とある月の記憶
…さて、※※※※回目の月が生まれ、たった今 目を覚ましたようだ。
隠れて見ていた死はそれを確認すると、静かに月の背後へと現れた。
そして生まれたばかりの真っ白なその存在へと、優しく声をかける。
「大丈夫かい?」
振り返った月に微笑みながら近寄っていく。
こうすることで、月からはいつもの言葉が返ってくるだろう。
記憶が一切ない月からの、いつもの…
「死。そこにいたか」
「……?」
…おや?
その月は、いつもと違う言葉を死に返したのだ。
それに言葉だけではなく、死が『死』であることも知っているようだった。
「? …死?」
一体どうしたものかと死が首を傾げていると、月も同じように首を傾げていた。
生まれたばかりの月にはいつも決まって「誰だ」と言われていたが、こんなことは初めてだった。
それに、目の前の月を見てみると、生まれたばかりの頃の空っぽの目もしていない。
その月色の目には、しっかりと死の姿が映っていた。
…色々と違う点を照らし合わせた結果、
「……ああ」
ある考えに至り、死は声を漏らした。
答え合わせをするために、目の前の月へと問いかける。
「…おはよう。月よ。眠る前のことは覚えているかい?」
「眠る前……確か、死の帰りを待っていて、その時に酷い眠気を感じて、横になって…死と話している時に眠ってしまったような。合っているか?」
月の親しげな口調もあり、やはり死の予想は当たっていたようだ。
…この月は、これまでに終わりを迎えた月のどれかが転生したものだ、と。死はそう推測した。
月という不思議な存在には、稀にそんなことも起こるようだ。
命が尽きた月にまた会えるというのは喜ばしいことだが、しかしそれには大きな問題もついてくる。
「…ああ。お前がそう覚えているなら、そうなのだろう」
この月は一体どの月なのだろう、という問題だ。
死はこれまでに、※※※※回ほど月の終わりを見届け、そしてその度に生まれ変わった月と接してきた。
中には突然変異で生まれてきた個体もいたが、その月だけが特殊だっただけで、他の月たちはいつもと同じ無知で大人しい月だったのだ。数も膨大であるため、正直、ほとんど見分けがつかない。少しの違いと言ったら、ジュースの味の好みくらいか。
連れて行く場所もまったく同じではつまらないと思い、それぞれの月を連れてそれぞれ違うところへと遊びに行ったりもしたのだ。この月はこの場所へ連れて行った、あの月はあの場所へ連れて行った、なんていちいち覚えていない。
はてさて、どうしたものか。
…悩んでいる死を見ていた月だが、さすが人生二週目といったところか。
「……そうか」
死の事情を察してか深く詮索してくることはなく、短くそう呟いただけだった。
それからしばらく経った頃のことだ。
死は月にこう声をかけられた。
「死。前に城の中で遊んだ遊びを覚えているか?あれをまたやりたい」
純粋な遊びの誘いだったが、死にとってその遊びを推理することは難儀なことだった。
確かに、月を城へと連れて行ったことは何度かあった。…一つの城へ、とは限らないが。
今 死と月が身を置いている国にある城の他に、和の国の城や、死が作り出した幻想の城にも連れて行ったことがあるのだ。
それぞれの城でそれぞれ違う遊びをした記憶がある。
例えば、
「ふむ……宝探し、か?」
中世に栄えていた城で行 った遊びだ。その時は確か、昔の通貨か何かを見つけた気がする。だから宝探しは成功だった。
死は探るようにそうたずねた。…しかし。
「宝探し…?」
……月の反応を見るに、どうやら違っていたようだ。
死はしまった、と思いつつも、次の候補の名を挙げる。
「いや…演劇だったかな?」
和の国の城で、殿と姫になりきって月と茶番劇を繰り広げたこともあったのだ。
ちなみに配役は死が殿で月が姫である。死の色気たっぷりの「よいではないか」という言葉に、月はコロッと落ちていた。その時の月はまだ若かった気がする。
死はにこりと微笑んでそうたずねたが、
「演劇…?死、それは一体…」
月の反応はよろしくなかった。
二連続で間違えてしまい、死は悩ましげに「ふぅむ…」と息を吐いた。
そんな死に月が困惑の表情を見せていたが、ならば、と次に名を挙げた遊びが
「…追いかけっこ、かな?」
「ああ…それだ」
どうやら正解だったようだ。
死が作り出した城へと連れて行き、広い城内で追いかけっこをしたことがあったのだ。逃げる死を月が追いかけていたのだが、最終的には飽きた死が月に告げることなく勝手にその遊びを終了させた、というものだった。
ようやく当たりを引き抜いた死がお望み通りに追いかけっこをしようと月に伝えようとしたが、月は何やら考え事をしているようだった。
「どうした?月よ」
「…ああ…いや、今回はいい。また今度にでも」
「…そうか」
月はそう言うと、歩いてどこかへと行ってしまったのだった。
「……」
ひとり残された死だが、なんとなく月の考えていることは想像できた。
少しだけ不信感を抱きながらも、死は役目で疲れているのかもしれないと思い、体力を使う追いかけっこは今はしないでいようといった感じか。
長い間 死が育て上げた月は、そのような気遣いができる男へと成長していたのだ。
ちょっとばかし不信感を抱いたのも事実かもしれないが、しかし今回のことで月が死に愛想を尽かすこともおそらくないだろう。
だって今の月は人生二週目、死も認めるいい男なのだから。
遊びのお誘いに上手く答えられなかったことを申し訳なく思いつつ、死はこれからのあの月との付き合いにも頭を悩ますことになるだろう。
城の中で追いかけっこをした月だと知ることはできたが、その月と一年間 何をしたのかはほとんど覚えていないのだ。
一体全体、この年はどうなることやら。
隠れて見ていた死はそれを確認すると、静かに月の背後へと現れた。
そして生まれたばかりの真っ白なその存在へと、優しく声をかける。
「大丈夫かい?」
振り返った月に微笑みながら近寄っていく。
こうすることで、月からはいつもの言葉が返ってくるだろう。
記憶が一切ない月からの、いつもの…
「死。そこにいたか」
「……?」
…おや?
