怪物
…それからひと月後のことだ。
「話とはなんだ?」
夜。彼は現在の王である父親を宮殿の外に呼び出した。
「……」
その姿を目で捉えると、彼はまっすぐに見つめて凜とした声で王に告げた。
「…率直に言う。私に王権を譲ってほしい」
「── なんだと?」
父親は彼を睨み付けた。
二人の間に、ピリッとした空気が走る。
どちらも目を逸らすことなく、鋭い視線をお互いに向けていた。
「私ももう成人だ。だから私に譲ってくれと言ったのだ。もう充分 その座を謳歌しただろう」
「貴様…何の話かと思えば、王の座を譲れだと?不躾にもほどがあるぞ」
実の親子とは思えないほどの険悪な雰囲気に辺りは包まれていた。彼も、父親も、今のこの状況に納得できていない。
彼にとっては想定通りだ。父親が今の王の座を簡単に手渡すとははなから思わなかった。…だからこうして夜に一人呼び出したわけだ。
聞く耳を持たない父親の前で、彼は腰に差しているハンティングソードのヒルトに手をかけた。元々は狩猟に使う剣であるから、その刃は肉を断つのも容易な鋭さだ。
周りには誰もおらず二人きり。武器を持っている彼と丸腰の父親。その状況で奪い合っている国の王の座。優位な立場にいる彼のちょっとした動作も脅しに値するものだった。
彼はカチャ…とわざと音を立てて少し引き抜き、ギラリと光る刃を見せた。すると父親は身構え、顔に筋を浮かせて彼をまくし立てた。
「なんて卑怯な奴だ!汚い手でその高貴な剣に触れるな!お前はもう我ら貴族の人間ではない!あの乞食で薄汚い愚民共と同じだ!!」
国を統べる王とは到底思えない言葉に、彼は呆れのような感情を覚えた。
追い詰められた人間というのは本性が出るものだ。国民の嘆きを見て見ぬふりしているどころか、まるでドブネズミのような汚い存在として見ていたらしい。なんて愚かで傲慢なことか。
やはり "これ" には国を任せてはおけない。
「本来は私達がコインを与える側だろう。子である私にも分かることだ」
彼は剣をするりと引き抜き、切っ先を父親に向けた。彼の顔には戸惑いも興奮もない。ただただ冷たく "敵" を見ていた。その冷酷な目に本気で命の危険を感じた父親は、引きつった顔で声を張り上げる。
「誰か!誰か!!助けてくれ!!」
闇夜の中 そんな助けを求める声が響いたが、彼は非情に告げた。
「無駄だ。今夜、お前の味方は宮殿にいない」
「な、なんだと…?」
「…腐った奴らは全員、今頃パーティーを楽しんでいるはずだ。王がこんな目に合っているとは知らず」
彼がジリ…と近付くと、父親も震える足で後ろへと下がる。まるで獣に追い詰められているかのようだ。彼は感情のない声で話を続ける。
「…宮殿にいる奴らにはこう伝えてある。『もし今夜、外で王の叫び声が聞こえても聞こえないふりをしろ』と」
現に今、外へと駆け出てくる者はいなかった。
彼がひと月の間であぶり出した「王への反感がある者」しか、今夜は宮殿にいないのだ。つまり父親にとっては四面楚歌の状態だ。助けてくれる救世主はいない。その事実を突きつけられた父親は顔面蒼白でまた後ろに下がろうとしたが、震える足が絡まってしまいその場に尻もちをついた。
「あ、待て…待ってくれ…っ!命だけは、命だけは助けてくれ…!」
無様に命乞いをしている父親を見下ろし、彼は「…ああ」と頷いた。
「……私も自身の手を血で汚したくはない。それに今 死んでもらっては困る。…宮殿に侵入した不届き者を追い払って王の命だけは救った、と腐った奴らに説明しなければならないからな」
殺すことはできないが、彼は殺すつもりで父親の胸に剣を突き刺したのだった。
