狼憑きと赤ずきんの話

狼憑きと赤ずきんが出会って、はや三、四年が経とうとしていた。
この街で暮らし始めて一年半ほど。今までは色んな場所を転々としていたが、これほど長く同じ場所に居続けるのは珍しかった。狼憑きがもう数年は食人事件を起こしていないので、その場から早く逃げる必要もなくなったというのもある。あとは単純に、ここでの暮らしが快適だったからだ。起きて、赤ずきんが作った料理を食べて、赤ずきんのために金を稼いで、ベッドで眠る。たった数年前までの荒れた生活がまるで嘘のように、毎日穏やかな時間が流れていた。
これもすべて、赤ずきんと出会ったおかげである。

「ねえおおかみ、最近なんだか街が賑やかだね。何軒か新しいお店ができているのを見たよ」

件の赤ずきんは、出会った頃と変わらずに純真で和やかなままだ。
狼憑きは、そんな赤ずきんとの日々がとても心地よかった。

「俺、新しくできた大工さんのお店が気になるなぁ。オーブンの夢、まだ諦めてないからね!」

両手で握りこぶしを作った赤ずきんに、狼憑きはふっと笑った。

「壁に穴を開けてもらうつもりか」

「そうそう!なんだか面白そうじゃない?もう開けてもらっちゃおうよ!」

赤ずきんは冗談っぽく笑っていたが、その目はキラキラと輝いていた。

狼憑きは、赤ずきんの綺麗な笑顔や清らかな心が何よりも好きだった。

「お前、どうやって開けるのか知っているのか」

「え?ううん、知らない。どうやって開けるの?」

「…爆破だ」

「えっ!?そうなの!?」

まんまと嘘に騙されている赤ずきんに、思わず笑みがこぼれる。

この尊い日々が、いつまでも続いてほしいと狼憑きは心から願っていたのだった。
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