『女の子おるって言ってなくてごめん。』

「別にええよ。」

『俺は嫌やった。』

「何で治が嫌なん。」

私がフフッと笑っても、治は目も合わせずただ前に進んでいく。

『ほんまに知らんかってん、最初は野郎だけの予定やったし。』

俺彼女おる言うてたんにとブツブツ続ける。

「まあ、そういう時もあるよな。でも心配してへんよ。」

店を出てからずっと同じペースで歩き続けていた治がようやく歩みを止めこちらに体を向けた。

『ほんまに言うてるん？気にしないとか、心配してないとかちゃうくて〇〇ちゃんは嫌じゃないん？』

その時初めて気付いた。今にも治が泣きそうなことに。
何で治がそんな顔するん。

「…そんなん、嫌に決まってるやろ。彼氏が知らん可愛い女と飲んでて何が楽しいん。」

ようやく言えた。
自分でも気付かんかったけど、私嫌やったんや。

『もっとそう言ってくれや。俺ばっかりお前のこと好きなんちゃうんかってたまに不安になんねん。』

治の口から普段絶対に出てこない言葉がたくさん降ってきて、顔が緩みそうになるのを必死に抑える。

『今日な、みんなに〇〇ちゃんのこと見せつけたかってん。俺の彼女かわいいやろって。こんな時間でも迎えに来てくれるんやでって。』

「おん。」

『でも風呂入った後に呼んだのはごめん。』

「んーん。」

『今日いた女の子ん中で誰よりも〇〇ちゃんがかわいかった。』

「スッピンでも？」

『当たり前やろ。お前のスッピン綾瀬はるかより上やで。』

「炎上するから絶対SNSで言うなよ。」

アッハッハと大笑いしながらまた家の方向に向かって歩き始める。

「治が思てるより私、治のこと大好きよ。」

『アカン。なあ、チューしてええ？』

返事をする間もなく私の口に治の柔らかい唇が触れる。

『…俺今日酔ってるわ。』

そういうことにしといたるわ。