その月は、いつもと違う言葉を死に返したのだ。
それに言葉だけではなく、死が『死』であることも知っているようだった。
「? …死?」
一体どうしたものかと死が首を傾げていると、月も同じように首を傾げていた。
生まれたばかりの月にはいつも決まって「誰だ」と言われていたが、こんなことは初めてだった。
それに、目の前の月を見てみると、生まれたばかりの頃の空っぽの目もしていない。
その月色の目には、しっかりと死の姿が映っていた。
…色々と違う点を照らし合わせた結果、
「……ああ」
ある考えに至り、死は声を漏らした。
答え合わせをするために、目の前の月へと問いかける。
「…おはよう。月よ。眠る前のことは覚えているかい?」
「眠る前……確か、死の帰りを待っていて、その時に酷い眠気を感じて、横になって…死と話している時に眠ってしまったような。合っているか?」
月の親しげな口調もあり、やはり死の予想は当たっていたようだ。
…この月は、これまでに終わりを迎えた月のどれかが転生したものだ、と。死はそう推測した。
月という不思議な存在には、稀にそんなことも起こるようだ。
命が尽きた月にまた会えるというのは喜ばしいことだが、しかしそれには大きな問題もついてくる。
「…ああ。お前がそう覚えているなら、そうなのだろう」
この月は一体どの月なのだろう、という問題だ。
死はこれまでに、※※※※回ほど月の終わりを見届け、そしてその度に生まれ変わった月と接してきた。
中には突然変異で生まれてきた個体もいたが、その月だけが特殊だっただけで、他の月たちはいつもと同じ無知で大人しい月だったのだ。数も膨大であるため、正直、ほとんど見分けがつかない。少しの違いと言ったら、ジュースの味の好みくらいか。
連れて行く場所もまったく同じではつまらないと思い、それぞれの月を連れてそれぞれ違うところへと遊びに行ったりもしたのだ。この月はこの場所へ連れて行った、あの月はあの場所へ連れて行った、なんていちいち覚えていない。
はてさて、どうしたものか。
…悩んでいる死を見ていた月だが、さすが人生二週目といったところか。
「……そうか」
死の事情を察してか深く詮索してくることはなく、短くそう呟いただけだった。
それからしばらく経った頃のことだ。
死は月にこう声をかけられた。
「死。前に城の中で遊んだ遊びを覚えているか?あれをまたやりたい」
純粋な遊びの誘いだったが、死にとってその遊びを推理することは難儀なことだった。
確かに、月を城へと連れて行ったことは何度かあった。…一つの城へ、とは限らないが。
今 死と月が身を置いている国にある城の他に、和の国の城や、死が作り出した幻想の城にも連れて行ったことがあるのだ。
それぞれの城でそれぞれ違う遊びをした記憶がある。
例えば、
「ふむ……宝探し、か?」
中世に栄えていた城で
死は探るようにそうたずねた。…しかし。
「宝探し…?」
……月の反応を見るに、どうやら違っていたようだ。
死はしまった、と思いつつも、次の候補の名を挙げる。
「いや…演劇だったかな?」
和の国の城で、殿と姫になりきって月と茶番劇を繰り広げたこともあったのだ。
ちなみに配役は死が殿で月が姫である。死の色気たっぷりの「よいではないか」という言葉に、月はコロッと落ちていた。その時の月はまだ若かった気がする。
死はにこりと微笑んでそうたずねたが、
「演劇…?死、それは一体…」
月の反応はよろしくなかった。
二連続で間違えてしまい、死は悩ましげに「ふぅむ…」と息を吐いた。
そんな死に月が困惑の表情を見せていたが、ならば、と次に名を挙げた遊びが
「…追いかけっこ、かな?」
「ああ…それだ」
どうやら正解だったようだ。
死が作り出した城へと連れて行き、広い城内で追いかけっこをしたことがあったのだ。逃げる死を月が追いかけていたのだが、最終的には飽きた死が月に告げることなく勝手にその遊びを終了させた、というものだった。
ようやく当たりを引き抜いた死がお望み通りに追いかけっこをしようと月に伝えようとしたが、月は何やら考え事をしているようだった。
「どうした?月よ」
「…ああ…いや、今回はいい。また今度にでも」
「…そうか」
月はそう言うと、歩いてどこかへと行ってしまったのだった。
「……」
ひとり残された死だが、なんとなく月の考えていることは想像できた。
少しだけ不信感を抱きながらも、死は役目で疲れているのかもしれないと思い、体力を使う追いかけっこは今はしないでいようといった感じか。
長い間 死が育て上げた月は、そのような気遣いができる男へと成長していたのだ。
ちょっとばかし不信感を抱いたのも事実かもしれないが、しかし今回のことで月が死に愛想を尽かすこともおそらくないだろう。
だって今の月は人生二週目、死も認めるいい男なのだから。
遊びのお誘いに上手く答えられなかったことを申し訳なく思いつつ、死はこれからのあの月との付き合いにも頭を悩ますことになるだろう。
城の中で追いかけっこをした月だと知ることはできたが、その月と一年間 何をしたのかはほとんど覚えていないのだ。
一体全体、この年はどうなることやら。
2/2ページ
