怪物

design

この国は素晴らしい国である。
豊かな自然、荘厳な建物、優れた芸術、美しい料理、そして品位のある人柄。どれをとっても他の国にはない華やかさだ。
まさに世界の中心へとなるべき国だ。
この国を作り上げた我らが、きっと今よりももっと素晴らしい世界を作っていくことだろう。

…と、この国の貴族共は信じて疑わないらしい。

「……」

同じく貴族の身分であるその少年は、そんな言葉を掲げる同族達に冷たい目を向けていた。



……ここはなんだか息が詰まる。
まだ幼い彼は、宮殿を出て街へと足を運んでいた。
すれ違う街の人々は、貴族である彼に見向きもせずに通り過ぎる。それもそのはず、彼は高級な身なりと整えられた髪を隠すようにローブを身に纏っているのだから。このみすぼらしい格好のほうが自由に動き回れるのだ。
特に行く当てもなく、彼はただ歩き続ける。同族達が作ったという " 素晴らしい国 " を。

「…ああ…領主様に多く納めてしまったから、もう少ししかお金が……」

「やめろ。領主様を悪く言うんじゃない…あの方達のおかげで、私達はこの土地に住めているんだ。不満なんて言える立場じゃない…」

平民が苦んでいる事実なんてないとでも言うような、作り物の素晴らしい国を。

「……」

彼は平民達のそんな会話を耳にしたが、足を止めずに歩き続ける。何か思うことはあっても、残念ながら今の小さな彼にはどうすることもできないのだ。
それに…金を持っている平民はまだマシなほうだ。
彼はチラリと路地裏へと視線を向ける。

「…うぅ…うぅ~…」

…そこには、地面に倒れ込んで唸っている、痩せ細った人間なのか動物なのかすぐには判別できない存在。……五本の骨、すなわち指が見えることから、おそらく人間なのだろう。

「……、」

彼はローブの下で ぎゅっ…と拳を握りしめる。
…助けてあげたいとは思う。しかし…

「うぅ、うぅ……」

「あぁ…はぁ…はぁ…」

「…かぁさ…ん…」

……路地裏に身を潜めているその存在は、一人だけではないのだ。
やはり彼にはどうすることもできなかった。

…自分だって、同族達と同じで見て見ぬふりをしている。
そんな己に、彼は酷く嫌悪感を抱く。

「……は」

自嘲するように息を吐くと、彼は足早にその場を離れるのだった。

あの路地裏の声を聞いていると、より己が醜い存在になる気がして。
1/10ページ
スキ