このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

【SAO/キリト】幸村 紗英/ユエ

「つよくなりたい」

※既にアニメ化されているシーンなのでネタバレはありません。

※Twitterに投稿したSSです。

【舞台:SAO】


 クラインと別れた直後の事だった。一歩を踏み出した路地の先で、壁に背を預けた少女がひとり座り込んで震えていた。金に近い茶髪を背中まで伸ばし、耳の上から細い三つ編みがカチューシャのように巻きつけられている。初期装備のすこし長い袖に隠された白く細い指でぎゅっと自分の身を抱きしめていた。

 触れたら消えるかもしれない、そんな儚さに心を打たれたのだろう。

「……どうしたんだ」
 いつもの俺ならこんなことはしない。自分からコンタクトを取る事なんかほとんど無かった。しかし、どうやら俺は今にも光に溶けて消えてしまいそうなこの少女を放って一歩を踏み出せるほど薄情では無かったらしい。

 俺の声にそっと頭を持ち上げた少女の顔が光に照らされ、先程よりはっきりと見えるようになる。日陰に隠れて濃紅に見えた瞳は、端正なカッティングが施されたルビーのような赤。淡い光を反射して金髪に見えそうな柔らかな髪。

「……寂しいの」
「寂しい?」
「初対面のあなたに話すことじゃないかもしれないけど……両親が凄くいい人でね、もう会えないのかなって思うと悲しくなってきちゃって。きっと皆そうなんだよねって思ってた」
 潤んだルビーを半分ほど長い睫毛に隠して、彼女は零すようにそう言った。座り込んでいる彼女と目線を合わせるべく屈む。ぱちりと視線がぶつかった。

「あなたにはいるの?」
「え?」
「会いたい人だよ、現実に置いてきちゃった人」
 ―――現実に置いてきちゃった人、という彼女の表現が痛ましかった。
脳裏に映るのは妹や両親の顔。血が繋がっていないと知ったのは四年程前だったか。

「いるよ。妹とか両親とか、な」
「そう……。いいご家族なんだね」
 彼女は空を仰ぎ見た。建物と建物の隙間から見えるのは正確には空ではなく二層の底面なのだが、どうしてかそのルビーに映るのは本物の高い空のように思えた。

「私、帰らなきゃいけないの。現実に帰りたいの。強くなりたいの」
「……」
「あなたは強いよ。私みたいに泣かずに、前へ進もうとしてる」
―――だから、付いて行ってもいいかな。
 俺ともう一度目を合わせたルビーから、先程とはまるで違う固い決意が見えた気がした。


 思えばこの時から、惹かれていたのかもしれない。
2/5ページ
スキ