おおかみと一緒!

あるあたたかい日のことだ。
狼憑きと赤ずきんは、食料集めをするために森へと入っていた。赤ずきんは道中で山菜やきのこを採ってはバスケットの中へと仕舞い込みながら、森の奥へと進む狼憑きの後ろをちょこちょことついて行く。狼憑きは振り返りはしないものの、赤ずきんがちゃんとついてきているかは耳で確認していた。その距離が少し空くと、心なしか狼憑きの歩く速度がゆっくりになっているのは気のせいだろうか。

「あっ きのこ!…はっ!ここにもある!!」

そんな赤ずきんの声を聞きながら、狼憑きは前へと進んでいた。

しばらく歩いていると、大きな木々がそびえ立つ場所へとたどり着いた。木の枝葉の隙間から陽の光が差し込んでおり、緑と白の美しい光景が辺りに広がっていた。
狼憑きにはなんてことのないただの木漏れ日だったが、感性豊かな赤ずきんはその美しさに感嘆の声を漏らしていた。

「わあ…!すっごく綺麗…!」

一段と開けた箇所からは、まるでスポットライトのように光が降り注いでいた。赤ずきんはそこへぱたぱた走って行くと、ほわ…とした表情を浮かべて日光浴をしていた。

「おおかみ!ここ、ぽかぽかとしててあったかいよ。おおかみもおいでよ!」

いいことは共有したいのだろう。赤ずきんは狼憑きも呼んでいた。

「……」

特に断る理由もないため、狼憑きは赤ずきんの元へと歩いていった。
……近くまで来ると、上から降り注ぐ光に照らされ、赤ずきんの姿はよりいっそう輝いて見えていた。

「あ~気持ちい~。おおかみもほら!」

朗らかな笑顔で手を伸ばしてくる赤ずきんに、狼憑きは少しだけ目を細めた。…手を取らずに不思議な表情でじっと見てくる狼憑きに、赤ずきんは首を傾げる。

「どうしたの?」

ぱちぱち瞬きをしていると、狼憑きは静かに口を開いた。

「…お前は時々、妙に眩しい」

「え?」

狼憑きはそれだけ言うと、赤ずきんの手を取ることも陽の光に当たることもしなかったが、赤ずきんのそばでしばし休息を取っていたのだった。



少ししてから、二人はまた森の中を歩き始めた。

「あっ きのこ!…ああ、でも、もういっぱい採りすぎちゃったな」

赤ずきんが抱えているバスケットの中には、すでに山菜やきのこがたっぷりと入っている。これだけでも今夜のご飯には充分だった。この森は食材の宝庫であるため、片道だけでもバスケットいっぱいの食材が手に入るほどだ。しかし採りすぎるのも良くないと思い、これ以上は何も採らないようにしようと赤ずきんは決めたのだった。ずっしりと重みのあるバスケットを抱え直し、狼憑きの後へと続いた。

一方 狼憑きは、料理に添えるだけの山の恵みではなく、メインディッシュとなる肉、つまりは野生動物を探していた。赤ずきんの声や足音を確認しながらも、野生動物が発する音も聞き逃さないよう周囲に注意を向けて歩いていく。いざという時は嗅覚による追跡も可能なため、遠くにいるのを見つけるだけでもこちらに勝算はあった。のんびりと森を散策している赤ずきんとは反対に、狼憑きは狩りの本能がうずいていた。

「……、」

…すると、ちょうどいいところに、少し離れた先に鹿がいるのを発見した。それも、二匹。一匹は大きく、もう一匹はまだ小さい。大きいほうには角がないため、親子の鹿だと推測できた。

「? ……あっ」

狼憑きがじっと目で捕らえていたからか、赤ずきんも鹿の親子の存在に気付いたようで小さく声を出した。狼憑きの目の鋭さで、あの鹿のどちらか、または両方とも狩ろうとしていることを察したようだ。
あれらはまだ二人の存在には気付いていないようだった。それに子供のほうはまだ逃げることにも慣れておらず、体力も少ないだろう。持久戦になれば、容易に狩ることができると狼憑きは踏んだのだ。

「お前はここにいろ」

狼憑きはそれだけ伝えて鹿の親子に近付こうとしていたが、赤ずきんは困惑した表情で狼憑きと鹿の親子を交互に見ていた。

「……っおおかみ、待って…」

やがて意を決したように、赤ずきんは狼憑きのローブの裾を掴んだ。小さな声と共にわずかに裾を引っ張られたことで、狼憑きはその場で動きを止めて後ろを振り返る。

「…なんだ」

若干 不機嫌そうな表情を見せているが、赤ずきんを力任せに振り切ることはしなかった。引き留めた赤ずきんは申し訳なさそうに目を伏せるが、すぐに狼憑きをまっすぐに見上げた。

「…あの鹿の親子、とっても幸せそうに見えるんだ。だから…今はそっとしておいてあげたいな、と思って…」

「……」

…赤ずきんの言葉を聞いて、狼憑きは再び鹿の親子へと視線を向けた。

「……はあ」

「…おおかみ…」

「…行かないから手を離せ」

狼憑きが呆れたようにそう言うと、赤ずきんはぱあっと表情を和らげた。
せっかく見つけた獲物であったが、少し観察した後 それらにくるりと背を向けると、二人はその場からそっと立ち去ったのだった。




