死にお持ち帰りされた花婿と月が穴兄弟になる話3

ある日の昼下がり。花婿は窓から、外に見える葡萄畑を眺めていた。

「……」

遠くまで連なっている緑の木々に、たくさんの小さな粒が実っている。もう収穫してもいい頃合いだった。…しかし、本物そっくりに見えるそれも、所詮は死が作り上げた幻だ。外にも出られないため、あの偽物の葡萄畑にも瑞々しいいい匂いが漂っているのかどうかすらも分からなかった。

果実畑を見ていると、生前 花嫁に語った自身の夢を思い出す。
花嫁との間にたくさんの子供を授かり、その子供たちと一緒に畑を広げていくという夢だ。生前いたあの土地の土は痩せていたが、自分や子供たちみんなで耕せば、もっと一面の果実畑を作ることだってできたはずだった。力仕事は男の子に、果実の収穫などは女の子に。しかし中には畑仕事を好まない子もいたとして、そんな子には花嫁や自分の母親が料理や刺繍などを教えることになったりしたのだろうか。
花婿は家族みんなが豊かで幸せな家庭を夢見ていたのだ。それももう叶わぬ夢となってしまったが。
そう思いながら外を眺めていた花婿に、声がかかった。

「何を見ているんだ?」

いつの間にか隣にいた死は、窓枠に寄りかかり花婿と同じように窓の外を見た。
花婿は突然の死の登場にももはや慣れたものだった。最近はよく家にいて、家の中のいたるところで死とその後をついていく月の姿を見かけていた。だからそろそろ死の気配を察した月も部屋から出てくるだろう。
花婿は死に顔を向けることなく質問に答えた。

「お前が作った立派な葡萄畑だ」

「はは。畑仕事専門のお前にそう言われると嬉しいね。夢見た家族と共に、もっと大きくしていくことができなくて残念だったな」

「…お前…」

先ほどまでの花婿の心の中を読んだかのようにくすくすと笑う死にふつふつと不快さが溜まっていくが、反論すればそれこそ相手の思う壺だ。花婿は死を睨み付けながらも、それ以上は何も言わなかった。
口を閉ざした花婿に、死は言葉を浴びせ続ける。

「そういえば、お前はまだ初心なのか」

「な…」

あまり人の前では話せない性事情で しかも図星を突かれ、動揺した花婿はつい反応してしまった。
死はそんな花婿を見逃さなかった。

「おやおや。交わることを知らずに死んでしまったとは、可哀想に。あれに勝る快楽はそうそうない」

死がそう言っている時に、どこかからガチャ…と扉が開く音がしていた。月が部屋から出てきたのだろう。しかし花婿と死がその音を気にすることはなかった。

「お前も男だ。興味あるだろう?」

「…うるさい」

「ふふ。試してみるか?」

死は衣装の前をはだけさせ、白い肌をちらりと覗かせた。
しかし花婿は死を、というか男をそういう目で見たことなんてない。

「結構だ」

そう突っぱねていると、月がのそのそと部屋にやってきた。
それに気付いた死は、月を指さす。

「私が嫌なら月を抱くか?あの子もお前と同じく、まだ前も後ろも真っ白のかわいい子だよ」

指をさされた本人は状況や意味がよく分かっておらず、「?」と首を傾げていた。
そんな死の狂った提案に、花婿は苦い顔をする。
何故自分と同じくらいの背丈の男を抱かなければいけないのか。そもそも何故男を抱くこと前提なのか。この空間には男しかいないのだから死から「俺(男)が嫌ならあいつ(男)を抱くか?」という言葉が出たのも理解不能だ。概念には性別なんて関係ないのか。やはり自分と目の前のふたつは違う存在なのだ。

とにかく

「俺に男を抱く趣味はない」

花婿はそう言い放ったのだった。
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