狼憑きと赤ずきんの話

それからも赤ずきんは、街中で仕事を見つけては小遣い稼ぎをしていた。念願のオーブンまでの道のりはまだまだ長く、それを手に入れるのももちろん楽しみなようだが、なにより仕事を達成して街の人たちが喜んでいる姿を見るのが嬉しいようだ。根っからのお人好しである。

狼憑きは、この間あった出来事を思い出していた。
赤ずきんと街の散策をしていた道中で、子供が一人、花売りをしていたのだ。抱えられたバスケットの中には、その辺で摘んだのであろう色とりどりの花がたくさん入っていた。道行く人に「お花はいりませんか?」と声をかけていたが、良くて丁寧に断られ、悪くて無視をされていた。そんな同い年か少し下くらいの子供を赤ずきんが放っておくことはできなかったのだろう。「おおかみのお金を使うわけにはいかない」と、今まで自分がおつかいで貯めてきた金をすべてその子供に渡そうとしていたのだ。その子供は身なりが整っていた上に大して痩せてもいなかったから、おそらく親か誰かに言われて花を売っているように思えた。実際 金には困っていないかもしれない。狼憑きは冷酷にもそう指摘したが、赤ずきんは「それでも構わない」と結局自分の小遣いを渡し、バスケットの中の花をすべて貰い受けたのだった。その子供は娘で、花を買ってくれた赤ずきんを前にして頬をりんごのように染めていた。熱い視線を向けられている赤ずきん本人は気付いていなかったが。ちなみにその時の花は家に置かれたバスケットの中で、今も元気に咲き続けている。

そんなこともあって、赤ずきんの小遣いは振り出しに戻ってしまったのだ。しかし赤ずきんは悲観することもなく、また最初から貯めていこうと仕事によりいっそう精を出しているのだった。
今の二人の稼ぎはおもに赤ずきんのおつかいと、狼憑きが森で採った山菜や魚の物売りである。余ったものは料理に使えるため、今のところ食料の問題は起きてなかった。なんだかんだで無欲なふたりは、赤ずきん希望の調理器具以外にはそれほど金もかけていなかった。用心に越したことはないので、きちんと貯金もしていっている。
地道だが確実に金は貯まっていっているので、あと何年かこの生活を続ければ、いずれは赤ずきんが欲しい調理器具もすべて揃いきるだろう。それが早いか遅いかだけの話だ。狼憑きにとってはどちらであろうと関係ないことではあるが…

「………」

…暇な時間があるのも事実だった。




「今必要なのは野生動物の肉かなあ。鹿とか兎とか、あと熊なんかがあれば高く買い取るよ!今の季節、動物らは冬に備えて体に栄養を蓄えてるから、肉質がすっごくいいんだ」

街のちょっとした高級レストランで今の需要を聞いた狼憑きは、狩りをするために早速森の奥へと入っていった。
いつもの散策コースで小さな物音すらも聞き逃さないよう、静寂の中 耳を澄ませて目をギラつかせる。

「……、」

すると、離れた場所に鹿の姿を発見した。警戒されて逃げられないように、息を殺してゆっくりと近付いていく。
ただ逃げられたとしても、嗅覚を使っての追跡は得意だ。持久戦はお手のものだった。
今日は何匹か狩るまでは帰らないつもりで森へと入ったのだ。まずはあの鹿一匹を逃がすまいと、狼憑きは野生の眼光で獲物をじっと見つめていたのだった。





「いやあ…こちらの予想としてはせいぜい頑張って一匹くらいだろうと思ってたよ…まさか半日で五匹も捕ってくるとは…」

午前に話をした料理人は、狼憑きがその後 日暮れまでに狩ってきた鹿や兎、猪などの獲物を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
狼憑きは得意げな顔もせずに、冷静に一言呟いた。

「熊には遭遇しなかったのが悔やまれる」

「熊も狙ってた!!猟銃も持ってないのに、兄ちゃん一体何者…?」

料理人はまじまじと狼憑きを見ていたが、「そんなことより早く報酬を渡せ」という顔で見てくる狼憑きに、ブハッと笑いがこみ上げてきたようだった。一笑いした後にいったん店の奥へと入っていくと、本日分の報酬を持ってきてきっちりと狼憑きへ手渡したのだった。

「はいよ。ご苦労さん」

「……」

その場で確認してみると、赤ずきんがあの花売りへと渡した金くらいはあるようだった。今日一日だけで取り返すことができたようだ。

「…ふむ。明日もこのくらいは貰えるのか」

「明日もやる気だ!!まあ、捕ってきてくれたらその分の報酬は渡すよ」

料理人から言質を取ると、狼憑きは明日も時間があれば森へと入るか、と密かに思ったのだった。



「あ、おおかみ、おかえり~。どこに行ってたの?」

「…森だ」

「ああ、いつもの食料集め?ありがとう~。助かるよ」

決まりが悪いのか、狼憑きは赤ずきんに本当のことは言わなかった。


そして翌日も、赤ずきんのために狩りをして金を稼いできたことは狼憑きだけの秘密である。
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