「ごめんね、おおかみ。ただのきのこスープになっちゃって…」

鍋のスープを木べらでかき混ぜている赤ずきんは、心底申し訳なさそうに狼憑きへとそう告げた。
結局あの後、他の野生動物に出会うことなく日が暮れ始めたため、二人は狩りをせずに小屋へと戻ってきたのだ。本日の収穫は、赤ずきんが採ってきた山菜やきのこのみである。赤ずきんはその材料を使って、今夜のご飯であるきのこスープを作っていた。
自分があの鹿の親子の狩りを反対したがゆえに狼憑きには物足りなさそうな質素な食事になってしまい、大好きな料理の最中でも赤ずきんの口数は少なめだった。
無口な狼憑きは、そんな赤ずきんに慰めの言葉をかけることも文句を言うこともなく、

「…別に」

それだけ言うと、鍋の中でぐるぐるとかき混ぜられているきのこたちを見ていた。
素っ気ない言い方ではあったが、しかしそれは「大して気にしていない」とも取れる いい意味で抑揚のない声でもあった。

「…ふふ。よかった。ありがとう、おおかみ」

狼憑きの優しさとあたたかさを感じ、赤ずきんはふんわりと微笑んだ。…狼憑きが、またわずかに目を細めたことには気付いていないだろう。

「……あ、そろそろ大丈夫かな」

赤ずきんは鍋に視線を移すと、かき混ぜていた手を止めた。どうやら完成したようだ。近くに用意していた木の器にスープをたっぷり装うと、先に狼憑きへと手渡す。

「はい!たくさんあるから、いっぱい食べてね!」

今日はきのこを大量に収穫したため、鍋の中にはおかわりがたくさんあった。赤ずきんが自分の分を装っても、まだまだきのこで溢れていて底は見えない。
そんなきのこの大群を少しずつ平らげつつ、二人は今日の森での出来事を話していた。

「あの鹿の赤ちゃん、可愛かったね!まだ生まれたばかりなのかも。でも、あんなに小さいのに、もう自分で歩けるってすごいよね」

ほわぁ…と頬を緩めながら、赤ずきんは森で出会った子鹿を思い浮かべていた。狼憑きにはただの小さな肉としか思わないが、目の前で花を飛ばしている赤ずきんにそれを言うことはなかった。

「お母さんの鹿も赤ちゃんをずっと見つめてて、すっごくあったかい気持ちになったんだ。本当に幸せそうだったなあ。……それで…」

…最後にぽつりと呟いた赤ずきんの言葉は、狼憑きの耳にも届いていた。
そして、少しだけ表情が曇ったことにも。

「…どうした」

きのこを口に運ぶのをいったん止めると、狼憑きは赤ずきんをじっと見つめた。赤ずきんは「あ、えっと…」とあせあせしながらも、少し考えた後に静かに口を開いた。

「…あの親子を見て思ったんだ。…おれにも、お父さんやお母さんはいたのかなあって」

赤ずきんは、寂しげに笑いながらそう告げた。

「…気付いたらあの小屋でひとり暮らしてたからさ、あんまり覚えてないんだ。お父さんとお母さんのこと」

「………」

…鹿の親子を見てほんわかとしていながらも、実は心の隅でそんなことを考えていたようだった。狼憑きが気にしなければ、赤ずきんは伝えることなくそれを心の内に秘めていたのかもしれない。
いつも太陽のように明るい赤ずきんだが、どこか儚さを感じる一面も垣間見えたのだった。

「……」

…狼憑きは何も言わずに、赤ずきんから目を逸らして手元のスープへと視線を移した。赤ずきんも食事中に辛気な話はよそうと思ったのか、「あはは…ごめんねっ」と苦笑いを浮かべながら、小さな口にきのこを放り込んでいた。
空気を重くしてしまったかと、赤ずきんが申し訳なさそうに表情を歪めていると、狼憑きはスープから視線を動かさずに無表情で喋り出した。

「…お前に親がいたかどうかは知らない」

「…うん」

ぶっきらぼうな声と言葉に、赤ずきんはしょんぼりとしながら相槌を打った。
…おおかみの言う通りだ。急にそんなこと言われたって困るだろう。
赤ずきんがまたしても謝ろうとすると、狼憑きが先に言葉を続けた。

「…だが」

「…?」

「…少なくとも、お前がこれから一人で生きていく必要はない」

「…え、」

狼憑きは赤ずきんをじっと見つめて、静かに告げた。


「お前には、私がいる」


…赤ずきんが大きく目を見開くと、狼憑きはすぐにまたスープへと視線を落とし、何事もなかったかのように食事を再開し始めた。

「…おおかみ……」

赤ずきんは、胸の奥がぎゅっとした。
これからも寄り添うと言ってくれた狼憑きの言葉が、とてもあたたかい。

「…えへへっ」

赤ずきんは今の気持ちが溢れ出たように、ふわっと笑顔を浮かべた。

「…ありがとう!おおかみ!」

いつものキラキラとした眩しい笑顔だ。
そんな赤ずきんを見て、狼憑きも「…それでいい」と呟いたのだった。


狼憑きと赤ずきんは、これからも一緒に生きていく。何があっても、ずっと。
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