マンダロリアン

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『君を待つ日』


 ルークはR2-D2と共に惑星ネヴァロを訪れていた。
 Xウィングを巧みに操縦し、地上へと降り立つと、颯爽と船から大地へと飛び移る。
「ここがネヴァロ……」
 なかなか栄えた街であるらしい。
 初めて来た街を興味深げに眺めていると、機体から降りてきたR2が、電子音の言語でルークに話しかけてくる。
 R2は約束の時間は大丈夫かと言っているらしい。
 ルークはニコッと微笑みかけ、
「大丈夫。まだ彼らとの約束の時間には余裕がある。少し街を見物してからでも十分間に合うよ。やっぱり初めての場所は興味深い。R2、君もそうだろ?」
 R2から軽快な返事が返ってきて、ルークはクツクツと喉を鳴らして笑った。

 ルークは黒いローブに身を包み、R2と共にネヴァロを歩き始めた。
 いくつか商店を通り過ぎ、広場へと出る。
 行き交う人々には活気があり、笑いに溢れている。帝国の残党などが居なくなり、平和を取り戻したのは、ここ数年の話らしいが、平和へと走り出したとしても、これほどの街になるのは簡単のことではない。

「どうやら、ここには良い指導者がいるらしい」

 短期間で栄えるには、上に立ち、導く者がいなくては難しいだろう。

 一通りネヴァロの活気だった様子を見て回ってから、ルークは本来の目的の場所へと方向転換した。

 彼はふと立ち止まって、瞼を閉じ、深呼吸をした。

(フォースはありとあらゆる場所にある。もちろん、ここにも……)

 しかし、ルークが学校に選んだあの場所であれば、さらにフォースを感じやすいだろう。瞑想し、ジェダイの修行するには、きっと最適な場所のはずだ。

 その場所にルークは学校を建てている。そこの最初の生徒となるはずだったパダワン候補を思いだし、ルークは残念そうに眉尻を落とした。

(グローグー……)

 偉大なジェダイ・ヨーダを彷彿させる緑色の小さなグローグーとは、短い間だったが、師匠と弟子の関係だった。

 ルークにとって初めての生徒だったグローグーは、打てば響く、素晴らしい生徒でもあった。

(でも彼は、ジェダイを選ばなかった……)

 ルークは天を見上げ、少し寂しげに微笑んだ。

 彼のことを思い出すと自然と、あの”マンダロリアン”の姿が瞼の裏に浮かぶ。

 グローグーを通してマンダロリアンとはあれから、何度か会う機会があった。
 そして、言葉を交わし、だんだんと親しい友人になってきたところなのだが……。

「……」

 ルークは眉間を寄せ、正体不明の感情を処理するため、小さくうなった。

 そんなルークの様子にR2がピコピコ話しかけてくる。

「別に体調不良なわけじゃない。……いやある意味、体調不良か…………」

 なんとなくマンダロリアンへの感情がなんなのか、分かってはいる。だが、まさか自分が男性にそんな感情を抱くとは思いもしなかったので、まだまだ戸惑ってもいた。

 いずれにしろ、この感情を彼にぶつけることはないだろう。だから何も心配することはないはずなのだが、どうも条件反射的にそわそわしてしまう。

 またR2がルークに話しかけてくる。

「はいはい。行くさ。グローグーたちを待たせるわけにはいかないものね」

 ルークはジェダイとしての自分を思いだし、平静を取り戻して、今日の目的であるグローグーとマンダロリアンの家へと歩き始めた。

 ◇

 マンダロリアンと連絡を交わすようになったのは、初めはルークがジェダイの書物を求めて出かけたある惑星で、偶然再会したのが、きっかけだった。

 しばらく軽い世間話をしたのち、マンダロリアンは真剣な眼差しで、
『すまない。こんな機会、滅多にないと思うから尋ねたいのだが……』
 と、強いフォース感応者であるグローグーについて、ジェダイであるルークに、いくつか疑問をぶつけてきたのだ。

 ルークは知っていることを丁寧に説明していくうち、グローグーが厚い信頼を寄せるこのマンダロリアンとの会話が、不思議と心地良いことに気が付いた。

 グローグーの話をしているからだろうか。しかし、それ以上の別の手応えを、この男から感じるような気がした。

 そのせいか、ルークは自然とこのマンダロリアンに連絡先を教え、近くに寄った時などには連絡をいれるようになっていた。

 ちなみに今回ネヴァロの彼らの家に行く理由は、フォース感応者であるグローグーの様子を知るためだ。また、友人となったマンダロリアンとの交友ためでもある。

 ルークの脳裏にマンダロリアンの姿が浮かぶ。宗教上の理由から、彼はベスカーのヘルメットを取らない。
 だが、彼の声、仕草、戦闘能力、グローグーへの信頼を見ていれば、表情が読みとれなくとも、マンダロリアンが優しく義理堅い男だということが分かってくる。

