…死は、自分に覆い被さって上からじっと見つめてくる存在を見つめ返していた。
死の左の頬に手が添えられ、唇を親指でそっと撫でられる。それで相手がキスを求めているのだと察した死は、受け入れるように口を開いた。死からの了承を得ると、相手はふにふにと親指で少し遊んだ後に、顔を近付けてその唇へちゅっと口づけた。はむはむ…と甘噛みをしてから口を離し、角度を変えてまた口づける。くぐもったふたつの声と小さなリップ音が、静かな無空間に響いていた。
しばらくの間キスを楽しむと、次に相手は下にある首へと視線を移した。フードのレースをずらして三つ編みに手を絡めて、隠れていた白い首筋をさらけ出す。そこに顔をうずめると、点々とついた薄紅色の痕の上に被せるようにキスを落としていった。

「…ん…んっ…」

ちゅう…と何度も吸い付かれ、時にはゆっくりと舐め上げられ、死はその気持ちよさに声が漏れる。首筋にキスの雨を降らせている相手をチラリと見るも、死の視界には白いフードしか広がっていなかった。
愛おしげに、何度も何度も死に愛を伝えているその存在。

「…ん」

──月は、死からの視線に気付いて顔を上げた。

「どうした」

「…いや、なんでも」

ただ見ていただけの死は素っ気なくそう言い放った。…すると月は、死の首筋にがぶりと噛み付く。

「んっ」

ちり…とした痛みと、少しだけの快楽を感じ、死の体はびくりと跳ねた。じと…と月に抗議の目を向けるも、本人は気にした様子もなく、また首筋へと顔をうずめて知らんぷりをしていた。

…死と月はもう長い付き合いだ。結構な時間を共にこの無空間で過ごしていた。だから今となっては、その親しさゆえに月が死にちょっとした悪戯や仕置きをすること、月が死を少し雑に扱うことは多々あることだった。
昔の「死に嫌なことをすれば嫌われる」と言葉も態度も控えめでびくびくとしていた月は一体どこへ行ったのか。現に今も、死の肌に牙を突き立て傷をつけていた。
…しかし、それはきっと長い付き合いの中で、死がちょっとやそっとのことでは簡単に傷つくことはない強くて大きな存在だと月も気付いたからだろう。死の冗談に冷ややかな目を向けることもあるが、しかしそれでも、死が困っている時はさりげなく助けてあげるほど、月は死のことをちゃんと大切に思っているのだ。そんな圧倒的彼氏力が備わっている今の月は、セックスでも死をガンガンと攻めていた。死に教えられた様々なテクニックで、愛おしい存在を絶頂へと導いていく。
黒衣装の前に手をかけ、月は死の胸元を晒した。現れたふたつの突起。誘うように淡く色づいているそれのひとつを、月は口へと含む。

「あっ…」

感じたそのあたたかさに死は ぞく…と背中が震え、体を仰け反らせた。月の目の前へとより胸を突き出す体勢となる。荒い呼吸に合わせて上下する胸は酷く扇情的だ。
月はすかさず死の背中へと手を回す。死が逃げられないように自分の方へと体を引き寄せると、片方を口で可愛がりながらもう片方のそれを指で弾いてきゅっと摘まみ上げた。

「あッ」

びくんっと体が動いて反射的に月を引き離そうと死が肩を押すも、快楽に支配された体ではまったく力が入らず、ぐ……ぐ……と弱々しく押し続けることしかできないようだ。死がそんな小さな抵抗をしている間も、月は気にすることなくふたつの突起を弄んでいた。
口に含んだそれを吸い上げ、舌で転がし、ぷっくりと膨らんでくると じっと観察してからまた舐め上げる。一方、片方は指でくりくりとこね回し、ぐっと押し潰し、その形や手触りを楽しんでいるかのようだった。

「はぁ…っん……ん…ッ」

好きに遊ばれて続けている死は、妖艶に体をくねらせながらゆらゆらと腰を揺らしていた。月から与えられる快楽に体は悦び、死のそれもだんだんと反応を見せている。…すでに月のは死の色にあてられ、挿入可能なほどに大きく成長していた。ズボン越しにずっと足に当たっていたから、死も気付いていたのだ。月だって死が物欲しそうに腰を揺らしていることに気付いていそうだが、それでもなお胸の飾りを可愛がり続けている。そんな月に、死はじれったさを感じた。
「早く欲しい」とねだるように、月のそれへと自身のそれを擦り付ける。

