月と「死」の話
翌日。もうすぐ昼に差し掛かる時間に、月はベッドの中で目を覚ました。もぞもぞと布団の中から這い出ると、洗面所へと向かって顔をパシャパシャと洗った。その後 冷蔵庫の中から水を取り出し、またパソコンと向かい合う。ずっとパソコンの光を目に浴びているが、月の目が悪くなったことは今まで一度もなかった。
そんなことよりも今は材料集めである。ペットボトルの水を口に含んでから、月は再びネットを彷徨い始めた。食べ物、動物、機械……さまざまなジャンルを見て回るが、やはりピンとくるものはなかった。そうしているうちに、一時間、二時間、と時間は過ぎていった。またネットサーフィンをしていただけである。
時刻はすでに昼の一時を過ぎていた。何か腹に入れておこうと、月は椅子から立ち上がってキッチンへと向かった。あまり料理はしないため、適当に冷凍食品を取り出すと電子レンジで温めた。ホカホカと湯気が立っているそれを冷ましている間、近くにあったスマホを手に取って適当にニュースを眺めていた。
『大往生 世界最高齢の女性が老衰で死去』
そんな見出しが目に入った月は、ぴた…と画面をスクロールする手を止めた。
「……」
じー…と見つめる月。彼が見ているのは、「死」という文字だ。
…死。誰しもに平等に訪れるもの。それは人間だけではない。動物、虫、さらにいえば植物にも。生物すべてに降りかかり、そして抗えないものだ。
月は考えるかのように目を閉じた。
「………」
そして、少ししてからゆっくりと開いた。その目はじっと「死」の文字を捉えていた。
どうやら彼は決めたらしい。
今回の作品のテーマは「死」にしよう、と。
ダークな話もたまにはいい。そう思い立った月の行動は早かった。いい感じに冷めた冷凍食品をもぐもぐと食すと、歯磨きをしてから自室へと向かった。パソコンの前の椅子に腰かけ、まずは「死」へと考えを巡らせる。
「死」とは未知の存在だ。実際に経験した者はこの世にはいないわけだから、ある意味存在しないものでもある。でも、人々は本能的に「死」というものを恐れている。それはきっと、近しい者や親しみのある者の「死」を見てきたからだろう。その「死」を経験した者たちは、今どんな場所でどんなことをしているのか。それが分からないのも、人々の不安をかき立てるのだろう。しかし案外あちらの居心地はいいのかもしれない。皮肉のようだが、あの世へ逝った者は誰ひとりここには帰ってこないのだから。
月は頭の中でぐるぐると「死」について考えていた。自由に解釈はできるのだが、本当のところは何も分からない。経験者の話もない。そこが「死」の難しくも面白いところだった。
「……」
そこで月は視点を変えてみることにした。
もしも「死」が人の姿をしていたなら、どんな見た目でどんな喋り方をしているだろう、といういわゆる擬人化である。
「死」という恐れられる存在…力でいえば男。しかし、天寿を全うした者を静かに穏やかに迎えに来るという印象では…女。いや、そのイメージも人によって違うだろう。「死」という存在は性別を決めるのも難儀であった。そもそも性別すらないのかもしれない。となると、見た目も喋り方も簡単には決められなかった。まだ月の中で「死」に対してのイメージができていないせいもある。
ここまで考えてみて、月は「死」にいっそう興味を抱いた。自分の中でこれから形作られていく「死」の姿を見てみたいと思った。ちっとも掴めそうにない「死」を、自分は捉えることはできるのだろうか。
月は理想の「死」を追い求めるために、自分の空想の世界へと浸っていった。
そんなことよりも今は材料集めである。ペットボトルの水を口に含んでから、月は再びネットを彷徨い始めた。食べ物、動物、機械……さまざまなジャンルを見て回るが、やはりピンとくるものはなかった。そうしているうちに、一時間、二時間、と時間は過ぎていった。またネットサーフィンをしていただけである。
時刻はすでに昼の一時を過ぎていた。何か腹に入れておこうと、月は椅子から立ち上がってキッチンへと向かった。あまり料理はしないため、適当に冷凍食品を取り出すと電子レンジで温めた。ホカホカと湯気が立っているそれを冷ましている間、近くにあったスマホを手に取って適当にニュースを眺めていた。
『大往生 世界最高齢の女性が老衰で死去』
そんな見出しが目に入った月は、ぴた…と画面をスクロールする手を止めた。
「……」
じー…と見つめる月。彼が見ているのは、「死」という文字だ。
…死。誰しもに平等に訪れるもの。それは人間だけではない。動物、虫、さらにいえば植物にも。生物すべてに降りかかり、そして抗えないものだ。
月は考えるかのように目を閉じた。
「………」
そして、少ししてからゆっくりと開いた。その目はじっと「死」の文字を捉えていた。
どうやら彼は決めたらしい。
今回の作品のテーマは「死」にしよう、と。
ダークな話もたまにはいい。そう思い立った月の行動は早かった。いい感じに冷めた冷凍食品をもぐもぐと食すと、歯磨きをしてから自室へと向かった。パソコンの前の椅子に腰かけ、まずは「死」へと考えを巡らせる。
「死」とは未知の存在だ。実際に経験した者はこの世にはいないわけだから、ある意味存在しないものでもある。でも、人々は本能的に「死」というものを恐れている。それはきっと、近しい者や親しみのある者の「死」を見てきたからだろう。その「死」を経験した者たちは、今どんな場所でどんなことをしているのか。それが分からないのも、人々の不安をかき立てるのだろう。しかし案外あちらの居心地はいいのかもしれない。皮肉のようだが、あの世へ逝った者は誰ひとりここには帰ってこないのだから。
月は頭の中でぐるぐると「死」について考えていた。自由に解釈はできるのだが、本当のところは何も分からない。経験者の話もない。そこが「死」の難しくも面白いところだった。
「……」
そこで月は視点を変えてみることにした。
もしも「死」が人の姿をしていたなら、どんな見た目でどんな喋り方をしているだろう、といういわゆる擬人化である。
「死」という恐れられる存在…力でいえば男。しかし、天寿を全うした者を静かに穏やかに迎えに来るという印象では…女。いや、そのイメージも人によって違うだろう。「死」という存在は性別を決めるのも難儀であった。そもそも性別すらないのかもしれない。となると、見た目も喋り方も簡単には決められなかった。まだ月の中で「死」に対してのイメージができていないせいもある。
ここまで考えてみて、月は「死」にいっそう興味を抱いた。自分の中でこれから形作られていく「死」の姿を見てみたいと思った。ちっとも掴めそうにない「死」を、自分は捉えることはできるのだろうか。
月は理想の「死」を追い求めるために、自分の空想の世界へと浸っていった。