怪物
「王の容態は!?」
「不届き者はどんな姿だった!」
翌日の朝。
王が昨夜 何者かに襲われたとの知らせを聞いた者達は、宮殿へと帰ってきてすぐに彼へと詰め寄った。
「…刃物による傷を負って意識がない。犯人はフードで顔を隠していてよく見えなかった」
彼は冷静にそう説明した。
「ああ、なんてお痛ましい…」
「…しかし、よくぞ王の命を救ってくれた。お前が真っ先に王の元へと駆け出したと聞いたぞ」
「…ああ。王の悲鳴を聞いて一大事だと思い。犯人の姿も捉えて追いかけようとしたが、王の命を守るのが最優先だと判断したのだ」
彼は嘘の証言をさも真実のように述べた。本当は不届き者なんておらず、王を刺したのも彼自身である。昨夜、宮殿にいた者達もその真実を知っているが、誰ひとり口出ししてくる者はいなかった。彼にとっては都合がいいことに違いないが、しかし人が襲われて生死の境にいるのを知らん顔して沈黙を貫く者達にどこか不気味さを感じた。それほどあの王がみなの目の敵にされていたというわけだが。
「正しい判断だ。犯人はどうせ他国の奴か愚民だろう。おい!昨夜、怪しい動きをした者がいないか徹底的に調べるぞ!見つけ次第 磔にしてやる!!」
「ああ!!」
王の護衛もせずにパーティーを楽しんでいた奴らはそう意気込んでいた。世界中どこを探したって見つかりはしない架空の不届き者をこれから血眼になって捜すことだろう。
腐った連中を宮殿から払いのけることには成功した。しばらくはその無意味な犯人捜しに没頭するはずだ。
王も今は命を取り留めてはいるが、あれの看病役の従者も真実を知っている者だ。意識が戻る前に毒を盛られて殺害されることだろう。
偽りの不届き者に偽りの死因。すべてが嘘にまみれて、真実は明るみに出ることなく永遠に闇に葬られるだろうと彼は思った。まるでこの国の裏側の世界のように。
……さて、王の悲劇を嘆くふりはこれくらいにして、本題に移ろう。
「少しいいか。みなに聞いてほしいことがある」
彼がそう切り出すと、従者や同族達は彼へと視線を移した。中にはこれから話す内容をすでに知っている者もいるが、その者達も黙って彼の言葉を待っていた。彼はゆっくりと見回して、全員の目が自分に向いていることを確認してから口を開いた。
「王があのようなことになってしまい、私もお前達も酷く心を痛めている。…しかし、いつまでも悲しんでばかりはいられない。国民に不安を与えないためにも。……それで」
彼は凜とした顔と声で、こう提案した。
「王が目覚めるまでの間、王の代理として私にその役目を担わせてほしい」
「何…お前が?」
ざわ…と騒ぎ出したのは、昨夜 パーティーを楽しんでいた奴ばかりだった。彼らは王のしもべだ。王座にいるべきは王だけだと考えているのか、それとも彼ではなく自分が王の代理となりたいのか、はたまた違う思惑があるのか、彼の提案に異議を唱え始める。
「王の役目の代理なんて聞いたことがない。確かにお前は王の血を継ぐ血縁者だが、本当に代理として我らや国民をまとめ上げることができるのか?」
「王 直々に宣言してくださらないと、悪いが私はお前には従えない」
「争いも激しくなっている今、まだ頼りないお前を仮でも王座に居座らせるわけには…」
そんな声が飛び交う中、真実を知る者達からも声が上がる。
「しかし、王が今生きておられるのは王子のおかげです。昨夜は誰一人として王の護衛にはついていなかった。王子がいなければ、王は確実にお亡くなりになっていたでしょう」
「ええ、本当に。王子が宮殿にいてくださって本当によかった。私達だけならどうしようもなかったですから」
「俺も昨夜は宮殿にいたというのに、不甲斐ない。…なあどうだ。少しばかり、彼に王の代理としてその座についてもらわないか?」
彼を褒め称えるそんな言葉が多数上がり、連中は言い返す言葉がないのか黙り込んだ。…心強い助力ではあるが、すべてが本心ではないことを知っているため、やはり少しだけ不気味に感じた。
「……それはそうだが…」
連中は納得いかないように顔を見合わせていたが、昨夜の件もあり渋々 彼の提案に頷いた。その心中は穏やかではなさそうだが。彼もそのことに気付いていたが、いちいち考えを正すよう説得するつもりもない。今は形だけでも王座につければ、後は自然と彼が王の立場に定着するのだから。
「みな、ありがとう。必ず王の代わりを務めてみせよう」
彼はそう宣言したのだった。
これまでの王の真似事ではなく、本来の王としての役目を果たそうと心中で誓いながら。