「…なぁ……」

甘い声色で、死は月を求めた。
月はチラリと死に視線を向けると、最後にじゅるっ…と強く吸い込んでから口を離した。その刺激で「んッ…」と声を出して体をびくびくと震わせた死を見下ろしながら、月は目をギラギラと光らせている。
死は熱を孕んだ目で妖艶に笑い、月を見上げた。その顔は、ようやく月のが貰えると、とても嬉しそうだ。

「…ふ」

そんな死を見て、月は静かに笑った。…昔、自分に男としての行為を教えてくれた相手が、今やこんな姿になって自分を求めている。それが、酷く興奮する。
カチャカチャとベルトを外してズボンをずらすと、完全に勃ち上がった月のそれが勢いよく外へと飛び出した。死の膝裏を両手で持ち、ぐいっと大きく開かせる。顔を出した小さな口に先をぴとりと当てると、それは頬張るようにパクパクとうごめき始めた。死は自ら中へと引き込むようにさらに腰を揺らすが、飲み込まれそうになると月は何故か腰を引いていた。死がむっとして月を見ると、月は顔をぐっと近付けた。

「…死」

「…?」

「…私にどうしてほしいのだ。言ってみろ」

「……ここにきて、まだじらすのか」

「ああ。早く。今の死に、理性なんてものは残っていないだろう?」

促すように、月は先だけを ぐちゅ…と死の中に埋め込んだ。
その熱い感覚とこれから与えられる快楽への期待に、死はとろん…と蕩けた顔を月へと見せた。

「…思いきりしてほしい おくまで、たくさん、気持ちよくして」

「…は」

死の言葉で腹の奥がぐ…と熱くなった月は、お望みどおりにその腰を強く打ち付けたのだ。

「あ"ぁ…ッ」

ゴッと一気に奥まで突かれ、死は背中に電流が流れたような強い刺激を感じた。体を大きく仰け反らせて、びくびくびくっと快感に震えている。そんな死を気遣う様子もなく、月はガンガンと腰を打ち付けていた。

「あッ ぁんッ」

止めろと言っても止めないであろう月は、夢中になって死を攻め続ける。ぐちゅっぐちゅっと激しい水音と死の嬌声が辺りに響いていた。何度も何度も月ので奥を突かれ、その目眩がするほどの強い力に死は屈服することしかできなかった。開いたままの足が疲れて閉じてくるが、月によって再び大きく開かせられる。今 主導権を握っているのは、間違いなく月のほうだった。
月は腰を動かしながら、下でぷるっ…ぷるっ…と小さく揺れている死のものを右手でぎゅっと握り込む。

「あ…ッ」

激しく突かれながら敏感なところを突然刺激され、死は大きく目を見開いた。月は握り込んだまま、律動に合わせて死のそれを上下に扱き始める。先からピュッ ピュッと白濁が飛び出る様を見て、楽しんでいるかのように口元に弧を描いていた。月は口元だけに笑みを浮かべたまま、口を開いた。

「これで一体どれだけの存在を支配してきたのかは知らないが、死がこれを使うことはもうない」

「んッ…ふふ…どうだろうね……昔のように、お前に使ってやってもいいが」

「できるものなら。死は私に支配されることのほうが好きだろう」

その言葉を証明するかのように月が一際強く突くと、死は媚びるような声で啼いた。
月は自身の大きな手で、死のなまめかしい身体をまさぐる。好き勝手されている死は、月の動きすべてに感じていた。
月は動きたい速さで動き、見たい部分を見て、触れたいものに触れ、弄くりたいところを弄くっている。
きっと最後は、出したい時に中へと出すのだろう。

「あぁッ はぁッ…は…っ ははッ…」

──しかし、月に蹂躙されている死は、酷く愉しそうに笑っていた。



……しばらくの間 同じ体位で抱き合っていたふたつだったが、ふと地面に寝転んで揺さぶられていた死が月に言った。

「っん……なぁ、上に乗りたい」

月に攻められ何度も絶頂を迎えた死だが、それでもまだ交わり足りないようだった。次は死の好きな体位でやりたいと言う。
同じく何度も死の中へと精を吐き出した月は、死からの言葉に戸惑うことも焦ることもなかった。

