『共犯者』
「……それでは、いち、に、さんで担架に乗せてください」
彼はそう言って小さな声で合図をする。私は合図通り死体を持ち上げ、担架に移動させる。
「……そのまま担架を持ち上げて、此方へ」
彼の言う通りに担架に手を伸ばしゆっくりと運ぶ、人一人の重さ──それに死体故に力が抜けている分、少々重みも増している為か、私は額に汗をかいてしまっていた。
何しろ夕方とはいえ今日は真夏日で──何をしていなくとも汗をかいてしまうのだ。
しかし彼は平然とした様子でずんずんと目の前を歩いて行く、袖の長いシャツに汗が薄っすらと浮かんでいるだけで、呼吸も乱れないままだった。
「──止まって」
彼がそう言って足を止めたので、私も驚いてピタリと歩みを止める。
目の前には……私の父より少し年上だろうか、車を止め、じっと此方を見る男性がいた。男性は「酷いな」とだけ呟いて、イソップの方へ向き直った。
「ありがとうございます。此処から先は僕と彼女で処理します」
「ああ、その子が──」
男性は再び私をじっと見つめ、ゆっくりと瞬きをしてイソップに向き直る。
「僕の恋人です。後で紹介します」
「そうしてくれ、なら私は他の物を処理しておこう」
「既に現場の血痕は清掃済みですが、薬品の匂いが少し残ってしまっているかもしれません。その処理と……」
突然目の前に現れた男性に私の事を恋人だと紹介し、現場や、その他の処理を頼む彼に私は驚きつつもゆっくりと理解する。
この男性は、きっと彼の親族なのだろう。落ち着いた語り口や、やや冷たげに見える視線。無駄の無い会話。何処も彼に似ていて──
「それじゃあ、また後で」
ある程度話し終えたのか、彼はそう言って私に目配せをする。
男性はイソップの担架を持った手にねじ込む様に車の鍵を渡し、手袋をしっかりと嵌め直した後、何やら大きな鞄を持ち上げて私達が来た道の方向を向く。
「ああ、終わったら家に戻れ。……夕食は彼女と取るのか?」
男性がそう尋ねるとイソップは少し考え込んだ後に
「貴方さえ良ければ三人で」
と返す。
その言葉を聞いた男性はまたゆっくりと瞬きをして、そして一度年季の入った腕時計に目を向け、ゆったりとした口調で答える。
「構わない。なら近場のレストランを予約しておこう」
「……随分と、気が利きますね」
男性はじっとイソップを見つめ、目を細めた後
「お前がそんな風に大切にするなんて、ただの恋人じゃないんだろう。興味があるんだよ」
と返す。その言葉にイソップは息を呑み、そして目の前の男性と同じ様にゆっくりと瞬きをして、いつも以上に穏やかな声で
「……そう、ですね。この世で一番、大切な人ですよ」
と答える。
その横顔は本当に穏やかで、まるで先程血痕を消す為に真剣な面持ちで床を磨き、今この瞬間も死体を運んでいる最中とは思えない程に美しくて──、私にはそれが、少し恐ろしかった。