ろしている相手は……彼の大事な主だから。
「おやめください、御侍様……っ」
懇願の響きを込めて、訴えかける。
しかし、主である少女が彼から離れる様子はない。
暗がりのなかでは、見おろしている少女の表情すら分からない。
それが、恐ろしい。
御侍様を怖がるなど、初めてのことだ。
いつだって、少女は優しく。常に食霊を大事にしてくれていた。
なのに、何故。
あなたは、わたくしにこのような無体をなさるのですか?
ふと、風が動く。
少女が、ブラウニーに顔を近づけたのだ。
「あ……っ!」
耳元で囁かれ、暗がりのせいかブラウニーの体が反応する。
囁かれたのが、自分の名前だったせいもある。
いつもの優しさに満ちた声なのに、状況が少女を艶めいて見せているのだ。
ブラウニーは、夜だというのに御侍様の寝所に来たことを後悔していた。
今夜は冷えるから、温かい飲み物をお持ちした。ただ、それだけだったのに……。
何故、このようなことになったのだろう。
寝台の御侍様に呼ばれ、手を引かれ。
そして、視界が反転した。
灯りが消され、全てが闇に包まれたのだ。
また、名前を呼ばれる。
優しく、愛しく、恋するような声で。
ブラウニーを惑わす声で。
「御侍様……!」
悲鳴のような声でブラウニーは叫ぶが、声は響かない。体に力が入らないのだ。
駄目だと、頭のなかに警鐘が鳴る。
これ以上は、駄目だ。
勘違い、してしまう。
御侍様は、誰のものにもなってはいけない方だ。
そう理解しているから、諦めた感情がブラウニーにはある。厳重に蓋をした、心があるのだ。
だから、やめてほしい。これ以上は、蓋が砕けてしまう。
感情が、封じた心が、溢れて、抑制が効かなくなる!
「御侍様!」
口のなかだけの叫びは、悲痛なものだった。
認めてはならない感情が、蓋を破りかけている。
「なぜ、なぜ、このような……」
からかっているのならば、こんな酷いことはない。
必死に耐えている自分が、馬鹿みたいだ。
辛さから眉を寄せるブラウニーに、再び少女が耳元で囁いた。
囁かれた言葉に、目を見開く。
少女から告げられた想いに、感情の蓋が役割を終える。
涙が、ブラウニーの頬を伝った。それは溢れた想いゆえに。
少女からの拘束が解かれた。
しかし、ブラウニーは動かない。
もう、少女を恐れる必要がなくなったのだ。
「……わたくしも、お慕いしております」
見上げた先の少女に、ブラウニーは微笑んで告げた。
感情に蓋はもう必要ない。
想いを閉ざしたブラウニーに焦れ、強行策に出た少女も微笑みを返す。
そして、近づく幼さの残る唇にブラウニーは目を閉じた。
秘めることを止めた感情のまま、少女を求めることにしよう。
彼はただ、愛しき少女に応える。
暗闇に窓の隙間から入った月の光が、優しく二人を照らすのだった。
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