15.台無しティータイム
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「謙信様、どうぞ」
「あぁ…」
自分の部屋で、〇〇から湯呑みを受け取り口をつける。
「本来飲み物は酒だけで良いのだが…。〇〇が淹れた茶は、時々飲みたくなるな」
そう言いながら〇〇を見つめると、〇〇は頬をほのかに染めながら微笑んだ。
良い表情だ。
この上なく優越な気分になり、二口目の茶を口に含んだ。
「佐助くんや幸村も、良く褒めてくれるんです」
…何?
そう言った後で、しまった…と言わんばかりの顔で固まっている〇〇を後目に、俺はその場に立ち上がり、〇〇を見下ろしながら言った。
「佐助や幸村…。お前は、あいつらにも茶を淹れてやっているのか?」
「え、えぇと…」
「どうなのだ、〇〇」
「…はい、時々」
その瞬間、自分の中で黒い感情が湧き上がるのを感じる。
〇〇は悪くない、それは十二分に分かっている。
だが、止められない。
「け、謙信様っ!」
〇〇の腕を引き、立ち上がらせた。
そして強く抱きしめる。
「謙信様…お茶が」
「あぁ、こぼれてしまったな」
「畳が…早く拭かないと」
「後で良い」
「…っ」
回した腕に少しばかり力を込める。
俺の腕の中で強ばっている華奢な身体は、その瞬間ビクッと揺れた。
「〇〇」
「はい…。あの、謙信様」
「何だ」
「く、るしい…です」
「そうか」
だが、俺の心もとてつもなく苦しい。
〇〇の全ては俺のものだ。
例え、それが…
「茶の一滴だとしても、だ」
そう呟き、俺は腕の力を緩めた。
驚いて見上げた〇〇の瞳は揺れていた。
その瞳を見つめたまま、唇を奪う。
「…んっ!け、んしん、さま」
一度唇を離し、そのまま触れる程の距離で問い詰める。
「〇〇、お前はその手で、今まで何人の男に茶を淹れてやったのだ。あぁ、お前は安土で茶屋にいたな。つまり、相当な人数に茶を淹れていたわけか」
「謙信様…。何で…」
「愛しているからだ、〇〇。お前は俺のものだ」
「分かっています…。でも…」
〇〇の声は震えている。
…また、泣かせてしまった。
「…っ。所用を思い出した。俺は行く」
「えっ?あの、待って下さい謙信様!」
このまま此処にいては、おかしくなってしまう。
かろうじて残る俺の理性が、そう警鐘を鳴らす。
どうすれば良い?
どうすれば〇〇を泣かせずに済む?
俺には、分からない…。
畳に転がっている湯呑みを眺めながら、俺は頭の中でそんな事を自問自答していた。
そして、そのまま部屋を後にした。
「謙信様っ!私は謙信様を愛しています!私の心にいるのは謙信様だけです!だから、心配しないで!」
部屋の中から、そう叫ぶ〇〇の声が聞こえる。
その声に一瞬足を止めたが、そのまま振り返らず、長く続く廊下をひたすらに歩き続けた。
End*2019.11.28
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