「話とはなんだ?」
夜。彼は現在の王である父親を宮殿の外に呼び出した。
「……」
その姿を目で捉えると、彼はまっすぐに見つめて凜とした声で王に告げた。
「…率直に言う。私に王権を譲ってほしい」
「── なんだと?」
父親は彼を睨み付けた。
二人の間に、ピリッとした空気が走る。
どちらも目を逸らすことなく、鋭い視線をお互いに向けていた。
「私ももう成人だ。だから私に譲ってくれと言ったのだ。もう充分 その座を謳歌しただろう」
「貴様…何の話かと思えば、王の座を譲れだと?不躾にもほどがあるぞ」
実の親子とは思えないほどの険悪な雰囲気に辺りは包まれていた。彼も、父親も、今のこの状況に納得できていない。
彼にとっては想定通りだ。父親が今の王の座を簡単に手渡すとははなから思わなかった。…だからこうして夜に一人呼び出したわけだ。
聞く耳を持たない父親の前で、彼は腰に差しているハンティングソードのヒルトに手をかけた。元々は狩猟に使う剣であるから、その刃は肉を断つのも容易な鋭さだ。
周りには誰もおらず二人きり。武器を持っている彼と丸腰の父親。その状況で奪い合っている国の王の座。優位な立場にいる彼のちょっとした動作も脅しに値するものだった。
彼はカチャ…とわざと音を立てて少し引き抜き、ギラリと光る刃を見せた。すると父親は身構え、顔に筋を浮かせて彼をまくし立てた。
「なんて卑怯な奴だ!汚い手でその高貴な剣に触れるな!お前はもう我ら貴族の人間ではない!あの乞食で薄汚い愚民共と同じだ!!」
国を統べる王とは到底思えない言葉に、彼は呆れのような感情を覚えた。
追い詰められた人間というのは本性が出るものだ。国民の嘆きを見て見ぬふりしているどころか、まるでドブネズミのような汚い存在として見ていたらしい。なんて愚かで傲慢なことか。
やはり "これ" には国を任せてはおけない。
「本来は私達がコインを与える側だろう。子である私にも分かることだ」
彼は剣をするりと引き抜き、切っ先を父親に向けた。彼の顔には戸惑いも興奮もない。ただただ冷たく "敵" を見ていた。その冷酷な目に本気で命の危険を感じた父親は、引きつった顔で声を張り上げる。
「誰か!誰か!!助けてくれ!!」
闇夜の中 そんな助けを求める声が響いたが、彼は非情に告げた。
「無駄だ。今夜、お前の味方は宮殿にいない」
「な、なんだと…?」
「…腐った奴らは全員、今頃パーティーを楽しんでいるはずだ。王がこんな目に合っているとは知らず」
彼がジリ…と近付くと、父親も震える足で後ろへと下がる。まるで獣に追い詰められているかのようだ。彼は感情のない声で話を続ける。
「…宮殿にいる奴らにはこう伝えてある。『もし今夜、外で王の叫び声が聞こえても聞こえないふりをしろ』と」
現に今、外へと駆け出てくる者はいなかった。
彼がひと月の間であぶり出した「王への反感がある者」しか、今夜は宮殿にいないのだ。つまり父親にとっては四面楚歌の状態だ。助けてくれる救世主はいない。その事実を突きつけられた父親は顔面蒼白でまた後ろに下がろうとしたが、震える足が絡まってしまいその場に尻もちをついた。
「あ、待て…待ってくれ…っ!命だけは、命だけは助けてくれ…!」
無様に命乞いをしている父親を見下ろし、彼は「…ああ」と頷いた。
「……私も自身の手を血で汚したくはない。それに今 死んでもらっては困る。…宮殿に侵入した不届き者を追い払って王の命だけは救った、と腐った奴らに説明しなければならないからな」
殺すことはできないが、彼は殺すつもりで父親の胸に剣を突き刺したのだった。