「不届き者はどんな姿だった!」
翌日の朝。
王が昨夜 何者かに襲われたとの知らせを聞いた者達は、宮殿へと帰ってきてすぐに彼へと詰め寄った。
「…刃物による傷を負って意識がない。犯人はフードで顔を隠していてよく見えなかった」
彼は冷静にそう説明した。
「ああ、なんてお痛ましい…」
「…しかし、よくぞ王の命を救ってくれた。お前が真っ先に王の元へと駆け出したと聞いたぞ」
「…ああ。王の悲鳴を聞いて一大事だと思い。犯人の姿も捉えて追いかけようとしたが、王の命を守るのが最優先だと判断したのだ」
彼は嘘の証言をさも真実のように述べた。本当は不届き者なんておらず、王を刺したのも彼自身である。昨夜、宮殿にいた者達もその真実を知っているが、誰ひとり口出ししてくる者はいなかった。彼にとっては都合がいいことに違いないが、しかし人が襲われて生死の境にいるのを知らん顔して沈黙を貫く者達にどこか不気味さを感じた。それほどあの王がみなの目の敵にされていたというわけだが。
「正しい判断だ。犯人はどうせ他国の奴か愚民だろう。おい!昨夜、怪しい動きをした者がいないか徹底的に調べるぞ!見つけ次第 磔にしてやる!!」
「ああ!!」
王の護衛もせずにパーティーを楽しんでいた奴らはそう意気込んでいた。世界中どこを探したって見つかりはしない架空の不届き者をこれから血眼になって捜すことだろう。
腐った連中を宮殿から払いのけることには成功した。しばらくはその無意味な犯人捜しに没頭するはずだ。
王も今は命を取り留めてはいるが、あれの看病役の従者も真実を知っている者だ。意識が戻る前に毒を盛られて殺害されることだろう。
偽りの不届き者に偽りの死因。すべてが嘘にまみれて、真実は明るみに出ることなく永遠に闇に葬られるだろうと彼は思った。まるでこの国の裏側の世界のように。
……さて、王の悲劇を嘆くふりはこれくらいにして、本題に移ろう。
「少しいいか。みなに聞いてほしいことがある」
彼がそう切り出すと、従者や同族達は彼へと視線を移した。中にはこれから話す内容をすでに知っている者もいるが、その者達も黙って彼の言葉を待っていた。彼はゆっくりと見回して、全員の目が自分に向いていることを確認してから口を開いた。
「王があのようなことになってしまい、私もお前達も酷く心を痛めている。…しかし、いつまでも悲しんでばかりはいられない。国民に不安を与えないためにも。……それで」
彼は凜とした顔と声で、こう提案した。
「王が目覚めるまでの間、王の代理として私にその役目を担わせてほしい」
「何…お前が?」
ざわ…と騒ぎ出したのは、昨夜 パーティーを楽しんでいた奴ばかりだった。彼らは王のしもべだ。王座にいるべきは王だけだと考えているのか、それとも彼ではなく自分が王の代理となりたいのか、はたまた違う思惑があるのか、彼の提案に異議を唱え始める。
「王の役目の代理なんて聞いたことがない。確かにお前は王の血を継ぐ血縁者だが、本当に代理として我らや国民をまとめ上げることができるのか?」
「王 直々に宣言してくださらないと、悪いが私はお前には従えない」
「争いも激しくなっている今、まだ頼りないお前を仮でも王座に居座らせるわけには…」
そんな声が飛び交う中、真実を知る者達からも声が上がる。
「しかし、王が今生きておられるのは王子のおかげです。昨夜は誰一人として王の護衛にはついていなかった。王子がいなければ、王は確実にお亡くなりになっていたでしょう」
「ええ、本当に。王子が宮殿にいてくださって本当によかった。私達だけならどうしようもなかったですから」
「俺も昨夜は宮殿にいたというのに、不甲斐ない。…なあどうだ。少しばかり、彼に王の代理としてその座についてもらわないか?」
彼を褒め称えるそんな言葉が多数上がり、連中は言い返す言葉がないのか黙り込んだ。…心強い助力ではあるが、すべてが本心ではないことを知っているため、やはり少しだけ不気味に感じた。
「……それはそうだが…」
連中は納得いかないように顔を見合わせていたが、昨夜の件もあり渋々 彼の提案に頷いた。その心中は穏やかではなさそうだが。彼もそのことに気付いていたが、いちいち考えを正すよう説得するつもりもない。今は形だけでも王座につければ、後は自然と彼が王の立場に定着するのだから。
「みな、ありがとう。必ず王の代わりを務めてみせよう」
彼はそう宣言したのだった。
これまでの王の真似事ではなく、本来の王としての役目を果たそうと心中で誓いながら。
