狼憑きと赤ずきんの話

ある日のことだ。

「…え!」

赤ずきんは驚いたような、だが少し嬉しそうな声を出した。
狼憑きがチラリと見てみると、赤ずきんも狼憑きへと顔を向けていた。その顔は口元に弧を描いている。そして上までボタンを留めきれていない赤ずきんは、興奮気味に狼憑きへと告げた。

「大変だ…!服がちょっときつくなってきちゃった!!」

そんな自身の成長を報告した赤ずきんに、狼憑きは大袈裟だと思いつつも聞き流すようなことはしなかった。
思えば赤ずきんと出会ってもう二年は経っていた。この二年で身長も伸び、食生活も大きく変わったのだ。初めて会った時から着続けている服が合わなくなってもおかしくない。よく見れば、服だけではなく赤ずきんの名の由来である赤いずきんも少し窮屈そうに見えていた。それに気付いた狼憑きはすっと立ち上がり、赤ずきんへと声をかけた。

「おい、出かけるぞ」

「え?」

これからまた寒くなっていくので、いい機会である。狼憑きは赤ずきんと共に、街の洋服店を見に行くことにしたのだった。


街で一番大きなその洋服店には、様々な種類の服が取り揃えられていた。サイズも多く、老若男女問わず誰にでも合う服が用意されているまさに最高級の店だ。赤ずきんは興味津々に服を見て回っていた。

「ねえねえ、おれに似合いそうな服はある?」

狼憑きへとそうたずねると、狼憑きはしばし考えてから口を開いた。

「お前は赤ずきんだ。最もよく似合うのはやはり赤いずきんだろう」

「やっぱり!おれの特徴と言ったら赤いずきんだよね」

赤ずきんは今着ている物よりも大きめの赤いずきんを手に取った。今後また体が大きくなるかもしれないことを見越して、少し大きめのサイズを選んでいた。
後は適当にシャツでも選ぼうとしたところで、狼憑きが再び口を開いた。

「お前に暗い色は合わない。シャツは真っ白なものにしろ。お前の雪のような肌に合う」

「え?うん、分かった」

言われた通りにシンプルな白いシャツを手に取ると、隣の狼憑きから「…それと」との声がかかった。

「ジャラジャラと宝石をつけていてはお前の素朴さが薄れてしまうが、ちょっとした飾り程度なら邪魔にもならずいいと思う。このブローチはどうだ」

いつの間にかブローチを見繕っていた狼憑きは、赤ずきんに小さなブローチを見せた。それは赤ずきんの瞳のような美しい青色の宝石が埋め込まれたものだった。赤ずきんはそれを見て、嬉しそうな表情を浮かべる。

「これ、おおかみが選んでくれたの?!わー!嬉しい!!じゃあこれも買っちゃおうかなっ」

テンション高くブローチの購入も決めた赤ずきんに、狼憑きはさらに「…あと」と付け加えるのだった。

「これから寒くなる。綿の入った上着も買っておけ」

「分かった!」

その後も狼憑きのアドバイスの元、赤ずきんに合いそうな服やズボンを数着 選んだのだった。それなりの値段になり赤ずきんが「あ、えっと、やっぱり…」と断ろうとしていたが、狼憑きは有無を言わさずに密かに貯めていた金をつぎ込んで赤ずきんへとプレゼントしたのだった。


家へと帰り、赤ずきんはさっそく購入したシャツに袖を通すと、狼憑きが選んでくれたブローチを首元につけた。

「えへへっ どう?」

少し照れくさそうに狼憑きへと向き直る。狼憑きはじっ…と見た後に、小さく頷いた。

「似合っている」

「…えへへへ~……」

狼憑きからの素直な褒め言葉を貰うと、赤ずきんは赤くなった顔を隠すかのように、彼の特徴ともいえる赤いずきんを被ったのだった。
ちなみに、今日まで身に付けていた初代の赤いずきんも捨てることはせずに、棚の中へと大切に仕舞っておくことにしたようだ。
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