次の言葉を間違えないように、冷静になるために、一度目を閉じて深く深呼吸をする。



覚悟を決めて目を開けると、数秒前までキッチンにいた侑が隣に座って私の顔をまじまじと見ていた。

「…っわ、近。」

ふふっと笑いながら
『なんやねん。この距離今まで150億回くらいあるやろ。』
『…久しぶりやね。』


これ以上何か言ったら泣いてしまいそうで、私はただ頷くことしかできなかった。
『俺は寂しかったよ。〇〇ちゃんちゃんもそう思ってると思ってたけど、違うん？』

その言葉を聞いた瞬間、私はぽろぽろと涙が止まらなくなった。
一瞬目を丸くしてビックリした侑は、すぐに目の前でガハハハと大笑いし始めた。

『えー！〇〇ちゃんちゃん何で泣くん？え、そんな寂しかったん？なん、えー！』

私が泣くことがよっぽど珍しいからか、いつまでたっても侑の驚き笑いが止まらないらしい。

『こんなんまだ今夏やのに明日雪降って隕石落ちてきてサムがピザ屋開くで！』

大笑いしながら訳のわからない例えをひとしきり言い終えた後に、ようやく落ち着いた侑が言った。

『２か月も会えなかったのはごめんて。でもしゃーないやん。〇〇ちゃんちゃんも寂しいとか言わんから平気なんやと思ってた。何か俺だけ寂しい言うのも癪やからスカしてしもた。』

「…きっしょ『キショってなんやねんどつくぞ』」

「会えないのはしゃーない。我慢できる。でもな、そこじゃないねん。もっと会えない間もなんか、誠意を見せろっつってんの。」

『なんやそれ。パワハラ上司か。』

思わず２人とも笑みがこぼれる。

そうそう、この感じ。この空気感。幸せな、楽しい、この人とだけの空間。

「機嫌悪くてごめん。寂しかったがゆえの悪態。」

『素直か。まあ普段ならデコピン５００回の刑やけど、今日はしゃーなし、許したるわ。』

ウシシッと少年みたいに笑った侑は私の前髪を雑に上へあげ、おでこにキスをする。

『好きやで。喧嘩しても、上手に気持ち伝えれん時も、そこだけは勘違いせんといてな。』

「…おう。」
照れてぶっきらぼうな返ししかできない。

『あとはー、何。なんて言うんやろ。会えない時に会いたいって言われたからって会えるわけやないけど、寂しい気持ちはぶつけてもらって全然ええよ。言うだけタダやから。あんま、俺とのことで我慢せんでほしい。』

まあ、会えないもんは会えませんけどねー！って少年みたいな笑顔で言った後、あー腹減ったーと言いながらキッチンに戻る彼の後ろ姿は少し照れていた。



侑の精一杯の優しさであり、愛。今はわかるよ。
好きだけじゃやっていけないからこそ、これからも一緒に過ごしていくことを覚悟してくれている不器用な彼なりの愛情。私の彼氏、最高やろ？ってみんなに自慢したくなるけど、今はまだ自分の心だけに留めておこう。