『共犯者』



「あなたを守ることができて、良かった」

 山のように盛られた土を平らにした後、死体が埋まっていた地面を見下ろし、力強く踏みつけながら彼はそう言った。
 いつも穏やかな彼が珍しく苛立っている様子を見て「……疲れた?」と尋ねると

「……それなりに。そんな事よりも食事の約束をした過去の自分に苛立っています。……あの男、最近話が長いんですよ」

 と言って携帯を確認し「レストランの予約は取れたみたい。下山しよう。待たせると後が怖い」と私に手を差し伸べる。
 ゆっくりとその手を取ると優しく握られ、二人で歩調を合わせて車へと向かう。
 
 すっかり暗くなってしまった山の中は、月明かりが頼りなく目の前を照らすだけで歩き辛かった。
 イソップは何度も「気を付けて」「ゆっくり歩いて」と私を気遣って、時折握った手に力を込めたりして……まるで死体を埋めた帰りなんて思えない程、穏やかだった。
 
「これから先は、一人で泣く事は無いですね」

 イソップは突然そう言い、私の握っていた手に指を絡める。
 その横顔は穏やかで、優しげでいつも通りのイソップだった。

「……知ってたの?」
「知ってたから、葬るべきだと思った。……僕の慰めなんかじゃ、根本的な解決に至れないと考えていたから」

 その言葉を聞いて、私は考える──私が辛かった時、彼に優しい言葉をかけてもらっていたらどうしただろうか。
 ……きっと彼に心配をかけさせた事を恥じて、また取り繕ってしまうだろう。そう考えると、彼の考えはもっともだろう。

 問題の根本的解決にその人物を殺める事を選ぶ私達は、きっと似た物同士だ。

「……でも、言われた言葉って、死ぬまで消えないから。たまに思い出して泣いちゃうかも知れない。……ごめんね」

 私は冗談めかして笑ってみる。
 これは本心だけれど、何となくこれ以上彼に私の暗い部分をそのまま背負わせるのは何となく嫌だったのだ。
 出来るだけ明るく、これからの私の背負うであろう罪を仄めかす。
 恋人に良いところを見せたい、なんてエゴが死体の処理をした後にも死んでいなかったことが何だかおかしかった。
 そんな私の心を知ってか、イソップは私の頬を抓り呆れたような声で私の名を呼ぶ。

 「……僕らは、恋人で、共犯者ですから。貴女の悲しみも苦しみも罪も、僕に分け与えてください。貴女の側に、出来るだけ長い間いたいので」
 
 『共犯者』……なんて甘美な響きだろうか。

 少し照れたように『私の側にいたい』と言った彼に「……プロポーズみたいだね、その言葉」と言うと「……その、本心だから。……プロポーズはまた、日を改めて……」と返され、私は思わず胸が高鳴る。

 ……ああ、死体を埋めた夜でも、君がこんなに愛おしい。
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