人形兵器の夢と目覚め
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[遭遇う《であう》]
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彼には求めるものがあるのだという。
「島国の田舎マフィアめ」
椅子の上で足を組み、白いスーツを着こなした男は手にした小型マイクへと言う。
「約束の時間も守れないとは、とんだはんちくだな。聞こえたか? 懸賞金作戦は失敗、どうしたものだか」
『どうぞお好きに』
笑みを含んだ男の声とは異なる、優雅で柔らかい声が机上のパソコンから聞こえてくる。それはこの部屋にはいない、遥か遠くの地で紅茶を嗜んでいる女性のものだ。
『わたくし達の手袋を汚す程の相手ではありませんもの』
ノイズの乗った音声は広い室内へと溶けていく。歪みのないカーペットに汚れのない壁紙、柱には豪奢な装飾が下がり、窓を境に線対象に引き上げられたカーテンには蜘蛛の巣も埃もついていない。建造したばかりのホテルのスイートルームを思わせるその部屋で、男は女性の声に鼻で笑う。
女性の言葉は事態への無関心を意味していた。作戦を失敗されたからといって取引相手をどうこうするつもりはない――それほどの価値さえも見出せない。まるで実験用ネズミが予想通りの結果を生み出さなかったのを知った時と同じ考えがその声には宿っていた。
失敗などどうでも良い、駄目だったのならば再度別の方法で試みれば良いのだから。
『全て予想の通りです』
女性のものよりも低く若い男性の音声が雑音と共に聞こえてくる。
『いずれにしても、ぼくたちは勝手にやらせてもらいますよ。――神と悪霊の右手が示す通りに』
大仰めいた言葉はしかし、氷のように冷ややかだ。歓喜はない。が、確かにそれには思考が含まれ、彼が既に何らかの手を打ち始めていることを言外に告げてくる。
三者三様――けれど彼らが狙うものはただ一つ。
この世の全てを掌握する力。
「協調性のない貧乏人どもめ」
通話終了を伝える画面を一瞥し、男は蔑むような面持ちで口端を上げる。
「まあいい、二番手が利益に与れる道理は何もない。『約定の地』は我らギルドが必ず頂く」
宣告。通話の途切れた部屋の中で発されたそれは――その場にいた一人にのみ、聞き届けられていた。
背後に立つそれへと男が首を回す。窓から差し込む日差しを受けた亜麻色の髪が金に輝く。
「契約は継続中だ。君には俺の手駒として活躍してもらう。ギルドの一員として精々動いてもらうぞ、リトルレディ」
返事はない。窓際に佇む人影は、口を噤んだまま微動だにしなかった。