 そして、ルークは友人以上の感情をあのマンダロリアンに抱きつつあった。

(うーん。本当にこれは……困ったな…………)

 ルークは一緒に道を進むR2に気付かれぬよう嘆息した。

 色々と考えているうちにルークはグローグーとマンダロリアンの家にたどり着いていた。彼らの家の前にある池には、グローグーがカエルを目をキラキラさせて追いかけている。

 ルークは口端を緩ませる。

「グローグー。元気にしてたかい?」
 ルークがそっと近づいて話しかけると、グローグーは振り返り、じっと大きな黒い目でルークをとらえた。
 グローグーの感情が心に伝わってきてルークは微笑む。
「ふふっ。それはなにより」
「パトゥ」
「ふふふ」

 ルークはグローグーを抱き上げて、彼らの家へ一緒に向かう。すると、グローグーが「パ…パトゥパトゥ」
 と内なる感情とあわせて教えてくれた。
「マンダロリアンは監督官に呼ばれて不在……か。ふむ、街で何かあったのかな?」
 それを聞いたR2が背後でピコピコ文句を言う。
 ルークはR2を振り返り、視線で制す。
「どうやら彼とはすれ違ってしまったらしい」
 ルークはグローグーを家の前に置いてあった椅子に座らせ、自分は壁にもたれ掛かった。
「何か手伝えることは?」
「パトゥ」
「そう。マンダロリアンは帰ってくるか……」
 ルークはしゃがんでグローグーと同じ視線になった。グローグーの感情がルークの心に届いて微笑ましくなる。

(本当に君はあのマンダロリアンを信頼している)

 伝わってくる彼のマンダロリアンへの感情をルークは目を瞑って受け取った。

 もしかしたら、グローグーのこの熱い思いがルークにも影響したのかもしれない。
 ふとそんなことを思い、ルークは自分の胸に片手をおいた。


 ぼんやりそんなことを考えているとき、マンダロリアンがこちらに歩いて戻ってくる姿が見えてきた。
 グローグーが嬉しそうに、目を開き、ルークを見上げる。

 マンダロリアンは自分の家の前にいるグローグーとルークとR2の元に、まっすぐ歩いてきた。
「すまない。スカイウォーカー。待たせてしまって……」
「気にすることはない。監督官に呼ばれたとグローグーに聞いた」
 ルークがそっとグローグーの方を見る。
 グローグーが何を考えているのか分かるのは、フォースを極めたジェダイとしての力であった。
 マンダロリアンはグローグーとルークを交互に見て、肩をすくめる。
「ジェダイというのは本当に……」
「魔法みたいだと?」ルークは小首を傾げ、白い歯を見せて笑う。
「……」
 マンダロリアンはルークの言葉に返事をわけでもなく、ベスカーのヘルメット越しに、じっと見つめてくる。

 長い沈黙が続いて、ルークはだんだんと気恥ずかしくなってきた。

 ヘルメットを被っているためマンダロリアンの顔は見えない。しかし、その瞳は熱いものを含んでいる気がして、ルークはすぐに心の内で否定する。

(何を考えてるんだ。彼は寡黙な人間なのだから、会話の途中で黙ってもおかしくない)
 それを顔が見えないから自分の都合の良く解釈して………………都合良くってなんだ?

 そんな感じに内心では感情がグルグル巡っていたものの、ルークは表面上涼しい様子で、沈黙を受け止めていた。

「プァ」
 ピーピコピコ

 とグローグーとR2が動きだし、家の中に入ろうと声を上げる。

 ルークはようやくマンダロリアンの視線から外れ、ほっとする。

 皆で中に入りテーブルにつくと、マンダロリアンから監督官に呼ばれた理由を聞いた。
「昨日急に、ここの保安官の代理を頼まれてしまって、案の定、朝からトラブルが発生した」
 とマンダロリアンはルークの飲み物を差し出す。
「ここに来る前R2とネヴァロを回ったけれど、そんな感じはしなかった…」
「ここもまだまだ色々あるらしい。だが、もう代理の仕事は終わった。保安官の修理は完了したからな」
「修理?」
「ここの保安官はドロイドなんだ」
「なるほど」

