『共犯者』



 車は人気のない山道を通る。
 車は奥へ奥へと進み、周りの景色はゆっくりと暗くなっていく。
 彼が運転する助手席で『この後ろに、死体が眠っている』と意識し、胸が苦しくなる。

 今、もしこの罪が誰かに暴かれたら──彼や、あの男性の事を庇っても、遅いのだ。
 私はどうなっても良い、だから今この瞬間だけは誰にも見つかりたくない。そう心の中で強く願う。

「……さっきの男ですけど」

 イソップはそう切り出して、ウィンカーを右に出す。
「う、うん。さっき……この車に乗ってきた、あの人だよね」

 私がそう言うと「ええ」と短く答え、少し間を置いて「あの男は、納棺師なんです」と続ける。

「納棺師……」
「小さな葬儀屋なので、納棺以外の仕事もしていますが、かなりの腕利きで……この街で死んだ人間の殆どはあの男が見送って来たんです」
「そう、なんだね……」

 納棺師、その言葉をゆっくりと反芻する。
 何処か聞き覚えがあるはずなのに、どこで聞いたのか、誰から聞いたのか全く思い出せないまま彼は話を続ける。

「彼は、僕の叔父で、僕も彼と同じ納棺師を志しているんです」
「叔父さん、なんだ。通りで似てるね」
「……似てる?」
「うん、喋り方とか目付きとか、纏ってる雰囲気とかも」

 私がそう言うと少し口籠もり、フロントミラーに目を向けてゆっくりと口を開く。

「──育ての、親なので」
「……それなら似るのも当然だね」

 なんと返したら良いのか、少し悩んで私は当たり障りないであろう言葉を紡ぐ。

「叔父さん、落ち着いてて大人の男性って感じだね。イソップも似てる……。彼よりは穏やかで優しいと思うけれど」
 私がそう言うと彼は少し不思議そうな顔をした。
「そうかな。あの人はなかなか激情家で、僕が幼い頃は──」

 そして、彼は昔、彼の叔父──名前をジェイと言うらしい──が学校で他生徒との間に不和を起こし、孤立していたイソップをほったらかしにしていた教師に怒りを露わにして怒鳴りつけ、その後イソップを学校から連れ出した事や、その後家庭教師をつけ厳しく自分を躾けた事を話した。

 その語り口からは少々苛立ちの様な物を感じたけれど、その目は何処か穏やかで、彼はきっと叔父の事をきちんと尊敬しているのだろうなという事が見て取れた。

「……ジェイさん。イソップの事、大切にしてるんだね」
「……感謝はしている。あの人が僕に与えた影響は大きい。……だけど僕はあんな風に怒鳴る様な男にはなりたくない。もっと穏やかであろうと、心掛けているから」

 イソップは、もう十分に穏やかで、優しい人だと思うけれど──そう言おうとした矢先、車がゆっくりと止まる。

「着きました。……もう少しで終わります。……あの人を待たせるのは面倒なので、手早く済ませましょう」

 車が止まった先は本当に、人が立ち入らないであろう山奥で……人為的に掘り起こされたであろう土が、山のように高く盛られていた。

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