「…ん」

短くそれだけ言うと、寝転んでいる死の脇の下へと両手を差し込み、ぐっと力を入れて起き上がらせる。反対に自分はふっと後ろへと倒れ込んだ。慣れた一連の動きを見せた月。あっという間に、月の上に死が乗り上げている形勢逆転の体勢へと変わった。

「んんっ…」

もちろん挿れたままで体位を変えたため、上へと来た死は自身の重さでさらに奥へと月のを飲み込んでいった。中に溜まっていた白濁液が、隙間からだらだらと流れ出す感覚。そして月が徐々に中へと入ってくる気持ちよさに足腰が立たず、ただ月の上でぺたんと座っていることしかできないでいた。感じ入ってうつむいていた死の長い三つ編みが、下へだらんと垂れている。

「…はぁ…、」

少ししてから、死はゆっくりと月の腹の上に両手を置いた。腰を動かすために体を支えようとしているのだろう。

…しかし、その時

「…ッあ」

大きく喘いで、死はびくんっと体を跳ね上げた。下にいた月が、突然ぐんっと突き上げたのだ。

「はっ……あ…」

「…どうした?動かないのか?」

死がまだ動けないのを分かっていながら、月はわざとらしくたずねた。先ほどの突き上げも死への悪戯だったようだ。

「…ふふ…いじわる」

死は月を見下ろして妖艶に笑うと、ゆさっ…ゆさっ…と腰を動かし始めた。中に残っている液体が混ざり合ってじゅぼっじゅぼっと音を立てている。
死は上下に動かすだけでなく、ぐるりと円を描くようにも腰を動かしていた。自身のいいところを月へと擦り付けて快感を得ているようだ。
死は夢中になって月を求めていた。

「あっ あッ…」

「……」

そんな死を見て、月はいつかの日に死が教えてくれた言葉を思い出す。
つがい。大事な存在。

「はぁっ……月…ッ」

愛おしくて、たまらない存在。

「…死」

月は腕を伸ばして、死の頭の後ろに手を回した。そのまま自分のほうへと顔を引き寄せる。死も月に身を委ね、ゆっくりと体を倒していく。
そしてふたつは言葉を交わすことなく、唇と唇を重ねた。

「ん…」

「んん…」

触れるだけの優しいキスから、何度も口を離してはまた口づける貪欲なキス、さらには息を奪うかのような激しいキスを繰り返す。お互いキスで気持ちを伝え合っているかのようだ。
死は頭がふわふわとしながらも、もう何度目かも分からない絶頂を求めて腰を動かし続けていた。

「はぁッ…はぁッ…」

「……死、」

先ほどよりも余裕のない月の声。呼ばれた死は月へと視線を向けた。…死をまっすぐに見つめているその顔は、感極まったかのように今にも泣き出しそうだった。
表情が乏しいながらも、月も死との交わりにはいつも気持ちが昂っていたのだ。
黒いフード越しに、月は死の頭を優しく撫でる。

「…私の番は死だけだ。これから先も、ずっと」

「ふふ。…ああ」

月と死は最後にもう一度だけ口づけを交わした後に、その瞬間を共に迎えようとしていた。
ラストスパートをかけるように、月は死の腰を両手で掴んで、下から強く突き上げる。死は体を大きく仰け反らせて、びくびくと震えた。

「あぁっ……出 る…ッ」

もう限界のようだ。…同じく月も、熱いものが勢いよくこみ上げてくる。

「く…ッ」

そして月が小さく唸ったのを合図に、ふたつは同時にそれぞれのものからドバッと精を吐き出したのだった。
…やがてすべて出しきると、死は脱力し月のほうへと倒れ込む。呼吸の乱れた死を抱きとめると、月は背中へと腕を回して愛おしげに死を抱きしめた。散々 死の中に欲を吐き出したため、勢いに押し出された月のそれがぬぽ…と外へと顔を出す。蓋がなくなった穴からは、ドロドロと白い液体が流れ出てきていた。
倒れ込んだまま眠りについてしまいそうな死の額へと、月はそっとキスを送った。すると魔法にでもかかったかのように、死は月を残して すぅ…と眠りに落ちたのだった。
昔の月ならこんな時どうすればいいのか分からず何もできなかったが、できる男へと成長した今の月は、死の安眠を邪魔することなくひとりでスマートに事後処理を終わらせるのだった。
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