 ドロイドと聞いてR2が反応する。ピコピコとR2の言葉にグローグーが何やら言葉を返していた。

 ルークは近況をマンダロリアンやグローグーに話し出す。最近は、忙しいものの一人で行動することも多く、誰にも話していないネタは沢山あった。
 グローグーも(これはルークにしか読みとれないだろうが)マンダロリアンとの冒険の様子を語ってくれて、なかなかに楽しい時間を過ごすことが出来た。

 話も少し落ち着いてくると、ルークはふとマンダロリアンの視線に気づいてしまった。

(まただ……)

 今日は何度も、マンダロリアンがルークをじっと見つめていたような気がする。

 ルークがそんな気まずい思いをしているとは知らず、不意にグローグーはR2を引き連れて離れていく。自分のお気に入りのコレクションをR2に見せたいらしい。

 マンダロリアンと二人きりとなったことでルークはとうとう彼の視線に耐えきれなくなり、気づけば「マンダロリアン」と問いかけていた。
「何か私に聞きたいことでも?」とルーク。
「……いや、特に?」
「けれど今日はやけに私を見つめてる気がしたんだが?」
「そんなつもりは……ないが」
 予想外にもマンダロリアンの声は少し驚いた様子の響きで、ルークの方が狼狽えた。
 ルークは額に片手を当て、気恥ずかしさに耐える。視線はこちらの勘違いなのか。

 だがすぐにマンダロリアンが言葉を続ける。
「つもりは無かったが……たしかに俺は君を見ていたな。言われてみれば」
「……」
「君は人目をひく。とても綺麗だ。だからつい……」
「……マンダロリアン。今、自分が何を言ってるか理解してる?」
 ルークのまっすぐな青い瞳にマンダロリアンがたじろぐ。
「……俺は、今変なことを……言っているな」
 戸惑うマンダロリアンの声に、ルークは何か、カチッとスイッチが入った気がした。
 挑みかかるように、口端を上げる。
「さぁ? それはあなた次第だけど……?」
 とルークはその青い瞳でマンダロリアンをまっすぐ見つめ、小首をかしげる。
「ディン・ジャリン……。それがあなたの名前だったね」
「スカイ…ウォー…カー………」
「ねぇ…もし差し障りがないなら、私のことはルーク呼んでくれてかまわない」
「……」
「そして良ければ、私もあなたを名前で呼びたい。いいかな?」
 ルークが小首を傾げて尋ねれば、マンダロリアンのディン・ジャリンはゴクリと唾を飲み込んだ。
 二人は何か引き込まれるように見つめ合う。やがてルークは視線を外さないまま、義手では無い左手で、無造作にテーブルの上についていたディンの手の指先にそっと触れる。
 一瞬、こわばった様子を見せたディンはだったが、間を置いて、ディンもルークの手に自ら触れた。
 気がつくと、2人の手は恋人同士のように、絡み合い、互いの体温を感じていた。

 急速に視線が熱を帯び始めたそのとき、室内に「プゥア!」という無邪気なグローグーの声が響いた。
 続いてR2の声がする。

 ハッとしたルークはマンダロリアンから手を離し、グローグーたちの方を振り返った。
 どうやらグローグーの壊れていた玩具がR2の修理によって復活したらしい。

「パトゥ! パトゥ!」
 ピーウィンピコピコ

 グローグーとR2の楽しげな声が耳に入ってくる。


「グローグー? R2?」
 とルークは元弟子と相棒であるドロイドの愛称を呼びながら、彼らのもとへと近づいていく。
 目をキラキラさせて喜ぶグローグーを微笑ましく思いながら、ルークは先ほどまでの自分の行動と言動が、急に恥ずかしくなって赤面した。

(私は一体、何をしてるんだ)

 マンダロリアンの名前を呼びたい。
 ルークと彼に呼んでほしい。
 あわよくば彼ともっと親しく…………

 などという欲望に突き動かされ、気付けばマンダロリアンに自ら甘くささやき、手を握っていた。

 この気持ちを表に出すつもりなど一切無かったというのに。マンダロリアンの見せた隙に、ルークはすかさず、口説くような言動をとってしまった。だが、おそらく向こうも満更ではないはずだ。

 ルークはそっとマンダロリアンの方をうかがう。
 彼は今はルークではなく、グローグーたちを見つめているようだ。

 堅く丈夫なベスカーのヘルメットの内側できっと、相棒のグローグーに優しく微笑んでいるに違いない。

 ルークはそんな想像をし、眩しそうに目を細めた。



 ◇


「ではまた、グローグー」
 見送りに庭にまで出てきたグローグーに別れの挨拶をしてから、グローグーの背後に立つマンダロリアンに視線を送る。
 マンダロリアンは無言でそっと頷き、ルークもまた頷いた。それが二人の別れの挨拶だった。

