狼憑きと赤ずきんの話

その国には、怪物がいると恐れられていた。



「うわ…こりゃ酷いな…」

「ああ…間違いない。……『人喰い狼』の仕業だ」



喰い荒らされた遺体を前に、街のポリスたちはその怪物の名を口にした。


──人喰い狼。
昔から、村にも街にも出没し無差別に人を喰い殺すと言われている獣だ。数少ない目撃者の証言から、その姿は大きな狼のようだったと伝えられていた。
古い文献によると、その存在はなんと二百五十年以上も前から記録に残されており、そして現在に至るまでもこの人喰い狼による被害は後を絶たなかった。
普通の獣ならまず考えられない寿命であるため、人々の間では「人喰い狼は人間の味を覚え、親から子、子から孫へと代々 人間を襲って喰うよう伝え続けている」やら「街中では目立つであろう獣を目撃しないことから、人喰い狼の正体は人間に化けた狼男ではないか」やら「呪いで数百年生き続けている狼」などとたくさんの噂が囁かれていた。ほとんどがオカルトめいた説であるが、しかしそれほどこの人喰い狼という怪物は、数百年の間 足取りを掴むことも捕らえることもできなかったのだ。
狼は主に夜行性だと言われているため、人々は夕方と夜の時間は特に注意しながら怯えて生活をするしかなかった。

人喰い狼は神出鬼没だ。
どこに潜み、どこから人間を狙っているのか分からないのである。
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