 R2と共にマンダロリアンとグローグーの家から離れていく。
 一瞬、マンダロリアンとおかしな雰囲気になったものの、それ以降は何もなく、穏やかな時間が過ぎていった。ルークは何事も無くR2と帰路につく。


「グローグーが元気で良かったな。R2」
 ルークがそう言うと、R2も元気良く同意した。

 歩きながら、ルークは今日のことを振り返った。
 グローグーについては、おおむね満足のいく訪問となったが、マンダロリアンに対しては……。
 ルークはそっと嘆息したものの、すぐに己を律した。

 立ち止まることなく進み、自分の船を目指していたそのとき、気配を感じてルークは足を止めた。

「スカイウォーカー」
 とマンダロリアンの声がして、ルークはドキリとして振り返る。

 こちらにまっすぐ近づいてくるマンダロリアンにルークは目を見張る。
 一体なぜマンダロリアンが一度別れの挨拶をしたルークを追いかけてきたのだろう

 ルークはR2に一瞥し「R2。先に船に戻っててくれ。私は彼と少し話をしてから戻る」と言った。

 R2は何か言いたげだったが、すぐに了承し、船に一人で戻っていった。

 一人となったルークの正面にマンダロリアンが立つ。
「次に君に会えるのはいつになるか分からない。だから、言っておこうと思って……」
 マンダロリアンはルークを見下ろす形で、まっすぐに見つめた。
「名前を呼んでほしいと言ったな……。俺は君をルークと呼んでもいいのか」
「……もちろん」
「そうか。ではルーク…………」
「……」
「……」
「……まだ何か?」
 ルークは何も言わず見つめてくるマンダロリアンに尋ねる。
 名前を呼ばれ、内心動揺があったものの、涼しい表情を装っていた。
「ルーク。俺は君と知り合ってから、少しおかしい」
「おかしい?」
「……ときどき君の声を無性に聞きたくなる」
「…………へぇ」
「今日は君にばかり目が向いて、自分でも戸惑った。…………こんな俺は嫌か?」
「もしそうなら名前で呼んでほしいとは言わないよ」
「そうか……良かった……」
 マンダロリアンはもう一度噛みしめるように良かったと一人呟いた。
 ルークはじっと目の前の男を観察してから、一歩前に踏み込む。
「……私もあなたを名前で……呼んで良いんだよね?」
 と上目遣いでマンダロリアンに確認した。マンダロリアンはルークの青い瞳に引き込まれてクラクラする。
「あ……ああ。問題ない」
「ディン・ジャリン」ルークがそっとマンダロリアンの名前を呼ぶ。「私もあなたのことを思っていた。あなたはきっと私の大切な友人になるし…………もしかしたらそれ以上かも」
 ルークはキラリと青い双眸を彼に向ける。
 二人は一瞬、時間が止まったかのように体を硬直させた。刹那、ルークはマンダロリアンの腕を引っ張り、近くの木陰へと引き込んだ。
 どんっとルークは片手を木について、ディン・ジャリンを見上げる。

「ディン…」
「ルーク…」

 二人の瞳がきらめく。
 そして、ディンの両手がルークの背中へと回り、ルークは瞼を閉じて、抱擁を静かに受け止めた。


 ◇


 ルークは機体を操縦し、宇宙の向こうにある住処へと向かっていた。
 今日のことを思い出すと自然と口端が緩む。だがすぐに気を引き締めなくてはと、気持ちを入れ替えようとした。
「……まずいな」
 それは独り言だったが、R2が反応して、何がと尋ねてくる。
「いや、なんでもない」
 とルークは返事をして、唇を一文字にして、窓の向こうの宇宙を見つめた。

(もう会いたくなってしまってる……)

 数時間前、ルークは短い間だが、ディンと甘いひとときを過ごした。抱擁と言葉を交わし、気持ちを確かめ合った。
 そうすれば満たされると思ったが、そんなことはない。

「はぁ……」
 ルークは気怠げに嘆息してから、ふっと笑う。

 もしかしたらディンもルークのように寂しくなっているかもしれない。
 思ったよりも情熱的な男のようだから。

 ルークは惑星ネヴァロでのことを頭の中で反芻しながらも、全てを振り払って、宇宙の彼方へと迷うことなく飛んでいく。

 グローグーとディン。
 きっとまた二人に会える。そう強く信じて。


 END
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